2023年06月
現地通貨建てエマージング債券-まもなく好条件が出揃う
本稿では、各サイクルには4つの段階があり、第4段階に近づくにつれ、投資家にとってエクスポージャーの拡大が魅力的な選択肢になり得ると考えられる現地通貨建てエマージング債券についてご説明します。
現地通貨建てエマージング債券は、過去20年間にいくつかのサイクルを経験してきました。各サイクルには4つの段階があります。サイクルの第4段階では、一般的に、現地通貨建てエマージング債券のパフォーマンスは堅調です。第4段階に近づくにつれ、投資家にとって同債券のエクスポージャーの拡大が魅力的な選択肢になり得ると考えています。
現地通貨建てエマージング債券は景気に敏感な資産クラスです。なぜなら、現地通貨建て債券と通貨のバリュエーションは、当該地域の景気サイクルの状況に応じて継続的に調整される中央銀行の政策金利の影響を受けるためです。また、エマージング諸国の景気サイクルは、米国の景気サイクルに敏感に反応します。ただし、反応する程度はサイクルごとに異なっています。現地通貨建てエマージング債券の典型的なサイクルは、次の4つの段階により特徴付けられます(図表1参照)。
過去、現地通貨建てエマージング債券は4つのサイクルを経験しました(補足1参照)。
現在、現地通貨建てエマージング債券のサイクルの第何段階にいるのか?現在、第3段階であると考えています。FRBは利上げ停止に近づいています。現時点で、市場は2023年7月までに25ベーシスポイントの利上げがもう1回あることを織り込んでいます。加えて、景気先行指数は経済成長の鈍化を示唆しています。図表3は、米国の景気先行指数の推移を示したものです。この指数は、1年以内に景気後退入りすることを示唆しています。米国のイールドカーブなど他の指標も同様の兆候を示しています。また、企業利益の伸びも鈍化しています。
しかし、通常第3段階の終了の特徴となるリスク選好の低下を市場はまだ示していません。社債スプレッド、株式ボラティリティ、株式リスクプレミアムなどのリスク指標は、リスク選好が相当に低下したことを示唆するほど高い水準に達していません。
この資産クラスは、FRBが利下げを行っている第4段階の初期に投資妙味があり、その段階になって初めて現地通貨建てエマージング債券のオーバーウェイトを検討すべきと考えます。その理由は、第3段階でのリスク選好の低下により、通常、エマージング通貨と現地通貨建てエマージング債券がともに一段と下落し、投資家にとって長期的に魅力的なバリュエーションとなる可能性があるためです。
第4段階は、現地通貨建てエマージング債券への配分を進める時期として相対的に魅力的であると思われます。しかし、現段階で現地通貨建てエマージング債券への配分を一部増やすことも魅力的な選択肢になり得ると考えています。
現地通貨建てエマージング債券市場は、依然として堅調なファンダメンタルズにより支えられています。経常収支と対内債券投資の純流入を合計した基礎収支がかなりの黒字になっていることからわかるように(図表9参照)、エマージング諸国の対外純資産は堅調を維持しています。世界経済の成長鈍化に直面した場合に、潤沢な対外純資産は特にエマージング諸国の外貨準備を強靭にします。
サイクルからみた投資タイミングは、現地通貨建てエマージング債券投資の一要素にすぎないことが重要と考えます。現地通貨建てエマージング債券戦略において最も重要なのは、適切な国の選択を中心とした投資プロセスであると考えています。投資家は、グローバルのマクロ経済に基づくトップダウンの視点から現地通貨建てエマージング債券のサイクルを理解する必要があるだけでなく、同債券の投資プロセスに、確固としたソブリン・クレジット分析の枠組みを組み込む必要があります。これは、現地通貨建てエマージング債券が、エマージング通貨へのエクスポージャーを主因として、ボラティリティの高い資産クラスとなる傾向があるためです。さらに、通常、ファンダメンタルズの強さの点でエマージング諸国の中に顕著な違いがみられます。また、国別のリターンでも同様に顕著な違いがみられます(図表10参照)。そのため、強固なファンダメンタルズに支えられ、通貨価値の魅力的な上昇を見込める現地通貨建て市場に焦点を当てる必要があると考えます。現地の金融政策の動向だけでなく、デュレーション・リスクに影響を与える可能性のある現地市場のテクニカル要因を理解することも投資家にとって重要です。
現在、現地通貨建てエマージング債券のサイクルは第4段階に近づいていると考えられます。第4段階では、一般的に、同債券のパフォーマンスは堅調です。今回のサイクルも、それに当てはまると考えています。しかし、今回のサイクルが過去のサイクルといくらか違いがあることを踏まえると、現地通貨建てエマージング債券のエクスポージャーをサイクルの第4段階に先立って拡大することは魅力的な選択肢になり得ると考えています。
補足1:現地通貨建てエマージング債券の過去のサイクル
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1 2023年5月2日現在のデータ。
2 出所:Bloomberg、J.P. Morgan。J.P. Morgan GBI-EM Global Diversified Composite Unhedged USD。
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