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注目が高まる債券市場―投資家からの5つの質問

本稿では、景気後退リスクや中国経済の減速による潜在的な影響など、現在債券投資家が直面する喫緊の課題について、債券共同CIOのPilarGomez-Bravoがご説明します。

 執筆者

Pilar Gómez-Bravo, CFA
債券共同CIO

概要

  • 景気後退はMFSの基本シナリオであり、一部の企業は資金調達コストの上昇によって打撃を受けることが予想されます。ただし、債券の償還期日が長期化されているため短期的なリスクは軽減されています。
  • 中国は短期的な経済面の問題と長期的な構造上の課題に直面しており、その影響は世界経済にも波及するとみられます。
  • 世界金融危機以降、10年以上にわたってゼロ近辺に据え置かれてきた政策金利が急激に上昇したことで歪みが生じており、現在の5%を超える水準の政策金利は市場とポートフォリオの運用に広範な影響を及ぼすでしょう。
  • 一部の国において市場に織り込まれている利下げが実現しない可能性などを考慮し、主に国・地域・年限間の相対価値に基づく投資機会に着目し、グローバル債券マルチセクター・ポートフォリオのデュレーションを徐々に長期化させています。

顧客および見込み顧客との会議や社内のディスカッションにおいて、債券市場について頻繁に5つの質問が提起されました。以下はその質問と筆者の回答です。

景気後退はどの程度になり、その後の経済状況はどのようになるのでしょうか?

MFSは景気後退を基本シナリオとしています。一部の先行指標は悪化しており、欧州と米国ではいずれもマネーサプライが大幅に縮小しています。また、実質金利の上昇を受けて当然ながら金融環境は逼迫しつつあります。図表1は、ニューヨーク連邦準備銀行が公表している12カ月先の景気後退確率を示した指数の推移で、直近の景気後退確率は71%に上昇しています。このチャート上に、リスク資産の指標としてハイイールド債のスプレッドを重ねて表示してみると、現在のスプレッドの水準は、リスク資産がソフト・ランディングを織り込んでいることを示しています。

しかし、資金調達コスト上昇の影響が消費者と企業のバランスシートに現れるまでには長い時間がかかり、また経営者と消費者がいずれも景気後退を予想していることから、(軽度にとどまるとしても)景気後退がMFSの基本シナリオであることに変わりありません。

ただし、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする各国・地域の中央銀行が実体経済やインフレに目に見える効果をもたらすことができず、さらに利上げを推し進めるようなことになれば、何らかのショックが発生し、より深刻な景気後退に陥るリスクが高まるかもしれません。

このような危機は、予期せぬシステミック・リスクがきっかけとなって発生する可能性があります。3月の米地銀危機やUBSによるクレディ・スイス買収で明らかになったように、金利が急上昇して政府と民間企業の両方で債務負担が急増したことで、市場は脆弱な状態にあります。

したがって、短期的には景気後退に陥る可能性がありますが、その先の経済成長率とインフレ率はパンデミック前をやや上回る水準になるとみています。

企業の財務状況は脆弱なのでしょうか?

民間企業は、世界金融危機後に各国・地域の中央銀行が行った量的金融緩和によって資金調達コストが低下したことで恩恵を受けました。さらに、コロナ禍における大規模な財政支出によっても下支えされました。その結果、企業が持続不可能な資本配分を行ったり、持続不可能な財務構造の下で事業を行うといった状況が生じました。このように、中央銀行から供給された流動性は、生産的投資にはそれほど向けられず、自社株買いによる株主還元や企業の買収・合併(M&A)に充てられました。

MFSは、特に、ビジネスモデルが脆弱で価格決定力に乏しい高レバレッジの企業や、経営陣が現在直面している困難を現実のものとして捉えていない企業については、景気後退入りする前の現段階ですでに将来的な利益成長に対して懸念を抱いています。そこで、勝者になる企業と敗者になる企業を見極めるために、MFSのグローバル・リサーチ・プラットフォームを活用しています。

MFSが注目している要素の1つとしてリファイナンス・リスクがあります。次ページの図表2は、ユーロ建ておよび米ドル建てハイイールド債市場の平均クーポンと利回り上昇率を比較したものです。図表3は、ハイイールド債の償還プロファイルを地域別に示したものです。ここ数年、ハイイールド企業と投資適格企業は償還期限の長期化を進めていますが、これは借り換えの必要性や資金調達コストの上昇に直面した場合に重要な意味を持ちます。図表3を見ると、ハイイールドの企業は今後12カ月から18カ月程度の間に債券償還の壁に直面することになります。したがって、こうした企業の財務状況の悪化による影響が市場で表面化するまでには、もう少し時間がかかるとみられます。

大規模な投資適格企業も、債券の償還期限を長期化させています。また、米国ではここ数年、消費者による住宅ローンの借り換えが進んでおり、全体的に資金調達コストが上昇しています。

したがって、一部の企業は資金調達コストの上昇によって打撃を受けると予想されますが、社債の償還プロファイルを見る限り、差し迫ったリスクというわけではなさそうです。

中国のマクロ経済動向は他の国・地域にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

中国の経済指標は依然として低迷しており、背景には、構造的な課題に加えて民間企業の多くが直面している「信頼の危機」があります。また、地方政府の資金調達機関による債務不履行リスクは依然として高い状態が続いています。図表4は同国の住宅建設状況を示したものであり、不動産業界における懸念が続いていることがわかります。中国政府にとってそれ以上に深刻な問題は、若者の失業率の大幅な上昇と、それに伴って発生が懸念される社会問題です(図表5)。

世界の市場は中国の金融緩和策と景気刺激策を待ち望んでいますが、今のところ、政府による景気対策は控えめに言っても期待外れの内容です。我々は、経済に対する信頼感が大きく回復するような対策が必要であると考えており、例えば、最近実施されたような不動産開発会社の融資の返済期限を1年延長して、短期債務への借り換えを可能にするといった追加の緩和策が行われると予想しています。ただし、財政拡大の余地は限定的であり、政策上の制約も大きいとみられます。それでも、厳しい状況にある不動産市場を支援するための小規模な緩和策や、地方政府の資金調達機関を支える措置が継続される可能性は高いと思われます。

今後、中国の経済と市場に最も大きな影響を与えると考えられるのは、当局による為替管理です。現在は、急激な人民元安を避けるために、為替相場をやや元高水準に維持しようとしていますが、中国政府にとってはやや元安水準で推移している方が都合がよいようです。元安傾向は今後も続くと予想されており、その場合、中国国内でデフレ圧力が強まり、中国から世界にデフレの影響が波及し始める可能性も高くなります。今後数四半期は、中国の為替政策の動向を注視する方針です。

米国の短期金利上昇による大幅な逆イールドが示す市場の歪みは、どのような影響をもたらすのでしょうか?

この質問には多面的な回答が必要です。10年以上にわたり政策金利がゼロ近辺に据え置かれてきたことで、盲点が発生している可能性があると考えています。現在、政策金利は5%を超えており、こうした政策金利の転換は市場とポートフォリオ運用に広範な影響を及ぼすでしょう。ポートフォリオ運用に組み込む要素のいくつかはすでに変更になっています。

短期金利が上昇して逆イールドがさらに進んだ場合、資金調達市場やポートフォリオのファンディングコストに歪みが生じ、異なる期間の金利先物のキャリー水準に影響を及ぼす可能性があります。すなわち、ベーシス取引、キャッシュ・マネジメント、証拠金管理、不動産担保証券(MBS)における資金調達に影響がありそうです。さらに、将来的には銀行の収益性や米国の金融システム全体に大きな影響が及ぶと思われます。

こうした歪みによる影響は、クロス・カレンシー・ヘッジと外国人投資家にとっての米国資産の相対的な魅力度にも明白に現れるとみられます。この点に関しては、クレジット市場をはじめ米国市場全般に多くの日本人投資家が参加していることから、日銀のイールドカーブ・コントロールなどの金融政策の見通しについて注視しています。日本国内の投資先の利回りが突如上昇し、米ドル建ての伝統的な投資先の利回りを上回った場合、米国のローン担保証券(CLO)などの伝統的な資産クラスのパフォーマンスは悪化する可能性があります。

グローバル債券ポートフォリオを構築する上で、債券にはどのような投資機会がありますか?

MFSの基本シナリオである景気後退と足元の金利の動向を踏まえ、現在は国・地域間で投資機会を模索し、グローバル債券マルチセクター・ポートフォリオのデュレーションの長期化を徐々に進めています。この先、マクロ経済指標によって景気後退に対する確信が深まれば、デュレーションを長期化する根拠はますます強まると考えています。ただし、すべての国において市場に織り込まれているような利下げが実現されるとは限らないため、我々は国・地域・年限間の相対価値に基づく投資機会に焦点を当てています。また、米国だけでなく、欧州の一部の国(スウェーデンなど)やカナダ、ニュージーランドといったさまざまな市場においてもオーバーウェイト・ポジションを分散させています。一方、中国、オーストラリア、および欧州の一部の国についてはあまり積極的にリスクを取っていません。

固有の要因の影響を受ける現地通貨建てエマージング債券市場では、これまでに何度も利上げが実施されており、今後は利下げが見込まれることから、徐々に魅力が増していくと考えます。世界的に金融政策の引き締めが行われていることに鑑み、我々は段階的かつ選択的に対応しており、主に、ウルグアイ、ブラジル、メキシコ、ペルーなど、実質金利の高さから現地通貨建て債券の魅力度が高いラテンアメリカ諸国にポジションをとっています。韓国は引き続き選好する市場の1つであり、デュレーションへのエクスポージャーを構築しています。韓国銀行は最初に利下げに踏み切る可能性がある中央銀行の1つであると考えています。

為替については、FRBが間もなく利上げサイクルを終了するとの見方が広がる中、今後はドル安方向に動くと予想し、米ドルを若干アンダーウェイトとしています。しかし、今後は米国と他の国々との成長格差と金利差が米ドルの行方を左右することになるでしょう。したがって、厳しいリスクオフ環境下で米ドルがアウトパフォームする可能性も考慮しています。世界的に深刻な景気後退に陥った場合、米ドルの「安全資産」としての魅力は高まる可能性があります。

証券化商品および仕組債については、最近、非エージェンシーMBSや資産担保証券(ABS)などの分野でスプレッドが拡大していることから、新規発行市場に投資機会が生じているほか、CLOのセカンダリー市場にも投資機会があるとみています。パス・スルーMBSは、2022年第4四半期ほど魅力的なバリュエーションではありませんが、大幅なアンダーウェイトを解消しつつあります。我々はこうした伝統的なMBSのポジションを積み増していく方針であり、これらの分野には割安な銘柄があると引き続き考えています。地銀危機の影響や商業用不動産を巡る懸念から、依然として取引価格は低水準にとどまっていますが、これらは質の高い資産クラスであると考えています。

社債については、引き続き投資適格を選好しています。同資産クラスでは、ここ数週間でいくつかの魅力的な投資機会が生じています。ただし、ボラティリティの上昇や新規発行市場での価格下落による混乱には警戒する必要があります。現在は、米ドル建てよりもユーロ建てとカナダ・ドル建てを選好しています。

エマージング市場については、良好なファンダメンタルズと需給環境の中でも、バリュエーションが縮小しているため、銘柄選択が鍵になります。現在、投資適格ソブリン債とエマージング社債にはあまり投資妙味がないと考えています。

ハイイールド債については、エクスポージャーを削減しましたが、引き続き利回り向上の手段として保有しています。特に、質が高く利回りが魅力的な銘柄が含まれるB格の債券に投資機会を見出しています。ただし、リサーチによって特定された一部の個別銘柄を除けば、リスク調整後の相対価値ベースで見た投資妙味は小さいと思われます。

 

 

 

出所:BloombergIndexServicesLimited.BLOOMBERG®は、BloombergFinanceL.P.およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。BloombergまたはBloombergのライセンサーは、BloombergIndexのすべての所有権を有します。Bloombergは、本資料を承認もしくは保証するものではなく、本資料に記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、本資料から得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。

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