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利益のみにあらず:高金利時代の国境を越えた銀行銘柄評価

本稿では、世界の銀行銘柄に対する評価能力を強化し、より多くの情報に基づいた戦略的な資本配分を促進することを目指してMFSが独自に開発した「グローバル銀行比較フレームワーク」について概説します。

執筆者 

Shanti Das-Wermes
株式ポートフォリオ・
マネジャー  

Paul Centauro, CFA
シニア・ストラテジスト
インベストメント・ 
プロダクト・スペシャリスト

 

INSIDE VIEW WEBCAST本編(英語のみ)

海外市場の新たなけん引役 

世界金融危機から新型コロナ危機までの期間、米国を除くグローバル株式市場の銀行銘柄は低迷してきました。低金利(国によってはマイナス金利)と規制強化で、銀行が株主リターンを創出しにくい環境にあったことがその背景です。しかし、2021年末以降、各国でインフレが定着し、低金利から高金利へと移行すると、特に欧州の銀行が顕著なパフォーマンスを上げるようになり、長期にわたり市場をけん引してきた「マグニフィセント・セブン」銘柄をも上回るパフォーマンスを挙げました。

潜在的なパラダイムシフトに対応する 

2023年末から2024年6月にかけて、金融業界が長期的な高金利環境に適応してゆく中で、MFSのグローバル金融セクター・チームは、グローバルに統合されたインベストメント・プラットフォームを活用して銀行セクターの価値を引き出すためのユニークな機会を考案しました。変化する市場のダイナミクスと、複雑さの中で明確さが求められる状況を認識し、持てる専門知識を結集して「グローバル銀行比較フレームワーク」を開発しました。このフレームワークは、分析の一貫性を確保し、議論を活性化させ、特に全社的に銀行株の保有を拡大し、アナリストが直接運用する「リサーチ・ポートフォリオ」において最も魅力的な銘柄を保持することを支援する強力なツールです。

銀行は本質的に複雑な存在であり、政府の関与、規制環境、信用プロファイルや要件、経営体制などの要因によって、地域や国ごとに大きく異なります。規制の変更はこうした複雑さに拍車をかけるため、異なる国・地域の銀行を比較するには、詳細な知識とツールの両方が必要です。日用品や資本財企業とは異なり、その構造や業務は比較が容易ではないため、銀行の分析には繊細なアプローチが求められます。

例えば最近、米国の大手銀行に適用されている補完的レバレッジ比率(SLR)が緩和されましたが、これは規制の変化が銀行の国内外での魅力に大きな影響を与えうることを示す一例です。SLRの引き下げにより、米国の銀行の資本要件が変化し、国外の銀行との競争環境が再編されました。このことは、規制の変化が資本ニーズや株主リターンに長期に与える影響を理解しておくことの重要性を物語っています。

金融サービスセクター・チームの間では、銀行を専門外とする担当者が国・地域を超えて銀行銘柄の比較を行う際の課題がしばしば議論されていました。支援ツールは複数ありましたが、特に規制変更が最終段階に近づいている状況下では、法域の違いによる複雑性を解消し、ポートフォリオ・マネジャーを支援する堅牢なフレームワークが必要であるとの認識に達しました。このフレームワークは、収益のみに焦点を当てるものではありません。収益は資本リターンと必ずしも一致しないためです。むしろ、アナリストには投資ユニバース内で銀行を比較する手段を提供しつつ、ポートフォリオ・マネジャーには株主総利回りを包括的に考えることを可能にするフレームワークです。

新たなマクロ経済環境下で銀行セクターへの構造的な追い風が吹き始める中、この取り組みは、見過ごされがちな投資機会を捉えることを可能にしました。

このフレームワークを通じて、MFSのアナリスト・チームは以下の3つの目標を達成することを目指しました。

 

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大手銀行や地方の中堅銀行を含む世界の銀行の長期リターン特性と想定される成果のレンジを評価する。

アナリストが直接運用する「リサーチ・ポートフォリオ」における銀行の既存ポジションを評価し、ポジショニング状況をMFSのインベストメント・プラットフォーム全体に適切に共有する。

将来の成長が確信できる銀行銘柄を保有する。

金融サービスセクター・チームの間では、銀行を専門外とする担当者が国・地域を超えて銀行銘柄の比較を行う際の課題がしばしば議論されていました。

 

使用した主なインプットは以下のとおりです。 

  • ファンダメンタルズ—同条件で企業を比較する
    —有形自己資本利益率(RoTE)の地域別内訳を分析しました。RoTEは一般的にバランスシート集約型企業を分析する際に使用される指標です。将来のRoTEは、世界金融危機後および新型コロナ後と比較すると世界的に高く、特に欧州の一部銀行はリターン特性が大幅に改善していました。また、一見魅力的でも、精査した結果、アナリストの予想に対して魅力が劣る地域もありました。

—成長特性の異なる銀行を比較するため、フリーキャッシュフローに代わる指標としてフリーキャピタル生成利回り(FCGY)を使用しました。再投資ニーズ、規制変更、最終的な資本分配の可能性を考慮した指標で、時に一貫性に欠けることのある株式益回りよりもこのフレームワークには適していると判断しました。FCGYを使用することで、先進国とエマージング市場の両方で際立つ銀行銘柄が多数浮き彫りとなりました。

—資本リターンの分析には、配当と自社株買いを組み合わせて使用しました。自社株買いは、米国および欧州では資本リターンの重要な構成要素となっています。向こう3暦年の資本リターンを独自予測し、銀行の足元の時価総額に対する割合を算出することで、世界各地の資本リターン算定方法の差異を簡潔に理解できるデータを創出しました。これに基づき、FCGYが高く融資成長の低い欧州の銀行が信用リスクに対する安心感を提供する点で魅力的であると、アナリストは判断しました。

自社株買いは米国および欧州では資本リターンの重要な構成要素となっています。

  • バリュエーション—銀行のバリュエーション評価では、各アナリストからのインプットをチーム内で比較・検討し、適合性と一貫性を確保しました。
  • 結果のレンジ—様々な金利環境における純金利収入に関し社内で統一した想定値を適用し、RoTEと資本リターン特性のさまざまな結果を評価しました。
  • レジリエンス(耐性)—過去の事例と現在のエクスポージャーを考慮して、銀行の信用リスクへのエクスポージャーおよび損失吸収能力を評価しました。

実践の結果 

MFSが独自に開発した「グローバル銀行比較フレームワーク」は、世界の銀行銘柄の将来のリターン特性およびリスク/リターンの評価能力を強化し、より多くの情報に基づいた戦略的な資本配分決定に寄与するツールであると考えます。今回初めて実践したところ、アナリストが直接運用する「リサーチ・ポートフォリオ」における銀行のアンダーウェイトを解消し、インベストメント・プラットフォームが選別した欧州銀行に対する確信度を維持・強化するのに役立つことがわかりました。また、あるポートフォリオ運用チームは、2022年初頭は銀行へのエクスポージャーがほとんどなく、その後保有比率を引き上げてきていましたが、このフレームワークを活用して既存の銀行銘柄を再評価することができました。当チームが組み入れている日本と欧州の銀行はバリュエーションが似ているものの、分析の結果、欧州銀行のほうが市場構造が強固で、資本リターンの潜在性が高いことが明らかになりました。この洞察に基づき、当チームは日本の銀行へのエクスポージャーを減らし、新たに欧州の銀行に資金をシフトして、確信を強化しました。

この取り組みは、地域をまたいだコラボレーションを促進し、タイムリーな洞察をもたらし、ポートフォリオに確信度の高い投資機会を組み入れる、グローバルに統合されたMFSのインベストメント・プラットフォームをさらに強化するものです。MFSは、市場をまたいで投資アイデアを結びつけることにより、ますます複雑化する金融環境において一貫したアウトパフォーマンスを提供することを目指しています。

 

当レポート内で提示された見解はMFSの見解です。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFSの代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

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