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Fixed Income Insights
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注目が高まる債券市場:バリュエーションの難局を乗り越える

本稿では、マクロ経済の不確実性とタイトなバリュエーションの下で投資機会をいかに見出すか、そしてスプレッド拡大の可能性や、どのようにポートフォリオのポジションを取るべきかについて、債券運用部門 共同最高投資責任者のPilar Gomez-Bravoがご説明します。

執筆者 

Pilar Gomez-Bravo, CFA
債券運用部門  
共同最高投資責任者 
(Co-CIO)

概要

  • クレジットリスクは高まっているものの、抑制水準にとどまっています。一方、プライベート・クレジットは透明性の低さが投資家にとっての懸念要因であり、警戒感を示しています。
  • スプレッド市場全体で魅力的なボトムアップによる投資機会が散見されますが、バリュエーションがタイトな状況を勘案すると、ディフェンシブなトップダウンのセクター・アプローチが選好されます。
  • ボラティリティから生じる市場の変調を活用するには、潤沢な流動性を確保することが重要です。

複雑に絡み合った金融情勢、マクロ経済リスク、世界的な不確実性、財政支配、債券のタイトなバリュエーションといった要因は、足元の投資環境の複雑さを浮き彫りにしています。このような環境下においては、徹底したリサーチ、戦略的なポートフォリオ構築、流動性の確保が、重要であると考えます。

債券市場におけるリスク管理と投資機会の発掘 

クレジットリスクは高まっているものの、抑制水準にとどまっています。ただし、ゴキブリの姿は目撃されています。クレジットリスクに対して得られるスプレッドが歴史的な低水準にあり、レバレッジド・ローン、プライベート・クレジット、オフィス商業用不動産や一部の消費者ローンなどのセグメントにおいてリスクが高まる中、クレジット・ファンダメンタルズを理解することの重要性が一層高まっています。これらセクターで最近発生したデフォルトや倒産は、こうした脆弱性を浮き彫りにしています。企業がより高い負債コストで借り換えを行うことで企業のバランスシートの弱さが浮き彫りとなり、デフォルトの増加につながれば、クレジットストレスの循環性を強めることになります。レバレッジが過度な領域で問題が顕在化することが多く、通常、信用が収縮すると景気後退につながります。我々は、トップダウンとボトムアップの両面から、圧力増大の兆候への警戒を続けています。

相互関連性と低い透明性がプライベート・クレジットの課題です。プライベート・マーケットの特徴は、透明性の低さと時価評価の欠如といえます。こうした特性により、投資家はリスクの所在を把握するに十分なデータを得られず、特に与信の急速な拡大が審査基準の緩和につながりうる場合には注意が必要です。プライベート・クレジットは資産クラスとしてまだサイクルの一巡を経験していないため、正常な金利環境下でこうしたバランスシートがどのように作用するかは依然として不確実です。実体経済への伝播メカニズムの観点からは、投資ファンドが銀行システムやAI企業と結びついていることも懸念要因です。個別のクレジット・イベントがシステミックな問題へ波及する可能性が高まるためです。

消費は政府支出や金融緩和に支えられ、依然として堅調です。米国経済は消費に主導され、変動しつつも底堅く推移しています。この消費は上位10%の所得者層に大きく依存しており、その所得は、資産効果を生み出す堅調な株式市場に依存しています。同時に、米国はもとより世界的に重要な懸念材料として財政支配が浮上しており、多くの国のバランスシートの膨張や財政規律を無視したアプローチは、インフレ期待や金融の安定性への疑問を投げかけています。さらに、中国では不動産市場の崩壊による重しが続いているほか、貿易戦争も含めた地政学的リスクが高まり、不確実性が増しています。

バリュエーションは難しい水準にあるものの、個別にみれば魅力的な投資機会はまだあります。債券資産クラス全体でバリュエーションがタイトな中、我々は強固なリサーチプラットフォームを活用し、セクター、地域、格付け、資本構造をまたいだ魅力的な投資アイデアをボトムアップで発掘しています。こうした環境下、トップダウン的なスプレッドのさらなる縮小からリターンを得られる可能性が低下しているため、キャリーとキャピタルゲインの可能性を組み合わせたポートフォリオ構築に注力しています。現在、証券化商品、ディフェンシブな社債、ハイイールド債券の個別銘柄、エマージング市場のソブリン債に投資機会があると見ています。

グローバル債券のポジショニング 

低成長と抑制水準のインフレというマクロ経済環境が継続し、相対的に魅力的なグローバル債券リターンを支えるとの我々の基本シナリオは変わっていません。ほとんどの市場が低ボラティリティ、低分散であることを踏まえ、アクティブな運用アプローチで機動性を維持することが重要であると考えています。特に、今後の市場の変調を捉えるため、ポートフォリオの流動性確保に引き続き注力していきます。

社債

投資適格社債のタイトなスプレッドは、資金の流入が続いている当資産クラスの堅調なファンダメンタルズと確固たるテクニカル要因の双方を反映しています。この傾向は我々のマクロ経済の基本シナリオの通り今後も続くと見込んでいるため、わずかにオーバーウェイトを維持しつつも、ディフェンシブな姿勢を取り、またスプレッドの急激な拡大リスクに備えてヘッジも追加しています。ハイイールド社債では、格付けが相対的に低い銘柄のボラティリティが年末にかけて増大することを予想し、高ベータ銘柄へのエクスポージャーを戦術的に引き下げました。ハイイールド債券市場全体としては、インデックス銘柄のクオリティの向上を踏まえると依然として下支えされており、金融・財政の緩和が継続すれば、今後12カ月でリターン創出の可能性があります。総じて、ハイイールド債券のバリュエーションはタイトであるため、リターンはスプレッドの縮小よりもキャリーから創出されると予想しています。

金利 

金融政策の緩和傾向を踏まえると、近い将来に世界的な景気後退が生じる可能性は低いものの、経済成長がさらに鈍化する場合には、デュレーションが重要となる可能性があります。そのため、デュレーションをややオーバーウェイトとしていますが、イールドカーブのスティープ化への確信は依然より低下しています。先進国のソブリン債に対する金利期待は適切に織り込まれているように思われます。エマージング市場のソブリン債については、米ドルが大きく上昇しない限り、一段の金融緩和余地があると見ています。アイスランド、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなどの市場では、妙味のある個別投資機会が見られます。

米国は、実質中立金利が1%近辺に収束するとの見通しから、高い確信を持ってデュレーションをオーバーウェイトとしている市場の1つですが、期間10年以下の債券を選好しています。一方、日本については、日本銀行のタカ派的な姿勢は市場に十分に織り込まれていないと考え、短期債のデュレーションをアンダーウェイトに維持しています。

欧州は、対ドイツ比スプレッドが歴史的にタイトな水準にある非コア国を中心にエクスポージャーを削減しましたが、イタリアは引き続き選好しています。フランスは、今後の政治・財政面の課題を反映してスプレッドが拡大しているため、デュレーションを大幅なアンダーウェイトから中立に引き上げました。英国については、イングランド銀行の金融緩和が市場の想定より遅れているとの見方から、デュレーションをオーバーウェイトとしています。

現地通貨建てエマージング債券については、実質利回りの高さや選挙による追い風期待からラテンアメリカのウルグアイ、ペルー、ブラジルといった国を選好しています。また、中央銀行の信認向上や財政リスクの低減を期待して、南アフリカなども選好しています。中国については、人民銀行はハト派姿勢を維持すると予想していますが、フラットなイールドカーブと低利回りを勘案し、デュレーションをアンダーウェイトとしています。

結論 

債券のバリュエーションの難局を乗り越えるためには、クレジットリスクを注意深くモニタリングし、強固なリサーチ力を活用したうえで、市場の変調に備えておくことが必要です。現状でタイトなバリュエーションと不透明な世界情勢を受けて、ポートフォリオ構築には戦略的かつ選択的なアプローチが求められます。そのためには、クレジット・アナリストやソブリン・ストラテジストの専門知識を活用し、ボトムアップで投資機会を特定することが重要です。このような環境下においても、綿密に構築されたポートフォリオは、グローバル債券ユニバースから引き続き魅力的なリターンを引き出すことが可能であると考えます。

 

債券に投資する場合、発行体、借り手、取引相手もしくはその他の支払義務を負う主体、原資産の信用力の低下、あるいは経済的状況、政治的状況、発行体固有の状況もしくはその他の状況の変化による結果として、またはその影響により、価値が低下することがあります。特定の種類の債券は、これらの要因による影響が大きいことから、ボラティリティが上昇する可能性があります。また、債券には金利リスクが伴います(金利が上昇すると、価格は下落します)。したがって、金利上昇時にはポートフォリオの価値が減少する可能性があります。

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

 

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