概要
- AIインフラの拡大を背景に、金融工学の領域から、コンピューティングを支 える電力や設備など実体経済への資本シフトが生じています。
- 需要が供給を上回る中でハードウェア企業はアウトパフォームしています が、歴史を振り返れば、資本集約的なサイクルにはやがて新たな供給が参入 することが示されています。
- 一方、データ・サービス企業や業務フロー関連企業は幅広く売り込まれてい ますが、AIによる破壊的革新のリスクと持続的なバリューとの違いを区別で きるアクティブ投資家にとっては投資機会が生じています。
第2次世界大戦で連合国を勝利に導いた要因は多々ありますが、ピッツバーグの製鉄所、ウースターの機械工場、クリーブランドの鋳造工場にもその要因はありました。ドイツが先進的な兵器を製造する一方で、米国の強みは、圧倒的な規模で装備を製造、輸送、修理、補充する能力にありました。優れた技術は戦闘に勝利をもたらし得ますが、優れた生産能力は戦争を勝利へ導くと言えます
戦後数十年間、米国は技術と生産能力の両方を兼ね備え、繁栄を享受してきました。しかし1990年代以降、グローバル化によってその構図は変化しました。資本は有形資産への投資ではなく、知的財産、自社株買い、配当、M&A、そして生産のアウトソーシングへ向けられました。その後1990年代の通信セクターや2000年代の住宅市場の大型投資サイクルが訪れても、国内の産業基盤の再構築につながることはほとんどありませんでした。
これは、現在のAIブームを考える上で重要なことです。AIはクラウド上で稼働しますが、そのクラウドは現実世界の物理的インフラの上に成り立っています。あらゆるAIモデル、クエリ、データセンターには、電力、半導体、メモリ、銅、鉄鋼、コンクリート、冷却設備、熟練労働力、許認可、物流、そして資本が必要です。長年の設備投資不足と生産の海外移転の結果、利益率の向上にはつながったものの、米国の余剰生産能力は過去と比べて低下しています。この点は企業業績にも表れており、一部のハードウェア企業は顕著な価格転嫁を実現しています。また、金利市場にインフレ圧力が根強く残っている点にも表れています。
その結果として、金融工学からコンピューティングを支える電力や設備など実体経済への資本シフトが生じています。このシフトは、すでに市場とポートフォリオのパフォーマンスに2つの形で現れています。
1:限定的なリソースを供給する企業がアウトパフォームしている
市場はまず、物理的な供給制約の恩恵を直接受ける企業を選好する形で反応しました。
ハードウェア、コンピューティング、メモリ、電力設備など、資本集約型の企業は、需要が供給を上回る中でその他企業をアウトパフォームしてきました。この需給ギャップにより多くの分野で大幅な値上げが可能となり、利益の増大につながっています。顧客が必要とする部品や設備は供給が限られており、短期的には代替手段も限られることから、これらを供給する企業に強い価格決定力をもたらしています。
しかし、これはあくまでハードウェアの資本サイクルです。高価格は新たな資本を呼び込み、その資本は供給拡大につながります。そして、その供給拡大は価格決定力、収益率、バリュエーションに変化を及ぼします。現在の勝ち組企業が引き続き成長を続ける可能性はあるものの、希少性が永続するとの想定には注意が必要と考えます。歴史が示すように、資本集約型産業では、極端に高い収益性は将来的には利益率の正常化につながることが一般的です。
2:市場はAIによる破壊的変革の影響を受ける企業を一括りに見ている
ソフトウェア、データ、情報サービス、そしてミッションクリティカルな業務フローに関連する企業は、大きく売り込まれてきました。なかには、業績予想を達成しており、売上減少の兆候もほとんど見られない企業もあります。
市場はAIの影響を、ソフトウェアは悪い、コンピューティングは良い、破壊的変革はあらゆる領域で起きている、という単純な図式で捉えているようです。しかし、そうした見方は短絡的すぎると我々は考えています。
AIの出現により、反復的で、信頼性や差別化に乏しい、または容易に模倣可能な汎用ソフトウェアや業務フローは、コモディティ化する可能性があります。しかし、すべてのソフトウェア企業やデータ企業、業務フロー関連企業が同じリスクに直面しているわけではありません。業務プロセスの非効率性や基本的な情報検索機能を価値の源泉とする企業は脆弱かもしれません。一方で、独自データ、深く組み込まれた業務フロー、規制対応システム、監査証跡、コンプライアンス機能、あるいは重要な記録管理を担う企業は、そうではない可能性があります。そうした企業の価値は、単なるソフトウェアコードではなく、その業務フローに組み込まれた信頼性、ガバナンス、専門知識、履歴情報、説明責任にあります。AIは脆弱な競争優位性を崩壊させる一方で、強固な競争優位性をさらに強化する可能性もあるといえます。
なぜ信頼できる答えの価値が高まるのか
ここで重要になるのが「ジェヴォンズのパラドックス」です。テクノロジーによってコストが低下すると、その利用量は増加する傾向があるという理論です。コンピューティングコストが低下しても、コンピューティング需要は減少しませんでした。ストレージコストの低下も、データ量の減少にはつながりませんでした。同様に、AIによって分析コストが低下すれば、回答、シナリオ、業務フロー、意思決定の支援への需要は、むしろ拡大する可能性があります。しかし、一般的な回答が安価に得られるようになるほど、信頼できる回答の価値は高まるかもしれません。
AI時代においてボトルネックとなるのは、答えを生成することではなく、その答えが正確であり、規制に準拠し、監査可能で、目的に適っていることを確認することかもしれません。これは、独自のデータ、システム・オブ・レコード、深く根付いた顧客リレーションシップ、そして大規模言語モデル(LLM)では容易に再現できない専門分野に特化した業務フローを持つ企業にとって重要なことです。とりわけ、信頼性の高いデータと業務フローへの統合を強みとするビジネスサービス企業やデータベース企業、その他の情報資産を多く持つ企業などには重要性が高いとみられます。こうした企業の中には、AIによって収益基盤が損なわれるかのように評価されている企業もあります。その見方が正しい場合もありえますが、その一方で、AIが顧客依存度を高め、保有データの戦略的重要性をさらに高めるケースもありえます。
結論
パッシブ運用は、この移行の両方の側面を組み入れます。AI資本サイクルの恩恵を受ける企業も組み入れる一方、利益率や競争優位性、あるいはバリュエーションが脆弱化する可能性のある企業も組み入れています。パッシブ運用は、この新たな資本サイクルに投資し、その投下資本から魅力的なリターンを生み出せる企業と、そうでない企業とを区別しません。また、容易に代替可能なソフトウェア企業と、AIの普及によってむしろデータの価値や監査適合性、信頼性が高まるミッション・クリティカルな業務フロー関連企業も区別しません。
AIを巡る資本サイクルは、すでに市場を二極化させています。ハードウェアの供給不足は現実ですが、資本サイクルは無限ではありません。AIによる破壊的変革も現実ですが、それはすべての企業に当てはまるわけではありません。重要なのは、一時的な供給不足と持続的な経済価値との違いを見分けること、そして真の破壊的変革と市場の過剰反応との違いを見極めることです。現在の市場は、メスが必要な場面でハンマーを使っているようなものです。足元の環境では、アクティブ運用の重要性がこれまで以上に高まると考えられます。投資機会は、AIの勝ち組銘柄を保有し、AIの負け組銘柄を保有しないというような単純なものではありません。AIによって経済的価値が損なわれる企業と、AIによってその経済的価値がむしろ高まる企業とを見極めることこそが重要なのだと考えます。
すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。
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執筆者
Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト