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報道だけでは分からないこと:リスクと機会の拡大

本稿では、MFSの株式および債券の運用プロフェッショナル、ユーラシア・グループの地政学の専門家、様々な投資家が参加した討論会で得られた、エネルギー転換や先端技術における報道だけでは分からないリスクや投資機会についての主なポイントをご紹介します。

Authors

MFS INVESTMENT MANAGEMENT
Victoria Higley
Institutional Equity Portfolio Manager

Owen Murfin
Institutional Fixed Income
Portfolio Manager

Vishal Hindocha
Global Head of Sustainability Strategy

THE EURASIA GROUP
Lucy Eve
Senior Strategist 
Global Macro Geoeconomics

Henning Gloystein
Director, Energy, Climate & Resources

概要

MFSでは、投資に関連するリスクや投資機会を大局的にとらえるため、ボトムアップのリサーチの過程でユーラシア・グループなどのパートナーによるトップダウンのマクロ見通しや地政学的洞察も活用しています。MFSの株式および債券の運用プロフェッショナル、ユーラシア・グループの地政学の専門家、様々な投資家が参加した討論会で得られた主なポイントをご紹介します。

エネルギー転換と安全保障

ネガティブな報道が企業の実態を反映しているとは限りません。ネットゼロへの移行に関する悲観的な報道も見られますが、MFSでは、企業が民間、スタートアップ、既存企業が提供する技術・ソリューションに多額の投資を行っているとみています。ネットゼロは、炭素回収や代替エネルギー源としての水素のような新たな技術が広範に普及することで達成されるもので、その道筋は直線的ではなく、段階的な変化を積み重ねていくものになると思われます。

年金基金は、ダイベストメント(投資撤退)か、それともエネルギー移行に関連の投資を行うかを議論しています。年金基金には、気候目標達成に対するコミットメントが求められていますが、最善の投資策を巡る議論は過熱しています。ダイベストメントは魅力的な選択肢ではあるものの、2030年および2050年の目標達成に必要な変化を実社会にもたらす可能性は低いと考えられます。投資家が投資機会を見出すには、企業との積極的な対話が必要です。

業種別にみると、地域によって企業の評価に差が生じています。欧州連合(EU)はエネルギー転換のリーダーになることを目指しており、このことはEU域内に本拠を置く企業に影響を与えています。BPは設備投資の20%を再生可能エネルギーに投入することや、余剰資金による自社株買いをコミットしており、同社の株価収益率は6倍、配当利回りは7%で推移しています。投資家は10年以内に投資資金を回収することができるでしょう。米国企業に目を向けると、再生可能エネルギーへの設備投資予算は相対的に少なく、株価収益率は2倍で推移し、配当金へのコミットメントも少ない状況にあります。投資家は、すでに保有する資産の運用を継続しながらも、エネルギー移行を支援することへのインセンティブがあれば、そこに機会を見出す可能性もあります。また、一部の企業はサステナビリティ特性の改善や株価収益率の引き上げを目的に、炭素関連資産から資金を引き上げています。

エネルギー政策は、危機管理対策から長期的な適応策へと移行しつつあります。ロシアによるウクライナ侵攻を受けたエネルギー供給問題では、工業生産の損失を回避すべく対策が講じられました。罰金や禁止措置と共にインセンティブを盛り込んだ政策により、化石燃料への依存度は急速に低下し、将来的なEU内の供給不足リスクも低下しました。産業の空洞化への懸念が報じられましたが、エネルギー使用量が急速に減少する中でもドイツや日本の生産量は増加しました。エネルギー不足や政府の補助金は、企業や家計が効率を上げ国内の生産能力に投資するためのインセンティブとなっています。各国政府は、今後5~10年の間に経済的な生産性が向上することを期待しています。

大規模な景気刺激策によって、米国および欧州に投資機会が生まれています。米国のインフレ削減法、EUの半導体法やグリーンディール産業計画といった大規模な政策は、企業の考え方に変化をもたらし、化石燃料への依存度の低下につながりました。EUの補助金制度は毎年の申請が必要であることに加え、税制上のメリットを享受するのに時間を要する一方、米国は税制上のメリットを直接的に獲得できるなど制度面で優れており、グリーン産業における雇用創出につながっています。

長期的には、エネルギーインフレの鎮静化が予想される一方で、食品価格の動向は懸念されます。エネルギー価格ショックは急激なインフレを招き、エネルギーコストが低下しても価格は高止まりしています。エネルギー転換にかかるコストは今後数年間にわたり「グリーンインフレ」を引き起こす可能性があります。しかし、新たな技術が発達しその規模が拡大するにつれて、エネルギー価格は長期的には下落するとみられます。炭化水素需要の不確実性は高く、石炭の消費量と価格の推移と同様に、石油やガスの価格は需要が低下しても高止まりすることが考えられます。天候による食料不安の高まりや、インドなどの純輸出国が純輸入国になる可能性を考慮すれば、食品インフレのリスクは過小評価されているとみられます。

中央銀行による過剰な金融引き締めは最大のリスクです。エネルギー価格が下落したことは安心材料ではありますが、中央銀行は別の側面からインフレと戦い続けています。ユーラシア・グループは、米国やEUの他、特に英国で過剰な金融引き締めのリスクが大きいとみています。また、同社はベースシナリオとして、世界の成長率はマイナス圏に沈むとの見方を示しています。

AIと先端技術

米中関係は新たな段階に入り、世界に影響を与えています。脱グローバル化による地政学的緊張と米中間の戦略的競争は、投資家に新たなリスクと機会をもたらしています。中国は技術的な独立に向けた動きを強め、新たな地政学的な同盟が生まれています。先端技術に必要なレアアースの供給については、他国から入手することで対応できる一方、加工処理については、中国が高コストで違法取引の蔓延するビジネスを牛耳っていることが大きな課題となっています。インドネシアが加工処理能力を高めていますが、中国を上回る存在になるまでは時間を要すると思われます。

AIにより財務指標が改善する可能性があります。AIに関する報道には誇張されたものが多く、多数の企業で株価が大きく上昇する要因となっています。AI技術は登場から日が浅く、企業、地域、社会への長期的な影響についてまだ答えの出ていない問題が残っています。現在、MFSの運用チームは、企業の効率性、収益、利益向上に関する議論に着目しています。AIの研究開発への直接投資について言及している企業はごくわずかであり、ほとんどの企業は今後どの製品分野が発展を遂げるか把握しかねています。

AIの進化が雇用に与える影響は不透明です。AIが幅広い産業分野で生産性の向上に役立つことは明らかですが、雇用への短期的・長期的影響については議論の対象になっており、産業革命・インターネット革命およびそれらによる雇用の変化が引き合いに出されています。AIはより多くの労働力を求める新たなサービスや事業の分離・独立の機会を生む一方で、一部業務の自動化や廃止といったリスクももたらします。AIが生み出す不平等は、政府や規制当局がその是正を図る必要性を含め、重要な議論のポイントです。

AIは両刃の剣です。AIによるイノベーションは新たな投資機会でもありますが、規制当局は技術の進歩への対応に苦心しています。結果として、AIの進歩は偽情報の拡散や選挙の妨害を引き起こし、権威主義的な政治体制の力を強め、二極化が進む可能性があります。AIは世界をより良くする力を持っている一方、悪意のある人物によって悪用される可能性もあるのです。

データは魅力的な投資機会を提供します。データは商品化されつつあり、AI革命の基礎だと考えられますが、そこにはAIが使用するデータのプライバシー、著作権、所有権に関する問題が生じます。データの保存、管理、保護に関連する投資機会はすでに存在しており、MFSは投資対象として魅力的なデータセンターやハードウェア企業を見いだしています。また、利用可能なデータの増加により、消費者トレンドに注目している投資家がクレジットカードの利用傾向にすばやくアクセスし、地域別・資産クラス別の世界的なセンチメントやお金の動きをモニタリングすることで、資産配分トレンドをより早く把握することが可能になります。

規制面では、地域や政治体制ごとに異なる制度が設けられると考えられます。規制当局にとってはプライバシーや透明性が重要な問題となります。各国の制度は様々であり、国際的な規制が実現する可能性は低いとみられます。中国は規模の大きさから投資機会と捉えられる反面、データへのアクセスや制御について厳しく管理されると思われ、権威主義的な政権によるリスクもあります。また、米国は対中競争に対応する必要があることや技術分野への支援を重視していることから、ユーラシア・グループは米国の規制が中国より緩和的なものになると予想しています。

MFSは、環境、社会、ガバナンス(ESG)要因が発行体の経済価値に重大な影響を与えると考える場合、伝統的な経済的要因とともにESG要因をファンダメンタルズ分析において考慮する場合があります。ESG要因がどの程度考慮されリターンに影響を与えるかどうかは、投資戦略、資産クラス、地域・地理的エクスポージャー、特定のESG問題に対する運用プロフェッショナルの見解や分析など、多くの要因に左右されます。ESG要因は投資判断の唯一の根拠となるわけではありません。MFSは、ESG要因を発行体とのエンゲージメント活動に盛り込むことがありますが、これらのエンゲージメント活動が必ずしも発行体のESG関連活動に変化をもたらすとは限りません。

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