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Strategist’s Corner

価値の創造と価値の獲得

本稿では、AIが社会や企業に大きな価値をもたらす可能性がある中で、投資家にとっては価値創造そのものよりも、その価値をどの企業が獲得できるのかを見極めることが重要であるとの、グローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します。

概要

  • 革新的なテクノロジーが革新的な投資リターンをもたらすとは限りません。
  • AIに関して最も重要なのは、どれだけの価値を創出するかではなく、その価値を獲得するのは誰かということです。
  • AIを収益化できる企業と、単にAIに資金を投じ、その活用を後押ししたり、あるいはその恩恵を無償で提供してしまう企業とを見極めるうえで、アクティブ運用の重要性が一段と高まる可能性があります。

テクノロジー分野に投資する際に最も難しい課題の1つは、テクノロジーの有用性と、その開発・提供企業が享受する利益の持続性とを切り離して評価することです。歴史を振り返ると、社会に大きな変革をもたらしながらも、株主には期待外れのリターンしかもたらさなかったイノベーションは数多くありました。

その代表例が電力と言えるでしょう。電力は工場、家庭、輸送、通信のあり方を一変させました。トーマス・エジソンは膨大な価値の創出に貢献しましたが、その価値の多くは家庭、製造業、都市、労働者、消費者へと広く波及しました。すなわち、社会全体が創出された剰余価値を享受したのです。

一方、インターネットは、少なくとも一部の限られた企業において異なる展開となりました。Amazon、Google、Netflixなどの企業は直接顧客と接点を持ち、流通チャネルを掌握するとともに、優位性の高いデータを蓄積することで、価値を獲得する仕組みを構築しました。さらに、利用拡大に伴ってコスト効率が向上する構造の下、利用拡大がそのまま収益性向上につながりました。

この2つの違いは重要です。なぜならば、投資家は生産性に投資するのではなく、将来のキャッシュフローに投資するからです。

AIが価値を創出するであろうことは、ほぼ間違いないと考えます。文章作成、プログラミング、リサーチ、設計、分析、意思決定などを効率化し、多くの認知タスクのコストを低減させるとともに、新たな製品やサービスの創出を促す可能性もあります。しかし、重要なのは、AIが価値を創出するかどうかではありません。その価値がどこに帰属するのかということです。

フロンティアAI(最先端の高性能AIモデル)ついて、その答えは現時点では明らかではありません。.

テクノロジー産業はもはやアセットライトではない

その第1の課題はコストです。2010年代のソフトウェア・プラットフォームとは異なり、フロンティアAIはアセットライト型のビジネスではありません。提供されるのはクラウド上であっても、そのクラウドを支えているのは物理的なインフラです。AIは、データセンター、半導体、メモリ、ネットワーク機器、電力、冷却設備、用地、各種許認可、高度人材、そして莫大な資本を必要とします。AIモデルの学習には多額のコストを要し、運用においても相応のコストを要します。個々のクエリはデジタルで処理されても、その背後では物理的な資源が消費されているのです。

そのため、フロンティアAIには従来のテクノロジー企業とは異なる経済的特性が見られます。インターネット2.0時代のプラットフォーム企業は、優れた営業レバレッジの恩恵をたびたび享受してきました。すなわち、一度プラットフォームを構築すれば、追加ユーザーにサービスを提供する際の限界費用は極めて低く抑えられたのです。しかし、一部のフロンティアAIモデルでは逆の現象が起こりえます。つまり、利用が拡大するほど、より多くの計算能力、メモリ、電力が必要となり、コストも増加する可能性があるということです。規模の拡大は売上成長をもたらす一方で、売上原価の増加にもつながり得ます。

「必要十分」で足りる場合

第2の課題は差別化です。顧客は常に最先端のテクノロジーを求めているわけではありません。求めているのは、許容可能な価格で必要十分な成果を提供するテクノロジーです。

例えば、法務文書の要約、ソフトウェアのテスト、マーケティング資料の作成、あるいはカスタマーサポート業務などに低コストのモデルで対応できるのであれば、多くの顧客は高いコストを払ってまでフロンティアモデルを入手しようとはせず、低コストの代替手段を選ぶでしょう。トークンは一見すると抽象的なデジタル単位に見えますが、その価格は重要な経済シグナルの役割を果たしています。すなわち、計算能力、メモリ帯域、電力、推論処理能力が希少資源であることを示唆しているのです。価格が上昇したり、予算が厳格化されると、投資対効果の低い用途は、より安価で効率性の高いモデルへと移行していくと言えます。そうなった場合、高コストのAIの利用は、コストに見合う用途に限定されるようになると考えられます。

これは、フロンティアAIが失敗するという意味ではありません。市場が二極化する可能性を示唆しているということです。最先端の高性能AIモデルは複雑で高付加価値の業務に活用され、日常的な用途については、より小型で低コストかつ専門特化型のシステムへ移行する可能性があると考えます。その結果、AIの利用が拡大する一方で、価格決定力は低下する可能性があります。また、利用が急増しても、価値の獲得が期待に満たない可能性もあります。投資家はこうしたシナリオも考慮しておくことが必要であると、我々は考えます。

さらに、交渉力に関しても課題があります。顧客企業がAIによってコストを削減できたとしても、市場競争の下、そのコスト削減効果を最終顧客へ還元せざるを得なくなる可能性があります。また、AIの活用に希少な半導体チップ、メモリ、電力が必要となるのであれば、その経済的価値が帰属するのはサプライヤーとなる可能性があります。また、AIのアウトプットが他社のアプリケーションに組み込まれる場合には、その業務フローを提供する企業に価値が帰属する可能性があります。さらに、モデル間の性能格差が縮小すれば、顧客が複数のプロバイダー間で価格を競わせることができるようになる可能性もあります。つまり、AIは価値を創出しますが、フロンティアモデルの提供企業がその価値を十分に獲得できるとは限らないということです。

だからこそ、価値創造と価値獲得を区別して考えることが重要です。企業が世界を変えるような技術革新を実現したとしても、価格決定力、顧客基盤、差別化されたデータ、流通網の支配力、あるいは優れたユニットエコノミクス(顧客1人あたりの採算性)に欠ける場合、投資対象として魅力的とは限りません。

では、価値はどこに帰属するのか

我々は、希少な投入資源を支配する企業、信頼性の高い業務フローを保有する企業、独自性のあるデータを有する企業、顧客にとって不可欠な用途を提供する企業、あるいは既存の顧客基盤の中でAIを統合・展開できる流通力や顧客接点を有する企業が、価値を生み出す可能性が高いと考えています。

一方で、競争優位を維持するために継続的な投資をしながら、その投資に見合う収益を獲得できない企業は、リスクが高いと考えます。こうした企業では、AIの導入を進めたり、AIに資金を投じ、あるいはAI関連製品を販売しても、創出された価値の恩恵の多くが他社に流出してしまう可能性があるためです。これはテクノロジーの問題ではなく、ビジネスモデルの問題です。

結論

市場では、AIがどれほど大きな市場へと成長するのかが依然として議論されていますが、それは比較的答えやすい問いだと考えます。より難しく、かつ重要なのは、AIによって創出される剰余価値がどのように分配されるのかということです。

市場インデックスは、価値を創出する企業も価値を獲得する企業も区別しません。インデックスには、資本集約型のAIモデル開発企業、希少な投入資源を供給する企業、業務フローを提供する企業、AIの恩恵を受ける企業、さらにはAIによって不利益を被る企業までもが含まれています。一方、アクティブ運用は、異なる視点から投資機会を評価することが可能です。単にどの企業がAIにエクスポージャーを有しているかではなく、AIによってどの企業の収益性が改善する可能性があるのかを評価します。

AIは我々の時代において最も重要なテクノロジーの1つとなる可能性があります。しかし、価値の創造は社会全体で享受する一方で、その価値を獲得するのは資本の所有者です。価値創造と価値獲得の違いこそが、株式市場のリターンの次の局面を左右する重要な要因になる可能性があると考えます。

 

当レポートで示されている個別銘柄は例示のみを目的としており、投資助言あるいはMFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきではありません。

すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

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執筆者

Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼グローバル・インベストメント・ストラテジスト

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