AIはソフトウェア株のストレスに
執筆者
Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト
概要
- テクノロジー、特に人工知能(AI)にはデフレ的な性質があり、従来の非効率性を前提としたビジネスモデルにディスラプション(創造的破壊)を引き起こします。
- 金融市場では、AIの普及によりソフトウェアが供給過剰に陥り、価格決定力が弱まることが懸念されています。
- ディスラプションがまだら模様に進行している環境では、アクティブ・マネジャーに魅力的な投資機会が生まれます。
テクノロジーには元来デフレ的な性質が備わっています。より安価で効率的なソリューションを生み出すことで経済の非効率性を低減し、活発化させるためです。しかし、その非効率性を基盤とした収益モデルを採用している企業にとっては、利益への影響は決して小さくありません。
AIを取り巻く期待と約束の大きさに追随するように、AIが及ぼす未知の影響も極めて大きいといえます。金融市場では、AIの普及がソフトウェア・セクターに及ぼす脅威や緊張が注視されています(図表1)。
これは短期的な成長見通しを市場が判断したものではありません。AIの普及によりソフトウェアが過剰供給に陥り、価格決定力が低下することで、最終的にはリターンの持続と成長の継続を妨げるかもしれないという、より深刻な懸念を表しています。
リスクは細部に宿る:AIがソフトウェアに及ぼす4つの影響
ソフトウェア産業は一枚岩ではなく、AIから受ける影響は、ビジネスモデルや活用方法によって大きく異なります。真の代替リスクに直面する分野もあれば、耐性が相対的に高く、場合によってはAIによって独自の価値提供が一段と高まり得る分野もあります。MFSのソフトウェア・アナリストでありテクノロジー・セクターのリーダーであるMatt Dohertyによると、AIが及ぼす影響は大きく4つあります。真のリスクと、リスクが過大評価されている可能性の所在は以下の通りです。
AIはソフトウェアの内製を容易にする
「バイブコーディング 」とも呼ばれるAI駆動のコード生成により、企業は理論上、ソフトウェアの社内構築が可能になり、外部ベンダーへの依存度を減らすことができます。
しかしながら、このリスクは実践的観点からは低いと見られます。AIがコード開発の技術的なハードルを下げるのは確かですが、企業はソフトウェアを導入する際、一般的にセキュリティ、コンプライアンス、ガバナンス、信頼性など、技術以外の要因から可否を判断します。企業の最高情報責任者の最近の発言もこれを裏付けており、コーディングは業務に不可欠なソフトウェアを保有・運用する上での要素のごく一部に過ぎないと言えます。
AIは新規ソフトウェアベンダーの参入障壁を引き下げる
テクノロジーはコスト曲線を一貫して押し下げ、かつてはコストが高すぎるゆえに実現しなかった新たなビジネスや新たな産業の台頭を可能にしてきました。これはまさにソフトウェア産業にも当てはまるため、投資家は競争激化や参入障壁の低下を懸念してきました。
しかし、ソフトウェア・セクターはもともと魅力的な利益率と高い投下資本利益率で、ベンチャー資金と競争を常に呼び込んできました。CRM(顧客関係管理)、ERP (統合基幹業務システム)、会計、カスタマーサポートといった垂直事業には、この数十年の間に何千もの企業が新規参入してきましたが、それでもHubSpotやIntuitなどの既存企業は市場シェアを伸ばし続けてきました。競争が激化したからといって、販売チャネル、スイッチングコスト、エコシステム、ブランドへの信頼といった持続的な優位性が必ず崩れるわけではありません。
AIネイティブ・アーキテクチャと将来の料金モデル
エージェント型AIの台頭により、従来型のユーザーベースの料金モデルを採用しているソフトウェアビジネスの陳腐化リスク懸念が高まっています。ただ、実際には料金モデルはハイブリッドな形態になると我々は考えます。顧客がコストの明確化を求めるため、先進的なAIネイティブ・アプリケーションは、多くがユーザーベースの料金体系を採用しています。この種の従量課金モデルはインフラには有効ですが、ビジネスワークフローに適用すると、労働代替効果 や有形資産のROIが不明確であることから、企業が予算策定する上での不確実要因となります。
料金モデルは今後おそらく、ユーザーベースとバリューベースを組み合わせた形へと進化していくと考えられます。既存のソフトウェア企業はこれまでにも主要なビジネスモデル転換を成功裏に乗り越えてきており、アクティブ・マネジャーにとって大きな投資機会を生み出してきました。
価値の移転:大規模言語モデルや垂直統合型プラットフォームへの移行
最大の構造的リスクはここにあります。かなり複雑なシナリオであるため、比喩で説明した方が分かりやすいかもしれません。ソフトウェア・アプリケーションをレストラン、AIをデリバリーのスーパーアプリに例えてみます。
かつて、レストランは顧客と直接的な関係を築いていました。その後、デリバリーアプリが登場し、需要をコントロールし、利益の一部を占有するようになりました。レストランは今も変わらず料理を提供していますが、顧客との接点や顧客のロイヤルティは薄れてしまいました。この比喩では、ソフトウェアがレストラン、データが料理、AIモデルがデリバリープラットフォームを指しています。
このリスクは現実のものです。ただし、すべてのソフトウェアに当てはまるわけではありません。単なるデータ保管庫に過ぎないソフトウェアや、反復的でスイッチングコストの低い業務フローでは、その機能を代替される可能性があります。しかし、信頼性、コンプライアンスや説明責任が求められる、複雑な業務フローの中に組み込まれたコードは、置き換えがはるかに難しくなります。アプリケーションとは、単なるデータやコードではなく、業務フローそのものだからです。
LLM(大規模言語モデル)の登場は、必ずしもソフトウェアの終わりを意味するものではなく、時間の経過とともに価値が蓄積される場所が変化する局面であり、ファンダメンタルズ重視の投資家に多大な投資機会をもたらす可能性があります。
結論
ソフトウェア以外の分野では、AIは一般的に、企業における新たな生産性向上サイクルの呼び水として捉えられています。それは正しいかもしれない反面、生産性の向上は歴史的に競争によって妨げられてきました。AIがソフトウェア以外の産業のコストと参入障壁を引き下げると、新たな競争が出現し、利益構造を再編するとともに、時代遅れのボトルネック要因に依存する企業の株価を押し下げることにつながります。AIの普及により、同じ産業内においても突出した勝者と恒久的な敗者が生じる可能性が高くなるかもしれません。
このような状況下では、アクティブ運用の重要性が一層高まります。ディスラプションがまだら模様に進行する局面においては、ビジネスモデル、インセンティブ構造、顧客との関係性、変化への適応力といった本質的なファンダメンタルズが、企業の成功を左右する重要な要因となります。
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