AIとインフレと銘柄選択
執筆者
Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト
概要
- 市場環境は、低インフレ・低金利の時代から、コスト上昇と供給制約を伴う新たな局面へと移行しています。
- 人工知能(AI)は成長をけん引していますが、その導入には物理的インフラへの巨額投資を要し、それが足元の価格上昇圧力を一段と強めています。
- コスト上昇に伴い、価格決定力を持つ企業とそうでない企業との格差が拡大しており、銘柄選択の重要性が一段と高まっています。
投資における新たなレジーム
足元でパラダイムシフトが進行中であるとの見方については、これまでも繰り返し論じてきました。必ずしも実感を伴っていなくても、パラダイムシフトは進行していると我々は見ています。昨今の投資家は、幅広い市場へ分散投資することで大きなリターンが得られた2010年代の市場経験に依拠している傾向があります。当時の市場環境は、低インフレ、低金利、安定的な成長に加え、バリュエーションの持続的な上昇を伴っていました。また、企業は設備投資よりもアウトソーシングやコスト削減、金融工学を通じて利益を拡大していました。市場全体の上昇を受けてパッシブ運用が奏効したため、投資家は概してプラスの投資成果を得ることができ、反動は限定的でした。
しかし、こうした状況は変わりつつあります。2022年以降、家計・企業・政府の支出は加速しています。インフレは大方の予想以上に長期化しており、それに伴い金利も上昇しています。経済は再び資本集約度が高まっており、人件費、エネルギー、資材、設備といったコストが、企業の明暗を左右する重要な要因となっています。
AIの物理的側面
こうした変化の中心にあるのがAIですが、AIがもたらす当面の影響は、AIを主にコスト削減のツールと捉えている投資家にとっては想定外のものかもしれません。AIは長期的には生産性を向上させ、多くの産業で参入障壁を引き下げ、新たな競争を促すことで、デフレ要因となる可能性があります。しかし、足元の状況はそうではありません。AIを大規模に構築・展開するには、まず膨大な設備投資が必要です。たとえばデータセンター、半導体、メモリ、発電設備、送電インフラ、冷却システム、レアアース資源、高度技能人材などへの投資です。AI技術自体はデジタルであるものの、それを支える基盤は物理的な設備です。
これは重要なポイントです。なぜならば、経済は十分な設備投資が行われないままに今の局面を迎えてしまったためです。長年の過小投資により資本ストックは消耗しており、AIの国内回帰や経済の強靭化を支えるためのインフラは、必要な規模に達していません。その結果、これらインプットに対する需要は、物理的な整備を上回るペースで増大しており、この需給の不均衡がコスト上昇を招いています。これは金利が高止まりしている背景の1つでもあります。
コスト上昇は勝者と敗者を生み出す
投入コストの上昇は、今や消費者と企業の双方にとって避けられない現実となっています。家計は食品、電力、家賃、保険、運賃の上昇を通じてこれを実感しています。一方企業は、賃金、物流、原材料、エネルギー、IT支出の増加の形で影響を受けています。こうした圧力は一時的なものではなく、経済構造の変化を反映したものです。
すべての企業がこうしたコストを無限に吸収したり、価格に転嫁できるわけではありません。それが可能であれば、現在のインフレはさらに深刻なものとなっていた可能性があります。現実には、持続的なコスト上昇は産業間・企業間の利益の再配分をもたらす可能性が高いと考えられます。希少資源を保有する企業、半導体や電力設備など重要な供給を担う企業、あるいは価格決定力の高い企業は、すでに優位性を示しています。一方で、代替性の高い製品・サービスを提供する企業は、競争の激しい市場環境の中で利益率の維持が難しくなります。こうした格差は時間とともに業績格差として顕在化し、アクティブ運用において重要な投資機会を生み出します。
なぜ今、銘柄選択が重要なのか
こうした環境下、慎重な銘柄選択の重要性が特に高まっています。理由は2つあります。第1に、将来が過去を踏襲しないならば、市場全体への分散投資は必ずしも有効な戦略ではなくなるということです。過去の勝者が今後も勝ち続ける環境では、パッシブ運用が最も高い効果を発揮します。しかし、持続的な競争優位性を有する企業と、まだ織り込まれていない構造的な逆風に直面する企業とを見極める必要がある局面では、アクティブ運用の付加価値が高まります。
第2に、足元の市場では株式リスクプレミアムが低水準にあることです(図表1参照)。市場全体へのリスクテイクに見合うリターンが得られない場合、パフォーマンスが期待を下回る企業を保有するコストは相対的に大きくなります。銘柄選択ミスを吸収する余地が小さくなる中、ポートフォリオ構築の重要性が一段と高まっています。
投資にあたって重要な問いは、もはやAIが生産性を向上させるかどうかということではありません。我々にとってそれは当然の前提です。むしろ重要なのは、AI導入に伴い利益率、市場シェア、顧客基盤に発生するコストを誰が負担するのかということです。従来のレジームでは、金融工学、デュレーション、バリュエーションの拡大が利益の増大に寄与してきました。一方、新たなレジームの下では、希少性、再投資、レジリエンス(強靭性)、価格決定力が重要となると考えられます。そして、このパラダイムシフトはすでに進行していると、我々は見ています。
S&P500指数は、米国の幅広い株式市場を対象とした指数です。指数に直接投資することはできません。
「Standard & Poor's®」およびS&P「S&P®」はStandard & Poor's Financial Services LLC(以下、「S&P」といいます)の登録商標であり、Dow JonesはDow Jones Trademark Holdings LLC(以下、「Dow Jones」といいます)の登録商標です。S&P Dow Jones Indices LLCはこれら登録商標の使用許諾を受け、MFSは特定の目的のためにサブライセンスを受けています。S&P 500®はS&P Dow Jones Indices LLCの商品であり、MFSはこの使用許諾を受けています。MFSの商品は、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、またはそれぞれの関連会社によって出資、保証、販売、または販売促進されておらず、また、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、それぞれの関連会社は、かかる商品への投資の妥当性についていかなる表明も行っていません。
当レポートで示されている個別銘柄は例示のみを目的としており、投資助言あるいはMFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきではありません。
すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。
当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。