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Big Mac:短期金融商品の資産配分に関する考察-キャッシュへの配分を引き下げる時期に

本稿では、今後は短期金融商品はクレジットをアンダーパフォームする可能性が高いと考えられ、短期金融商品に代わる魅力的な選択肢として一部のクレジット・リスクへの配分を選好する理由をご説明します。

執筆者

Benoit Anne
マネージング・ディレクター
インベストメント・ソリューション・グループ

 

ここ数カ月、キャッシュ(短期金融商品)は人気の資産クラスとなっていました。「米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締め懸念」が続くマクロ経済環境の下、短期金融商品は金利上昇や深刻なリスクオフ・ショックに対してある程度のヘッジ効果が期待できると同時に、妙味のある利回りを提供してきたことがその背景です。しかし、こうしたマクロ経済環境は大きく変化しつつあります。現在はフェデラル・ファンド(FF)金利がピークかそれに近い水準に達していることから、今後は、譲渡性預金(CD)をはじめとする短期金融商品はクレジットをアンダーパフォームする可能性が高いと考えます。我々は、短期金融商品に代わる魅力的な選択肢として、一部のクレジット・リスクへの配分を選好します。

FRBの引き締めサイクルが事実上終わりを迎えたことから、今後、短期金融商品はクレジットをアンダーパフォームする可能性が高いと考えます。歴史的に見ても、FF金利のピークが大きな転換点となり、短期金融商品は債券に対してアンダーパフォームに転じる傾向があります。本稿では、長期データを入手しやすい米国の3カ月物CD金利を用いて、短期金融商品のパフォーマンスを分析します。図表1に示した通り、FF金利と3カ月物CD金利との間には極めて高い相関があります。つまり、歴史的にCD金利はFRBの政策金利によって決まってきたと言えます。

歴史的に見て、FF金利がピークに達した直後に短期金融商品が短期クレジットに対してアンダーパフォームに転じています。FRBが1982年以降に行った金融政策のデータを分析したところ、6回の引き締めサイクルがありました。全体としては、図表2で示した通り、FF金利のピークから平均3カ月後に短期金融商品のパフォーマンスが短期クレジットを下回っており、短期金融商品と比較したクレジットのリターンは、FRBの利上げサイクルがピークに達した直後にプラス圏を回復する傾向があることが確認できます。

短期金融商品のアンダーパフォーム幅は時間とともに拡大する傾向があります。歴史的に見て、FRBの引き締めサイクルが終了した直後の数カ月間は、短期金融商品はクレジットを小幅にアンダーパフォームする程度です。例えば、FF金利のピークから3カ月後を見ると、短期金融商品の短期クレジットに対するに対するアンダーパフォーム幅は平均0.94%にとどまっています。しかし、その後、アンダーパフォーム幅は拡大して9カ月後には平均3.6%に達し、10カ月後以降も高水準で推移しています(図表3)。

現在は、既にFF金利のピーク到達から2カ月後(T+2)に入っている可能性があります。直近の7月の利上げ以降、FRBが引き締めを完了したかどうかについてはまだ見方が分かれていますが、我々は引き締めサイクルは事実上終了したか、あるいは終了間近であると考えています。現在の状況を見ると、FRBの利上げが既にピークに達しているとの見方を裏付ける説得力ある根拠が多数あります。特に、ディスインフレがかなり進展していることから、FRBはますます安心感を強めているとみられます。本当に「T+2」に入っているとしたら、我々が分析した過去のデータに基づくと、短期金融商品は間もなくアンダーパフォームに転じることになります。

現在のFRBの政策金利の水準を踏まえると、短期市場金利は今後数四半期にわたって低下すると思われます。上述したように、短期市場金利の主な変動要因はFF金利です。現在、FF金利先物は、2024年第3四半期には利下げが開始され、同年末までにFF金利が4.96%に引き下げられる可能性を示唆しています。こうした金利の動向は、短期金融商品のパフォーマンス見通しの低下につながる可能性があります。

マクロ経済環境を踏まえると、クレジット・リスクへの配分を増やすことは理にかなっていると考えています。具体的には、ここ数週間でマクロ経済見通しが改善し、景気後退懸念がやや和らいだといえます。ソフトランディングを見込む根拠が強まり、ディフェンシブ性の高い資産への配分を高める理由は弱まっているように思われます。ソフトランディングとなれば、景気後退に陥ってスプレッドが急激に拡大するというリスクが後退します。これは、債券にとって重要な動きと言えます。一方で、今回の利上げサイクルのペースと規模を考えると、さらなる積極的な引き締めのリスクは低いと思われることから、債券への投資に前向きとなるべき局面にあると考えます。景気循環指標は、成長が大きく鈍化するリスクが依然として残るものの、景気後退リスクが著しく低下していることを示唆しています(図表5)。

最近の市場金利の上昇には、正当な理由があります。昨年の金利の調整は、主にインフレ・ショックによるものでしたが、もはやそうではなくなりました。最近の金利の上昇は成長見通しの改善を反映していると思われます。とはいえ、先行きを見通すと、金利の上昇が持続可能とは考えにくいとみられます。市場金利は高水準で安定し、金利のボラティリティは低下すると見ており、こうした状況が長期債のリターンに追い風になると考えています。

短期クレジットのバリュエーションは非常に魅力的であると見ています。まず、現在の短期クレジットの利回りは約6.0%と、歴史的に見てもかなり高い水準にあり、現在のCD金利を60ベーシス・ポイント(bp)程度上回っています(図表6)。これは、デュレーション1.8年を想定した場合、短期クレジットの指数の利回りが30bp上昇すると、3カ月物のCD金利のパフォーマンスと同水準になる計算です(同期間にCD金利が変化しないと仮定した場合)。また、投資開始時の利回りが高いほど、リターンが低下するリスクが低減されます。図表7は、複数の金利とスプレッドの動きに関するシナリオを想定し、様々な組み合わせで1-3年の米国投資適格社債の1年リターン予想を示したものです。全体を見ると、1年リターンがマイナスになるのは、極端なシナリオの場合(赤で示した箇所)のみです。

過去のデータは、投資開始時の利回りとその後のリターンの間に密接な関係があることを示唆しています(図表8)。

以上を踏まえ、FRBの引き締めサイクルが終わりを迎えようとしている今、キャッシュへの配分を引き下げる時期に来ていると考えています。この先、キャッシュは短期クレジットをアンダーパフォームする可能性が高いと思われます。我々は、魅力的なバリュエーション、成長見通しの改善、良好なインフレ動向を踏まえ、キャッシュの代替投資先として一部のクレジット・リスクを強気に見ています。

 

巻末脚注

BCIには、次の変数が組み込まれています。新規失業保険申請件数(米労働省)、住宅建築許可件数(米国勢調査局)、フィラデルフィア連銀による景況調査のディフュージョン・インデックス(フィラデルフィア連銀)、新築住宅販売件数(米国勢調査局)、消費者信頼感指数(ミシガン大学)、消費者信頼感指数(コンファレンスボード)、4地区連銀調査から集計した設備投資予測指数(ニューヨーク、リッチモンド、ダラス、カンザスシティ、フィラデルフィア)、ISM新規受注件数(サプライマネジメント協会)、企業利益率変化(米経済分析局)、企業利益成長率(米経済分析局)、企業利益率水準(米経済分析局)、需給ギャップ(米議会予算局)、米国消費者物価指数-エネルギー(米労働統計局)、NY連銀製造業景気指数(ニューヨーク連銀)、全米住宅建設業者協会住宅市場指数(NAHB)、NFIB中小企業楽観指数(NFIB)、住宅着工件数(米国勢調査局)、米銀貸出態度調査、中小企業向け商工ローンの融資基準を引き締めたと答えた回答者数の割合(FRB)、ISM製造業景況感指数(サプライマネジメント協会)、ISM非製造業景況感指数(サプライマネジメント協会)、投資比率:固定投資対GDP比率–内挿法により月次の時系列に変換(米経済分析局)、報酬率の変化。従業員が受領した個人所得対GDP比率の12カ月間の変化(米経済分析局)、単位労働コスト(米労働統計局)。

 

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