日本経済の再始動:デジタル・トランスフォーメーションを通じて株式の潜在力を解放
執筆者
布施 亮
株式インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
Carl Ang
債券リサーチ・アナリスト
Ross Cartwright
リード・ストラテジスト
ストラテジー・アンド・
インサイト・グループ
概要
- 日本の慢性的な労働力不足と賃金の上昇は、低インフレから中程度のインフレへの構造的な転換をもたらしています。
- 企業は生産性の向上と労働力不足への対応を目的に、デジタル・トランスフォーメーションへの投資を加速させています。
- ITサービス分野、特にシステムインテグレーターが、こうしたトレンドの恩恵を受けしばしばGDP成長率を上回る成長を遂げており、日本経済の近代化を支えています。
パンデミック後の日本における労働市場とインフレ正常化
日本が抱える人口動態の課題、すなわち高齢化と人口減少は、パンデミック以降、多くの分野で労働力不足を一層深刻化させています。労働市場は長期にわたって逼迫しており、名目賃金は数十年ぶりに上昇しています。労働供給の拡大は、主に女性と高齢者の労働参加率の上昇によって支えられてきましたが、それも限界に近づきつつあります。こうした構造的な高インフレ環境下、若年層を中心に労働力移動が増加している明確な兆候が見られます。時間の経過につれ、この変化は、低生産性セクターから高生産性セクターへの労働力の再配分を通じて、経済成長を下支えする可能性があります。
日本の労働市場が長らく逼迫してきたことで、極めて低いインフレから中程度で持続的なインフレへと大きな転換をもたらしています。当初のインフレ圧力は、パンデミックに関連するサプライチェーンの混乱やエネルギー・食料品価格の上昇から発生し、円安によって増幅されました。しかし、この継続的なインフレは構造的な変化の兆候を示していると考えます。日本企業は、賃金やその他の投入コストの上昇もあり、利益率を守るために、一般的なコストの増加分以上に最終価格を引き上げる意欲を高めています。企業が予想するインフレ率は、現在、日銀のインフレ目標である2%を大きく上回っており、この予想インフレ率の変化はデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みなど、省力化や労働生産性向上への投資を促しています。特に、宿泊、飲食サービス、小売、建設など、労働集約型の分野でソフトウェア投資が急増しています。
株式投資の視点から:DXを長期的な機会として捉える
株式投資の観点から、省力化技術への投資は持続的かつ魅力的な機会であると考えられます。日本の長期にわたるデフレと保守的な経営姿勢により、国内企業はデジタル投資や生産性向上の面で後れを取ってきました。しかし、最近のインフレ率の上昇を受け、DXへの資本流入が、以下のような分野で活発化しています。
- 業務プロセスの自動化
- 在庫やサプライチェーン管理のためのクラウドベースのシステム導入
- レガシーITインフラの更新とAIプラットフォームへの移行
企業のDX投資予算は着実に増加しており、賃金上昇圧力や収益性への注力に伴 い、この傾向はさらに加速すると予想されます。
このDX投資のトレンドの恩恵を受けるのは、主にITサービス業界、特にコンサルティングやシステム設計を通じてDXを支援するシステムインテグレーターです。これら企業は、過去10年以上にわたり、GDPを2~3%上回る売上成長を継続的に達成しており、コロナ禍においてすらDX予算を維持してきました。この耐性は、日本が新たなインフレ環境に適応する中で、デジタル投資の勢いが継続するのみならず、加速する可能性が高いことを示唆しています。
結論
日本の労働市場とインフレ動向の変化は、企業行動に構造的な変化を促しており、生産性向上やDXへの投資が増加しています。これは、特に技術革新や業務効率化を促進する分野において、投資家に魅力的な機会をもたらす可能性があります。日本のITサービス業界は、時にGDPを上回る成長を遂げ、経済の近代化を支えてきたことから、長期的な視点で注目する価値があると考えられます。
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