米国景気サイクルを通じたファクター動向とパフォーマンスの関係
執筆者
Jed Stocks, CFA
ポートフォリオ・マネジャー
Jeffrey D. Morrison, CFA
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
Nathan G. Bryant
クオンツ・ポートフォリオ・
マネジャー
概要
- 米国の景気サイクルを通じたファクター動向を分析したところ、経済活動の変動や景気局面の違いが各ファクターのパフォーマンスに影響している可能性が示唆されました。
- 本分析は、景気サイクルを判定する指標として広く利用されている経済協力開発機構(OECD)の米国景気先行指数(CLI)を用い、「回復」、「拡大」、「減速」、「後退」の4つの局面に区分して検証を行っています。なお、各局面の継続期間や規模は一様ではありません。
- 分析対象は、1995年10月から2026年2月までの期間であり、同期間のOECDコンポジット先行指数(米国)の月次データを使用しています。
- 本稿では、バリュー、モメンタム、サイズ、低ボラティリティなどの主要ファクターを対象に、景気サイクルの各局面におけるパフォーマンス特性を整理します。
これまでの実証研究から、主要ファクターは、投資リターンへの寄与において一定の持続性を有することが確認されている一方、短期から中期の時間軸では、景気局面ごとに有効となるファクター、投資スタイル、セクターが異なることが示されています。本分析は、こうした景気サイクルにおけるマクロ経済変数と市場リターンとの相互の関係、サイクルを通じた特定ファクターの持続性、ファクター間の相関の低さ(分散効果)といった観点について、有益な示唆を提供するものです。
本分析で特定された景気局面
本分析から得られた結果は、概ね直感的にも理解しやすく、他の手法に基づく米国景気サイクルにおける典型的なリスクオン/リスクオフ環境とも整合的なものとなっています。本稿では、景気サイクルを以下の4つの局面に分類しています。
- 回復局面:指数は100を下回るものの、上昇基調にある局面
- 拡大局面:指数は100を上回り、かつ上昇基調にある局面
- 減速局面:指数は100を上回るものの、低下基調にある局面
- 後退局面:指数が100を下回り、かつ低下基調にある局面
各景気サイクルには一定の共通点が見られるものの、それぞれ進行の形態には差異がみられます。OECDの米国CLIは、景気局面が必ずしも同じ順序で推移するわけではないことも示しています。1つの景気サイクルの中に、より(短期的な)小さなサイクルが内包される場合もあります。また、こうした景気局面の推移には、米連邦準備制度理事会の金融政策が大きく影響していると考えられます。
OECDのCLIに基づく過去の景気サイクルを用い、9つの主要投資ファクターのパフォーマンス分析を行いました。各ファクターの定義は以下の通りです。(詳細な定義については巻末をご覧ください。)
配当利回り:1株当たり年間配当を株価で割った指標
業績予想修正:今後12カ月の利益見通しに対するアナリスト予想の修正比率
レバレッジ:デット・エクイティ・レシオ、株主資本比率、流動比率、当座比率、およびインタレスト・カバレッジ・レシオ等に基づく指標
低ボラティリティ:複数の投資時間軸におけるトータル・リターンの標準偏差
市場ベータ:市場リターンに対する個別銘柄の感応度
株価モメンタム:直近12カ月の株式トータル・リターンから直近1カ月のリターンを差し引いた値収益性:資産および自己資本に対する利益率、売上総利益率、純利益率、営業利益率、投下資本利益率等
サイズ(規模):株式の時価総額
バリュー:株価純資産倍率(PBR)、株価収益率(PER)、配当利回り、フリー・キャッシュフロー利回り、益回り等
各景気局面におけるファクター別パフォーマンスの評価にあたっては、平均リターン、調整済みt値、ヒット率(勝率)を基に、各ファクターが相対的に優位または不利となる局面を判定しました。図表2は、回復局面および拡大局面において相対的に優位であったファクター(市場ベータ、小型株、バリュー)を左側に、減速局面および後退局面において相対的に優位であったファクター(低ボラティリティ、収益性、株価モメンタム)を右側に示しています。
パフォーマンスを主導するファクターは概して景気局面ごとに
入れ替わる傾向が確認されます。
図表3は、米国の景気サイクルとファクター・パフォーマンスの関係を示したものです。パフォーマンスを主導するファクターは、概して景気局面ごとに入れ替わる傾向が確認されます。
図表3から、以下の点が読み取れます。
- 回復局面:市場ベータ、小型株、バリューが相対的に高いリターンを示す一方、収益性は低調な傾向
- 拡大局面:バリュー、株価モメンタム、業績予想修正が優位となる一方、低ボラティリティは低調な傾向
- 減速局面:業績予想修正、株価モメンタム、低ボラティリティが優位となる一方、市場ベータは低調な傾向
- 後退局面:低ボラティリティ、収益性、バリューのファクター・リターンが相対的に高いリターンを示す一方、市場ベータやレバレッジは低調な傾向
本分析は、過去の景気循環への理解を深める視点を提供するとともに、ファクター・
パフォーマンスを解釈するうえでの重要な手がかりとなるものです。
本分析から得られる主な示唆
- 米国の景気サイクルとファクター・パフォーマンスの間には、明確な関係性が確認されます。
- 一部ファクターは、特に景気後退局面において、他の局面と比較して顕著に高い、または低いリターン特性を示す場合があります。
- 本分析は、市場環境の把握、およびファクター循環(サイクル)を理解するうえで有用な示唆を提供します。
ただし、時間の経過とともに、ファクターと経済指標との関係には乖離が生じ得る点には留意が必要です。
本分析は、過去の景気循環への理解を深める視点を提供するとともに、ファクター・パフォーマンスを解釈するうえでの重要な手がかりとなるものです。 今後は、本分析で用いたフレームワークを基に、個々のファクターの特性についてさらに詳細な検証を進める予定です。
前提条件と分析手法OECDコンポジット景気先行指数(CLI)は、各国の景気サイクルの参照系列であるGDPに対して概ね先行して動く総合的な経済指標です。この指標は、経済的重要性、景気サイクルとの連動性、データの信頼性など、複数の基準に基づいて選定されたさまざまな指標を組み合わせて算出されています。CLIは定量的に将来の経済を正確に予測するための指標ではありませんが、多数の基準に基づいて構成されているため、景気サイクルの転換点を比較的早期に捉える指標として有用とされています(OECD System of CLIs参照)。なお、CLIは月次で公表されています。 当指数は1970年代に初めて導入されて以降、経済動向を評価する指標の1つとして広く受け入れられてきました。また、CLIはGDPギャップ(実質GDPと潜在GDPとの差を潜在GDPで除したもの)を反映するよう設計されており、景気の過熱や停滞の度合いを示すシグナルを提供します。 景気の転換点は、分析期間の開始時点を100とする基準値に基づいて特定されます。指数が100を上回るか下回るかに加え、そのトレンドの方向性を踏まえることで、景気サイクルの各局面が判定されます。 ファクターの定義バリュー:以下の指標を均等加重して組み合わせます。 株価純資産倍率(PBR):企業の簿価(株主資本および利益剰余金の合計)を株価で除した指標です。企業の本源的価値を測る代表的な指標の1つとされます。 益回り(PERの逆数):調整後の1株当たり年間利益を株価で除した指標です(無形資産償却や特別損益等を調整)。企業の税引き後利益に対して株価がどの程度裏付けられているかに基づき、株式の価値を評価します。 キャッシュフロー利回り:1株当たり年間キャッシュフローを株価で除した指標です。益回りと関連しますが、減価償却や各種引当金等を含む企業が創出する実際に利用可能な現金収益に基づき、株価に対する価値(割安度)を評価する指標です。 売上高利回り(PSRの逆数):1株当たり売上高を株価で除した指標です。企業の事業を支える年間売上規模に基づいて株式の価値を評価します。売上は他の指標に比べて操作されにくいとされていますが、企業活動の全体像を十分に反映しない点には留意が必要です。 EBITDA対EV倍率の逆数:企業価値(Enterprise Value)に対して、どれだけのキャッシュ創出力(EBITDA)を生んでいるかを示す指標です。企業価値に対する収益力を通じて、投資収益率(ROI)を評価するために用いられます。 予想益回り:今後1年間のコンセンサス予想EPSを株価で除した指標です。 フリー・キャッシュフロー利回り:1株当たりキャッシュフローから設備投資を差し引き、株価で除した指標です。フリー・キャッシュフローとは、固定資産の維持および更新後に企業に残るキャッシュを指し、企業が自由に使える資金創出力に基づき価値を評価します。 株価モメンタム 過去1年および6カ月のトータル・リターンを組み合わせた指標です。 収益性:以下の指標を加重平均して合成されます。 自己資本利益率(ROE):当期純利益を株主資本で除した値で、企業が保有する自己資本に対してどの程度効率的に利益を生み出しているかを示す、収益性指標の一つです。また、 ROEに再投資率(利益のうち配当として支払われず内部留保される割合)を乗じることで企業の理論的な成長率が導かれることから、企業の成長力を測る伝統的な指標とされています。 投下資本利益率(ROIC):企業の純利益に利払い費用(税効果調整後)を加えたものを、投下資本で除した指標です。投下資本(株主資本および有利子負債等)全体に対して、どの程度効率的に利益が創出されているかを示し、企業への投資に対する収益性(資本効率)を測る指標として用いられます。 総資産利益率(ROA):企業の利益(利払い費用を調整したベース)を総資産で除した指標です。企業が保有する資産全体をどの程度効率的に活用して利益を生み出しているかを示し、資産の運用効率(オペレーション効率)を測る指標です。このため、経営陣がどれだけ効率的に資産を活用して収益を上げているかを把握するうえで有用です。 売上総利益率:売上総利益を売上高で除した指標です。広告費や研究開発費、設備投資などを差し引く前の段階の利益であるため、これらの支出が企業の競争力を高める投資である場合、利益やフリー・キャッシュフローよりも、企業の本源的な収益力を適切に捉えられる場合があります。 営業利益率:営業利益を売上高で除した指標です。利払いおよび税引前の利益に基づいて、企業の本業における収益性、すなわち事業運営の効率性と収益力を測定します。 配当利回り 1株当たり年間配当額を株価で除した指標です。株式を保有することでによって得られる配当収益所得に基づき、インカム収益の観点から企業株式の価値を評価測定する指標です。 業績予想修正 今後12カ月のコンセンサス利益予想の変化率(FY1・FY2を加重平均して算出)。アナリストによる業績見通しの上方・下方修正を通じて、企業の将来収益に対する市場の期待の変化を捉える指標です。 レバレッジ:以下の指標の均等加重により構成されます。 負債比率:総負債を株主総資本で除した指標(株主資本に対する負債の割合)で、企業の財務レバレッジ(資本構成における負債の活用度)を測るものであり、株価変動リスクの1つの要素を示します。一般に、この比率が高いと、企業業績の変動が配当支払いの変化などを通じて株価に反映されやすくなります。ただし、業種ごとの特性や金利環境の影響を受けやすいため、他のリスク指標とは区別して評価されます。 総資産倍率:総資産を株主資本で除した指標で、企業がどの程度レバレッジ(借入など)を活用して資産を形成しているかを示すものであり、企業の資金調達構造(財務レバレッジの利用度)を把握するために用いられます。 インタレスト・カバレッジ・レシオ(金融セクター除く):EBIT(利払・税引前利益)を、直近1年間の利払い費用で除した指標で、企業が債務に対する利払いをどの程度余裕をもって行えるか、すなわち債務返済能力の高さを評価するために用いられます。本指標は金融機関には適用されません。 低ボラティリティ:以下の指標を均等加重して構成されます。 市場ベータ:個別銘柄の月次リターンと市場全体の月次リターンとの関係を回帰分析により求めた係数(β)です。回帰式:個別銘柄の月次リターン=a+β×市場の月次リターン+誤差項。過去36カ月間のデータに基づいて算出し、データが不足する場合はβ=1と仮定します。この指標は、市場全体の動きに対する株価の感応度(連動性)を示します。 ボラティリティ(3カ月):直近3カ月間のトータル・リターンの標準偏差を年率換算した指標です。短期的な価格変動の大きさを示します。 日次ボラティリティ(1年):過去1年間の日次トータル・リターンの標準偏差を年率換算した指標です。より長期的な価格変動の大きさを示します。 時価総額:前営業日時点の株式時価総額で、市場規模を補完的に考慮します。 |
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