エマージング債券は、グローバル債券ポートフォリオにおける戦略的な資産クラスへと進化しています。背景には、世界のマクロ環境とエマージング債券の特性の両方における根本的な変化があります。
この変化を後押ししている構造的要因として、以下の3つが挙げられます。
- 一部先進国におけるマクロリスクの高まり
- エマージング市場のファンダメンタルズおよび制度面の信認の向上
- ポートフォリオに分散効果をもたらす資産としてのエマージング債券の存在感の向上
世界のリスクがこれまで以上に広範化かつ複雑化し、国や地域を越えて波及する環境下において、エマージング債券は単なる利回り向上のための投資対象ではなく、長期的な分散投資の源泉としての位置付けを強めています。
我々の投資哲学もこうした変化を反映しています。エマージング債券は戦略的な資産配分対象として捉えるべきであり、アクティブ運用と堅固なリスク管理を組み合わせることで、その効果を高めるとともに、複数の市場サイクルにわたって超過収益の獲得が可能になると考えています。
レジームの転換:先進国市場がボラティリティの発生源に
世界のマクロ環境は大きな転換期を迎えています。従来、先進国市場は世界の金融システムの安定の礎と見なされてきましたが、近年ではむしろマクロ経済の変動要因としての側面が強まっています。貿易摩擦、政策の不確実性の高まり、財政負担の増大、そして根強いインフレを背景に、金利やクレジットスプレッドは大きく変動しています。そうした状況を受け、投資家は、先進国資産に偏重した債券ポートフォリオに内在するリスクの集中を見直し始めています。
こうした見直しの背景にあるのは、先進国経済における債務の持続可能性に対する懸念の高まりです。利払い費の増加、慢性的な財政赤字、増大する社会保障関連支出によって、米国、欧州、日本の政府のバランスシートへの注目が高まっています。加えて、財政再建を進めるうえでの政治的制約も今後の見通しをさらに複雑にしています。こうした要因は、先進国債務は本質的に低リスクであるという長年の前提に疑問を投げかけるものであり、将来のボラティリティ、信用格付けの推移、政策運営への信認に関する新たな課題を浮き彫りにしています。図表1に示すように、G7諸国では財政運営が大きな課題となっており、なかでも米国の財政見通しは先進国の中でも厳しい部類に入ります。
一方で、エマージング市場のファンダメンタルズは改善が進む
一方、エマージング市場はファンダメンタルズが大幅に改善した状態でこの局面を迎えています。慎重な財政運営、外貨建て借入への依存度低下、対外収支の改善を背景に、一部のエマージング諸国は外的ショックに対する耐性を高めています。我々は、エマージング市場の財政再建は今後も継続すると考えています(図表2参照)。インフレ目標制度の定着が進み、パンデミック後のインフレ高進を受け、多くのエマージング諸国中央銀行が先進国に先駆けて金融引き締めを実施しました。その結果、一部の発行体ではバランスシート指標や制度面の信頼性の改善が続いており、信用力の向上を反映した格上げ傾向がみられています(図表3参照)。
ファンダメンタルズの改善がエマージング市場を押し上げ
エマージング市場を取り巻く環境には、特に先進国市場との比較において、数多くの好材料が見られます。例えば、エマージング債券のスワップ・スプレッドは2023年初以降、縮小基調をたどっています。一方、米国債利回りの対スワップ金利スプレッドは同期間に拡大しており、これは米国の大幅な財政赤字と政府債務残高の増加を反映した動きと考えられます。
こうした動向と整合的に、先進国の金利ボラティリティはここ数年間で大幅に高まりました。特に足元では、米国の政策運営に対する信認への懸念を背景に、米国債市場が持つ「安全資産」としての地位が脅かされています。こうした環境下で注目すべき点として、エマージング市場の現地通貨建て債券の利回りボラティリティは、現在では先進国市場を大きく下回っていることが挙げられます。これは、グローバルなリスクの中心がエマージング諸国から先進国へ移りつつあることを示唆しています(図表5参照)。
分断化するリスク環境におけるグローバル分散投資の意義
世界的なリスク要因が増加するなか、従来の分散投資手段は以前ほど機能しなくなっています。投資家は現在、地政学的分断、財政悪化への懸念、根強いインフレ、プライベートクレジット市場のストレス、気候変動リスク、人口動態の変化など、複数の課題に同時に対処しています(図表6参照)。その結果、従来とは異なるマクロ経済要因やリスク・リターン特性を提供できる資産クラスへの関心が高まっています。エマージング債券は、それぞれに異なる成長モデル、政策運営の枠組み、景気循環を持つ幅広い国々への投資機会を提供することで、少数の先進国市場への依存を低減し、マクロ面および市場面での分散効果をもたらします。
エマージング債券はもはや先進国リスクを増幅させる存在ではなく、エクスポージャーの分散に寄与
ファンダメンタルズの改善に加え、グローバル・ポートフォリオにおけるエマージング債券の役割にも変化が見られます。エマージング債券は従来、高ベータのアセットクラスみなされてきました。しかし、過去10年間で米国投資適格債に対するエマージング債券のベータは低下傾向を示しており、現在では1を下回っています(図表7を参照)。この低下は、投資家層の拡大と多様化、現地市場の深化、対外資金調達ショックへの脆弱性低下を反映している可能性があります。その結果、エマージング債券は、米国クレジットリスクを単に増幅する存在ではなく、グローバルのクレジット市場に対する見通しを反映させる分散投資手段としての役割を強めています。 本分析では、エマージング債券のうち最も低格付けのセグメントを除外しています。これらの債券は主として個別固有の要因に左右されるため、米国投資適格債とのベータが大幅に低いためです。
戦略的配分には銘柄選択が不可欠
ポートフォリオにおける戦略的な位置付けへと移行するにつれ、エマージング債券の銘柄選択の重要性が一段と高まっています。ファンダメンタルズが強固あるいは改善傾向にあるソブリン債を選好するのが賢明であると、我々は考えています。我々のクレジット銘柄選択プロセスでは、マクロ経済の安定性、政策運営の信頼性、財政および対外収支の健全性を重要な判断基準としています。また、我々のアプローチでは、マクロ面の脆弱性が大きく、十分なリスク・リターン特性が期待できないエマージング・ソブリン市場への投資は回避します。足元では、健全なファンダメンタルズを背景とする多様な投資機会がグローバル・エマージング市場に存在しています。我々は、ファンダメンタルズ分析に基づく国別配分を通じて、投資サイクル全体にわたり超過収益の獲得を目指しています。その際、特に重視しているのが下方リスクの管理です。
リスク管理も運用プロセスの重要な柱です。現在のように世界的なリスクが大きく複雑化した環境では、下方リスクの管理は戦略的なエマージング債券投資アプローチにおいて不可欠な要素であると考えます。特に市場ストレスやリスク回避局面では、十分なファンダメンタルズに裏付けられていないソブリン債は大きな市場圧力にさらされる可能性があります。こうした環境を効果的に乗り切るためには、質の高いクレジットとアクティブなリスク管理を組み合わせることが重要です。
結論
グローバル債券市場は構造的な変化局面を迎えています。先進国市場はもはや無条件の安定の拠り所とはみなされなくなり、従来の安全資産に対する見方も見直されつつあります。 一方、エマージング債券は、ファンダメンタルズの改善、投資家基盤の安定化、そして先進国クレジット市場に対するベータの構造的低下を背景に、グローバル債券ポートフォリオにおける中核的資産としての位置付けを強めています。世界的な環境が変化する中、エマージング債券は分散投資の重要性が高まっている現在において、多様なリターンの源泉を提供する資産クラスとなっています。長期投資家にとって、もはやエマージング債券は、戦術的に組み入れるべきかどうかではなく、むしろ、どのように戦略的に組み入れるかを検討する段階にあるといえるでしょう。ファンダメンタルズ重視の選別的アプローチと厳格なリスク管理こそが、この変化の恩恵を享受するための鍵になると、我々は考えます。
エマージング市場は、先進国市場に比べて市場の構造化および深化が進んでおらず、規制上、保管・管理上または運営上の監視制度が十分に発達しておらず、政治的、社会的、地政学的、経済的な不安定性が高い場合があります。
債券に投資する場合、発行体、借り手、取引相手もしくはその他の支払義務を負う主体、原資産の信用力の低下、あるいは経済的状況、政治的状況、発行体固有の状況もしくはその他の状況の変化による結果として、またはその影響により、価値が低下することがあります。特定の種類の債券は、これらの要因による影響が大きいことから、ボラティリティが上昇する可能性があります。また、債券には金利リスクが伴います(金利が上昇すると、価格は下落します)。したがって、金利上昇時にはポートフォリオの価値が減少する可能性があります。
当レポート内で提示された見解はMFS の見解であり、予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は投資助言、銘柄推奨、あるいはMFS の代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
分散投資は利益を保証するものでも、損失を防ぐものでもありません。
執筆者
BENOIT ANNE
シニア・マネージング・
ディレクター
ストラテジー・アンド・
インサイト・グループ
WARD BROWN
債券ポートフォリオ・
マネジャー
KATRINA UZUN
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー