decorative
Strategist’s Corner
1 min

AIがもたらすコストショック:MFSテクノロジー視察ツアーからの考察

本稿では、AI関連投資の増大がコストに及ぼしうる影響と、従来型のテクノロジー企業のビジネスモデルが直面する可能性のある限界について、グローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します。

概要

  • AI関連投資の見通しはすでに極めて高い水準にありますが、MFSが先頃実施した実地調査からは、その見通しがなお過小評価である可能性が示唆されました。
  • メモリ、電力、設備、インフラの供給不足が、多くの産業で売上原価の上昇を招いています。
  • アルファ獲得のためには、AI投資拡大の恩恵を持続的に享受できる企業を見極めるだけでなく、コストの上昇を価格に転嫁する力に欠け、その結果として収益率の低下が懸念される企業を回避することも重要であると考えます。

MFSは先頃、年に1度の米国テクノロジー視察ツアーを実施しました。テクノロジー担当のアナリストのほか、特定業種を担当しないジェネラリストを含む29名の運用プロフェッショナルが参加し、AIエコシステムに携わる上場・非上場の企業を訪問しました。

このツアーでは参加者の構成が重要でした。AIはもはやテクノロジー・セクターに限ったテーマではなく、業種横断的に資本配分、コスト構造、競争環境に影響を及ぼすテーマであるためです。テクノロジー担当アナリスト、ジェネラリスト、ポートフォリオ・マネジャーが企業の経営陣やエンジニアと直接対話することで、投資の前提条件を検証し、サプライチェーンへの理解を深め、想定されるシナリオを議論しながら、持続可能な経済価値と過度な期待とを切り分けることができます。

今回の実地調査の結果、AI関連の資源需要は2027年にかけて供給を大きく上回る状況が続くとの認識を強めました。しかし、ポートフォリオ・マネジャー兼グローバル・インベストメント・ストラテジストとしての立場から執筆者が注目したのは、AI需要とAI関連投資は、ハイパースケーラーやネオクラウド事業者にとどまらず、より広範な領域へと拡大しているということでした。市場の予想は保守的過ぎるとみられ、資源コストに生じる上昇圧力は、インフレ見通しや企業収益予想には十分に織り込まれていない可能性があります。

特に印象的だったのは、宇宙コンピューティングの事例でした。ここで言う宇宙とは、商業衛星の打ち上げのことではなく、防衛分野や月面インフラ事業を指しています。地政学的な競争が地球外へと広がれば、人工衛星や月面システムにも、意思決定が行われる場所に近いところでのデータ処理やメモリ、推論能力が求められるようになるでしょう。このようなことを文章に表す日が来るとは思ってもいませんでしたが、つまるところ、AIは、ほぼあらゆる方向でコンピューティング・インフラ需要を創出しているということです。世界がもっと単純であったらとは思いますが、科学は、我々の希望や懸念に関わらず進歩しています。

要は、半導体チップだけでなく、コンピューティングを支える大規模な物理インフラ全体が、世界的に不足しているのです。

2月に執筆したレポート、「メモリは新たな石油」の中で、メモリがAIインフラ構築における主要なボトルネックの1つとなりつつあることを指摘しました。実際、その見方はほぼ誰も予想しなかったスピードで現実のものとなりました。しかし、現在の課題はメモリ不足にとどまりません。メモリの供給不足は、単なる技術的な制約から、経済全体に影響を及ぼす波及的メカニズムへと変化しつつあります。

原油価格の上昇がガソリン価格の上昇を通じてインフレをもたらし、他の分野での消費者による支出削減につながるように、メモリの供給不足をはじめとするAI関連のボトルネックは、最終的に企業の売上原価を押し上げ、シリコンバレーとは縁のないような業種・企業の収益にも圧力を及ぼすと考えられます。こうした変化は、特にパッシブ投資家にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、企業のビジネスモデルや収益構造の多くは、これとは逆の前提の下で構築されてきたからです。

過去数十年にわたり、投資家は半導体デフレ、すなわち半導体価格の継続的な低下を当然のこととして享受してきました。一般的に、性能の向上と共にコストの低下をも入手できる環境が続いてきたためです。そのため、多くの企業のビジネスモデルは、テクノロジー関連の投入コストが時間の経過とともに低下するとの前提の下に構築されてきました。しかし、現在進行しているコンピューティング能力の構築競争は、その前提を覆しつつあります。高帯域幅メモリ、サーバー向けDRAM、エンタープライズストレージなどの供給は、AIインフラ向け需要に優先的に振り向けられています。一方で、PC、スマートフォン、自動車、ネットワーク機器、産業用ハードウエア、その他の半導体チップ搭載製品のメーカーは、残された供給を巡って競争を余儀なくされています。ある企業にとっては戦略的な成長投資に映る動きが、別の企業にとっては粗利益率を直接的に圧迫する要因となり得るのです。

こうした点から、今回のテクノロジー視察ツアーでは参加者の顔ぶれが極めて重要でした。テクノロジー担当のアナリストはサプライチェーンのボトルネックを特定でき、またジェネラリストやポートフォリオ・マネジャーは、「最終的にどの企業の財務に打撃が及ぶのか」という次の問いに行きつくことができました。

企業がコスト上昇に直面したときに取り得る選択肢は限られています。価格転嫁を図るか、自らコストを吸収するか、あるいはその2つを組み合わせるかです。

価格を引き上げる場合、顧客需要の価格弾力性が試されることになります。最近の例として、生活必需品セクターが挙げられます。多くの企業が十分なプロダクトイノベーションを伴わないまま値上げを実施した結果、消費者は代替製品へ容易に移行できるということが判明し、結果として販売数量は減少し、バリュエーションは低下しました。一方、価格を据え置く企業は、顧客基盤は維持できるものの、利益率が低下し、投資家の期待に満たないリスクが高まります。

市場で広く語られているAI関連投資のストーリーには、こうした機微が十分に織り込まれていないと考えます。企業は、AIの活用により業務効率の向上が期待できる一方で、AI需要の拡大がもたらす資源コストの上昇によって収益が圧迫される可能性もあります。テクノロジーによる生産性向上の恩恵は、競争を通じて徐々に業界全体へ還元される傾向があり、AIも例外ではないと考えます。つまり、生産性向上の恩恵を享受しながらも、売上原価の上昇圧力や、それに重ねて市場シェアを維持するための投資負担を抱える可能性があります。

最終的な格差を生むのは経済的な競争優位性です。

差別化された製品を提供する企業や、顧客業務に不可欠なソリューションを提供する企業、あるいは強固なブランド力を持つ企業は、収益率を維持しやすい位置づけにあると考えられます。一方で、価格感応度の高い最終市場で代替性の高い製品を販売する企業は、コスト上昇分をどこまで価格転嫁できるかを決めるのは財務モデルではなく、顧客であるということを痛感する可能性があります。その結果、資本収益率(ROIC)に関する前提が揺らぐ可能性があります。

こうした圧力は、総合インフレ率には十分に表れていない可能性があります。影響を受ける製品の多くは、物価指数に占めるウェイトが比較的小さいためです。しかし、生産者物価やAI関連支出の動向、さらには製品の供給状況に目を向けると、状況は異なるかもしれません。パラダイムシフトの局面では、最も重要な変化が平均値に埋もれてしまうことが少なくありません。

過去の環境に基づき構築されたベンチマークやポートフォリオは、価格転嫁力を持つ企業と持たない企業とを区別していません。また、インデックスは、AIによって競争力が強化される企業と、AI関連の競争激化や投入コストの上昇によって利益率が圧迫される企業とを区別しません。パッシブ運用では、AIがもたらすインフレの恩恵を受ける企業と負の影響を受ける企業の双方を保有することになります。

だからといって、最近のパフォーマンスを見てわかる通り、アクティブ運用が容易というわけではありません。しかし、このような環境下では、ファンダメンタルズ分析の重要性が一段と高まることは確かだと考えます。

今回の視察ツアーで得られた結論は、AIは需要と同時に、コストショックをももたらすということです。AIは業種横断的に資源コストを押し上げる一方で、参入障壁を引き下げ、新たな競争を可能にします。この2つの力が相まって、真に強固な経済的競争力を有する企業と、市場が想定するほど持続的な収益力を持たない企業との格差は拡大すると、我々は考えています。そして、まさにこのような環境でこそ、アクティブ運用の付加価値能力が発揮されると考えます。ベンチマークは成功する企業と苦戦する企業の両方を区別せず組み入れますが、アクティブ運用では、供給アクセス、価格決定力、資本規律を備え、より持続的な収益率を実現できる企業と、過去の利益率を単に将来に持ち越す企業とを選別して組み入れることが可能です。

このような環境では、AIの恩恵を明らかに受ける企業を保有することと同じく、AIがもたらすインフレの影響を将来的に受けうる企業を回避することが重要になると考えます。

 

すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購 入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するも のではありません。

ご利用にあたっての注意事項

執筆者

Robert M. Almeida

ポートフォリオ・マネジャー兼グローバル・インベストメント・ストラテジスト

68576.1
close video