decorative
Strategist’s Corner

市場の集中が終わる理由

本稿では、インデックスの集中は長期化する可能性があるものの、歴史が示すように、競争の激化により利益と市場の集中はいずれ転換する可能性があるとの、グローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します

概要

  • 現在生じているインデックス構成銘柄の集中は、企業利益の集中と、その利益が長期に亘り持続するという投資家の期待を反映したものであり、パッシブ資金の流入によるものではありません。
  • 競争の激化は最終的に収益率を低下させ、利益を生み出す企業の裾野の拡大につながります。
  • AIは、参入障壁を引き下げ、新たな競争を促すことで、この流れを加速させる可能性があります。

インデックスは企業利益のスコアボード

現在のインデックスの集中は、時価総額加重型インデックスの仕組みやパッシブ運用の拡大によって生じたものだという見方をよく耳にします。しかし、そうした見方は、市場の集中を反映する仕組みと、集中を引き起こす経済的要因とを混同している可能性があります。

インデックスの集中は、実体経済から始まります。企業利益やフリー・キャッシュフローの大部分を少数企業が占めるようになると、投資家は高い成長と資本収益率が今後も持続すると期待し、結果としてバリュエーションにプレミアムが上乗せされます。そこで初めて、時価総額加重型インデックスの集中が生じるのです。

端的に言うと、時価総額の集中が発生する要因は2つあります。ひとつは利益の集中、もうひとつは、その利益が今後どの程度持続するかという投資家の期待を反映したバリュエーションです。

図表1が示すように、S&P500における上位10銘柄の時価総額構成比率と、それら企業の利益がS&P500全体の利益に占める割合は、これまで概ね連動して推移してきました。

Exhibit 1: S&P 500 Top 10: Index Weight vs Net Income Share from 1990 to present

1990年代後半に示唆に富む事例がありました。当時、現在ほどパッシブ運用が普及していなかった中で、市場集中度が急上昇しました。当時と現在に共通してみられるのは、利益の集中と、その持続性に対する投資家の確信です。特定の運用手法ではありません。

また、時価総額の集中度は利益の集中度から乖離することもあります。投資家が織り込む企業利益の持続期間やバリュエーションが変化するためです。1990年代後半は時価総額の集中が利益の集中に先行して高まった局面がありましたが、現在は両者の整合性は当時より高い状態にあります。重要なのは、そうした利益がどの程度の期間持続可能なのかという点です。

パッシブ資金の流入は、すでに生じているインデックスにおける構成比率の集中をさらに高める可能性はあるものの、需要の創出や価格決定力、利益率、投下資本収益率を生み出すわけではありません。インデックスは、どの企業が顧客を獲得し、優れた収益性を実現するかを判断するものではなく、その結果を反映するものです。利益を試合に例えるとしたら、インデックスはスコアボードに過ぎません。

市場の集中はどのように解消するのか

企業が卓越した収益率を上げると、資本の流入や新規参入を呼び込みます。流入した資本により供給が拡大し、顧客の選択肢が増えることで、価格に下押し圧力がかかり、既存企業は競争力維持のために追加投資を迫られます。その結果、既存資産の収益率がしばらく高水準を維持したとしても、新たに投じられる資本から得られる収益率はやがて低下します。

これが、我々が近年繰り返し論じてきた「資本サイクル」です。鉄道や通信網の発達は経済に変革をもたらしました。しかし、それらが呼び込んだ投資と競争は最終的に過剰供給を生み出し、収益率を低下させました。技術革新は現実であり、その影響も持続しましたが、少数の企業に並外れた利益の集中が永遠に続くという前提は、想定ほど長くは続きませんでした。.

市場集中の解消は、時価総額上位企業の衰退や成長の停滞以外にも、様々な理由で起こり得ます。利益成長の減速、競争優位を維持するための支出の増大、新規投資の収益率の低下、投資家が予想する競争優位性の持続期間が短期化し、その結果バリュエーションが低下することなどです。実際、これらの要因はすでに起こり始めています。

市場の集中は、集中度が高くなったために終わるのではありません。競争環境の変化により終わるのです。

AIがサイクルを加速させる

こうした変化をAIが加速させています。投資家はAIが現在の市場リーダー企業にもたらす恩恵に注目していますが、AIが将来の競合企業に追い上げの機会を与える側面については過小評価している可能性があります。

AIの普及により、事業の立ち上げと運営に要する最低限の規模は縮小しています。かつては大規模な組織や一定数の固定人員を必要としたリサーチ、プログラミング、マーケティング、顧客サービス、管理業務といった機能は、現在では外部サービスの利用や自動化が進んでいます。AIは新規事業の成功を保証するものではありませんが、参入を試みるコストを引き下げています。そして、足元では、実際にそうした新規参入の試みが急増しています。

Exhibit 2: US Business Applicatoins, SA (3-Month Moving Average) from 2004 to 2024

したがって、米国における新規事業の設立申請件数の急増は注目に値します。設立申請の段階ではまだ実際の事業開始には至っておらず、その時期だけをもって件数の増加が必ずしもAIによるものとは断定できないものの、この傾向は、企業設立の参入障壁が低下し、既存企業が築いてきた利益基盤が脅かされつつある可能性と整合しています。

インデックスにはまず、「将来的に利益シェアを奪われる企業」が組み入れられる

現在の既存企業の利益基盤を脅かしている企業の多くは、依然として未上場です。そのため、ベンチマークは「将来的に利益シェアを獲得する企業」を組み入れるよりも何年も前から、「将来的に利益シェアを奪われる企業」を高水準で組み入れているといえます。

利益シェアを獲得する企業は1社だけとは限りません。小規模な競合企業が多数集まることで既存企業の市場を細分化させ、価格競争を促進し、その恩恵が顧客へ移転されることもあります。その結果、経済全体の価値は向上する一方、現在のインデックス上位企業が獲得する利益シェアは低下する可能性があります。

ただし、すべての競争優位性が弱まるわけではありません。我々が今年執筆した複数のレポートで繰り返し強調してきたように、独自データ、信頼性の高い業務プロセス、規制に守られたシステム、販売網、顧客との関係などは、AIの普及によってむしろ価値が高まる可能性があります。投資機会は、競争優位が一段と強化される企業と、投資家が想定するほどには収益性が持続しない企業とを見分けることにあると考えます。

重要なのは、どの企業がAIを導入するかということではありません。ほぼすべての企業がAIを導入すると思われ、その中で成功する企業は、人的資本とトークン資本を適切に組み合わせることができる企業であると考えます。真に重要なのは、コスト上昇と競争激化が進む環境において、企業の成長率、利益率、投下資本収益率に対する現在の期待が妥当な水準にあるかどうかです。

そのため、多くのアクティブ運用のポートフォリオは、上位銘柄群の保有比率をベンチマークより低位に抑えています。これは必ずしも大型株を敬遠しているということではなく、異例の高い収益性が永続すると仮定することへの慎重な姿勢を反映しています。こうした規律は、利益とインデックス構成比率の集中が続く局面ではパフォーマンスの重しとなり得ます。しかし、資本サイクルが転換し、収益率が低下し、市場の主役が入れ替わる局面では奏効する可能性があります。時価総額加重型インデックスは株価変動に追随するのみですが、アクティブ運用マネジャーは、スコアボードが変化する前にポジションを構築することが可能です。将来的に利益シェアを獲得する企業全てを識別する必要はありません。将来的に利益シェアを奪われる企業を回避することも、同じくらい重要であると考えます。

結論

パッシブ資金の流入は、現在の市場集中を増幅させる可能性はあるものの、その根底にある利益基盤を生み出したわけではありません。また、競争環境の変化によって事業の経済性が変われば、その利益基盤を維持することもできない可能性もあります。過去と同様に、現在の市場集中がどのように終わるかを決定するのはインデックスの仕組みではなく、競争です。パッシブ運用は、結果を反映しているに過ぎないのです。

 

S&P500指数は、米国の幅広い株式市場を対象とした指数です。指数に直接投資することはできません。

「Standard & Poor's®」およびS&P「S&P®」はStandard & Poor's Financial Services LLC(以下、「S&P」といいます)の登録商標であり、Dow JonesはDow Jones Trademark Holdings LLC(以下、「Dow Jones」といいます)の登録商標です。S&P Dow Jones Indices LLCはこれら登録商標の使用許諾を受け、MFSは特定の目的のためにサブライセンスを受けています。S&P 500®はS&P Dow Jones Indices LLCの商品であり、MFSはこの使用許諾を受けています。MFSの商品は、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、またはそれぞれの関連会社によって出資、保証、販売、または販売促進されておらず、また、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、それぞれの関連会社は、かかる商品への投資の妥当性についていかなる表明も行っていません。

当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきではありません。

すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

ご利用にあたっての注意事項

執筆者

Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト

69084.1
close video