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現地通貨建てエマージング債券の最適な投資機会

本稿では、現地通貨建てエマージング債券の4つのサイクルやマクロ経済の枠組み、投資機会についてご説明します。

Ward Brown, CFA, Ph.D.
債券ポートフォリオ・マネジャー

Robert M. Almeida, Jr.
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト

米ドル建てエマージング債券と現地通貨建てエマージング債券の構造的な違いは何ですか。
現地通貨建てエマージング債券は現地通貨で発行されています。ブラジル政府に対する現地通貨建て貸付とは、米ドルではなくブラジル・レアルでの貸付を意味します。現地通貨建てエマージング債券の変動要因は様々で、最大の要因はインフレです。現地通貨建てエマージング債券は米国債と同じような動きをします。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げすると、米国債利回りは上昇し米国債価格は下落しますが、これはすべてのエマージング諸国の現地通貨建て債券にも当てはまります。ブラジルでは、中央銀行が過去1年間金利を引き上げたため、現地通貨建て債券の価格が下落しました。現地通貨建てエマージング債券と米ドル建てエマージング債券の主な違いは、インフレと現地の景気サイクルは米ドル建てエマージング債券に影響しないという点です。米ドル建てであるがゆえに現地のインフレは問題になりません。米ドル建てエマージング債券に影響を及ぼす要因は主に政府の債務不履行リスクであり、それはもちろん現地通貨建てエマージング債券にも影響を与える可能性があります。現地通貨建てエマージング債券は、米ドル建てエマージング債券に景気サイクルによるインフレの要素を加えたものに近いです。

インフレと景気循環に言及されましたが、重要なパフォーマンス指標として他に何がありますか?
健全なマクロ経済の枠組みが重要です。財政赤字が持続可能で、債務が安定または減少している場合、インフレ抑制への信頼度は通常高くなります。インフレが十分に抑制され、国のインフレ目標が信頼できることが理想です。理想的なエマージング市場は多くありませんが、この理想に向かっている国を私たちは求めています。

エマージング諸国における財政枠組みは改善しましたか?
大いに改善しました。1990年代終盤から2000年代初めにかけて、エマージング市場における危機がいくつかありました。マクロ経済の枠組みは今と大きく異なっており、持続不可能な固定為替レートに基づいていました。各国は固定相場制を廃止し、インフレ目標を導入し、財政政策の信頼性を高めました。その結果、インフレ目標も信頼できるものになりました。パンデミック前の10年間、エマージング諸国の実際のインフレ率は着実に低下しましたが、その一因としてマクロ経済の枠組みの健全化を挙げることができます。マクロ経済の枠組みとインフレの全体的な改善が、長期にわたってこの資産クラスがこれほど好調である理由です。

現地通貨建てエマージング債券の4つのサイクルを説明してください。
どの景気サイクルであっても、インフレ率が高すぎると中央銀行は金利を引き上げます。景気が後退すれば、中央銀行は金利を引き下げます。エマージング諸国の景気サイクルは米国の景気と連動しています。FRBが利上げし、エマージング諸国が利上げしない場合、その国の通貨はおそらく下落するでしょう。通貨が下落すると、その国のインフレ率が上昇し中央銀行が利上げに追い込まれることがあります。

第1段階の初期では、通常、米国の金利は低く、米国経済は回復しつつあり、FRBが利上げを開始します。第2段階では、FRBが利上げを継続し、金利はより景気抑制的になり、エマージング諸国が影響を受け始めます。エマージング諸国の通貨が下落し、これらの国の中央銀行も金利を引き上げます。第3段階では、FRBが利上げを一時停止し、ソフト・ランディングかハード・ランディングを迎えます(第4段階)。第4段階では、FRBが利下げを行います。ソフト・ランディングの場合、インフレ率は低下しますが景気後退には陥りません。インフレ率が低下するため、FRBは利下げを開始します。ハード・ランディングの場合、米国経済は景気後退に陥り、FRBはより積極的に利下げを行います。いずれの場合でも、エマージング諸国の中央銀行も利下げを行います。

現地通貨建てエマージング債券への投資の魅力的なタイミングは、中央銀行が利下げを開始したときです。FRBがリスク選好を安定させるのに十分な措置を講じると、エマージング諸国に資本が流入し始め、米ドル安が生じます。エマージング諸国の通貨が上昇し始めるとディスインフレが強まり、中央銀行にはさらなる利下げの余地が生じます。成長が始まり、資本が動き始めます。つまり、第4段階は好循環を生み出します。

リスク資産と実体経済(国債イールドカーブの形状)は相反するシグナルを発しています。世界経済をどのように見ていますか。世界経済はFRBや中央銀行にとってどのような意味をもちますか。
中央銀行の優先事項は、景気後退が起きるとしてもインフレを抑制することです。景気後退に陥る蓋然性は高いと考えています。中央銀行は、政策調整の指標としてコアインフレ率などの遅行指標に注目していますから、失業率が上昇し始める前に利下げを行う可能性は低いとみられます。失業率の上昇は本当に景気後退が始まったことを意味し、歴史的にみて、失業率は一度上昇し始めると通常大幅に上昇します。マクロ的環境は景気後退に陥る蓋然性が高いことを示していると考えています。

投資の面では、どのような資産が景気後退リスクに耐えられるかが問題になります。ソフト・ランディングがどのようにして起きるのかよく議論しますが、ソフト・ランディングになるかどうか不透明である一方、起きる可能性はあります。もしそうなれば、リスク資産は非常に好調に推移するでしょう。エマージング債券を見ると、ハード・ランディングを織り込んでいるのはこの資産クラスの一部だけですが、一方でソフト・ランディングも完全に織り込まれているわけではありません。したがって、この資産クラスやその他の資産クラスは、ソフト・ランディングになればいくらか上昇する余地があると考えています。しかし、リスク資産はハード・ランディングに耐えられません。ハード・ランディングの確率はかなり高いと考えられますが、それに耐えられる資産は多くありません。多くの資産において特にリスク配分に慎重になるべきだと考えています。

なぜ投資家は今、エマージング債券とその投資機会を考えるべきなのでしょうか?
第1段階としてFRBの利上げ、第2段階としてエマージング諸国の中央銀行の利上げという標準的なサイクルについてこれまで検討してきました。しかし、現在のサイクルは少し異なります。今回は第1段階と第2段階が逆転しているのです。エマージング諸国の中央銀行はFRBよりはるかに早く動きました。これは驚くべきことです。通常、FRBが利上げすると、エマージング諸国の通貨は大幅に下落します。昨年はそうなりませんでした。確かに米ドルは非常に強かったですが、ユーロなどの先進国通貨に対して強かっただけです。エマージング諸国の通貨は踏みとどまり、昨年はユーロをアウトパフォームしました。それは、エマージング諸国の中央銀行がFRBや欧州中央銀行(ECB)よりも先に利上げを始めたからです。これによってエマージング諸国の立場は大きく変わりました。ハード・ランディングになれば、エマージング諸国の中央銀行には大きな利下げ余地があります。ブラジルの政策金利は13.5%でインフレ率は現在4%を切っています。ブラジル中銀はより早く、より大幅に金融を引き締めました。これが大きなクッションとなっています。

第4段階の初期には、リスク回避のため投資家は通常米ドルに回帰します。エマージング諸国の中央銀行にとって、この動きは問題を引き起こしかねません。しかし、エマージング諸国の中央銀行は大幅な利上げを行ったため、景気後退とリスク回避姿勢の高まりにかなりの余裕をもって対処することができ、それは通貨の安定化につながるはずです。これまで、エマージング諸国の中央銀行はFRBに後れを取ったため、リスク資産が売られ、さらなる利上げに追い込まれました。これがいつものシナリオですが、今回はそうならないと考えています。なぜなら、エマージング諸国の中央銀行はFRBに先行し、利下げ余地のある強力な立場にあるからです。FRBがハト派的スタンスに転換すれば、エマージング諸国の中央銀行にとって利下げのゴーサインが出たことになりますが、大幅な利下げ余地があります。利下げはある程度の米ドル安をもたらします。その結果、現地通貨建てエマージング債券のリターンが非常に高くなる可能性があります。

結論

上述したように、現地通貨建てエマージング債券は典型的な景気サイクルを経ます。現地通貨建てエマージング債券は過去20年間でこの景気サイクルを4度経験していますが、現在、現地通貨建てエマージング債券のリターンが非常に有利になる景気サイクルの一段階が近づいています。投資家にとっては魅力的な投資機会であると考えます。

異なる資金需要、歳入源、あらゆる面でFRBと結びついた景気サイクルを有する国々の話を してきました。ファンダメンタルズの調査と銘柄選択はどのくらい重要ですか?
これまで、話の一部を一般化してお示ししました。しかし、これはエマージング諸国のすべてに当てはまるわけではありません。国別選択は、エマージング債券に投資する上で重要な要素です。ソブリン・リスクのプロファイルが脆弱な国を認識することは極めて重要です。これらの国も利下げするかもしれませんが、ソブリン債務問題を抱えている場合には、利下げを留保し、逆の方向に進む可能性があります。そうなったことは何度もありました。したがって、脆弱な国を警戒する必要があります。同時に、適切な国別選択を行い、この資産クラスの中で最も上昇余地のある投資先を見つける必要があります。

この資産クラスのどの地域でもデュレーションをオーバーウェイトにするわけではありません。指数を上回るリターンを期待できる投資機会がみられますが、大半のアジア諸国のように利下げサイクルに入れない地域もあり、そういった地域については非常に慎重に見ています。

 

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。

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