概要
- インフラ投資は、継続的な資本調達能力と借り手の将来の支払い履行に依存しており、その構図は世界金融危機発生前の状況と似ています。
- AIインフラの提供企業は顧客契約を裏付けとした将来収益を担保に借り入れを行っていますが、資金調達環境の悪化や需要の変化が生じた場合、そうした収益見通しが維持されない可能性があります。
- アクティブ運用では、勝ち組企業と負け組企業を識別する条件を精査し、投資判断に反映することが可能です。
2008年との部分比較
今日のAI投資サイクルについては、1990年代半ばから後半にかけてのTMT(テクノロジー・メディア・通信)ブームと比較されることがよくあります。確かに、誰が相応のリターンを獲得するのか明確でないまま画期的なテクノロジーが莫大な投資を呼び込んでいるという点では、両者は明らかに類似しています。しかし、その一方で、相違点も存在します。
AI投資サイクルについては、2008年の世界金融危機に先立ち発生していた米国の住宅ブームと比較するのが適切かもしれません。AIと住宅市場が似ているという意味でも、銀行セクターに問題があるという意味ではありません。ここでの比較は、キャッシュフローに限定した部分比較です。
2006年当時の米国住宅市場は、価格の上昇がなお続いており、借り手への信用供給も潤沢であるなど、一見したところ健全に思われました。しかし、住宅価格の上昇のペースはすでに鈍化していました。多くの信用力の低い借り手は、返済額の引き上げが行われる前に住宅価格の上昇を利用して借り換えを行うことを前提に住宅ローンを組んでいましたが、住宅価格の上昇が鈍化し、その後下落に転じると、その選択肢は失われました。返済負担は増大し、債務不履行が増加し、やがて投げ売りが発生し、最終的に銀行危機へと発展していきました。
借り手と支払主体
今日のAI投資と2008年の世界金融危機の状況とは大きく異なりますが、共通点として、将来の支払いと継続的な資本供給に依存している点が挙げられます。この点について理解を深めるために、AI関連投資における資金調達がどのように機能しているかを確認することが有用です。
フロンティアAIのモデル開発企業やAIを利用する大手企業は、計算資源を利用するにあたり、ハイパースケーラーやネオクラウド事業者と数十億米ドル規模の契約を締結します。投資家は、この契約を将来の売上や利益として評価します。クラウド事業者は、こうした契約を裏付けに将来収益を見込み、半導体チップ、メモリ、電力、冷却設備、土地、人材などへの投資を進めます。さらに近年では、資本集約度の高まりや供給制約による価格上昇を背景に、クラウド事業者が保有資産や顧客との契約に基づく将来の支払い金を担保に借入れを行うケースも増えています。
ここで重要なのは、役割分担の違いです。住宅市場では、住宅所有者が借り手であると同時に返済の原資を生み出す主体でもありました。一方、AIの世界では、この2つの役割は分離されています。借り手はインフラ提供企業です。一方、AI研究開発企業やモデル開発企業、あるいは計算資源を利用する企業は、オフテイカー(将来提供される製品やサービスの購入を事前に約束する顧客)として機能し、その支払いがインフラ投資を支えています。
この仕組みが機能するには、資本が今後も潤沢かつ低コストで供給され、顧客需要が継続的に拡大し、そして契約上の支払いが確実に履行されることが前提となります。しかし、受注残高は現金ではありません。その価値は、顧客の信用力、契約条件、そして顧客が支払不能に陥った場合にその設備を他の用途へ転用できるかどうかなどに左右されます。
資金調達環境の悪化やプライベート市場からの資金供給の縮小、収益化の低迷、あるいは顧客の低価格モデルへの移行などが生じれば、約束された将来キャッシュフローの価値が投資家の想定を下回ることが明らかになる可能性があります。その場合、その債務の支払いを支える収益基盤が弱まったとしても、インフラ提供企業から貸し手、不動産オーナー、設備ベンダー、電力供給事業者に対する支払い義務は継続する可能性があります。
ただし、大手ハイパースケーラーは潤沢なキャッシュを保有しているため、これが支払能力の問題へと発展する可能性は低いと考えられます。これは2008年の状況とは大きく異なる点です。リスクは別のところにあります。問題は、これから投下される資本が十分な投資収益率を生み出せるかどうかです。これこそが、現在のAIサイクルにおける重要なKPI(重要業績評価指標)なのだと我々は考えます。
結論
ベンチマークには、モデル開発企業、クラウド事業者、データセンター所有者、半導体チップやメモリなど希少資源の供給企業、資本財関連企業など、AIエコシステムを構成する幅広い企業の銘柄が組み入れられています。しかし、その中にはAI投資の恩恵を受ける企業だけでなく、不利益を被る可能性のある企業も含まれています。2008年当時と同じく、ベンチマークは質の高い受注残高と脆弱な受注残高を区別していません。また、他の用途へ転用可能な設備能力と回収困難な設備能力、あるいは資本コストを上回る収益を生み出している企業と将来の資金調達に依存している企業とを区別することもありません。
一方、アクティブ運用では、それらを区別することが可能です。顧客集中リスク、契約内容の質、レバレッジ水準、債務返済スケジュール、価格決定力、資本配分の規律などを精査し、投資判断に反映させることが可能です。今後、資金調達環境がより選別的となり、AI関連市場における利益配分がより分散していくにつれて、これらの要素は企業業績のみならず資産価格に対しても、これまで以上に大きな影響を及ぼすようになると考えます。
AIは今世代において最も重要なテクノロジーの1つとなる可能性があります。しかし、AIに投資するすべての企業が投下資本に対して十分なリターンを確保できるとは限りません。市場やベンチマークはAIの成長期待を織り込む可能性がありますが、アクティブ運用では、その期待の実現を支える支払主体を評価し、投下資本に見合うリターンを創出できる企業を選別することが重要となります。
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執筆者
Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト