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Strategist’s Corner
6 min

資本体制の転換が問い直すベンチマーク

本稿では、資本体制の転換期におけるリスク管理で重要なのは過去のトレンドに依存することではなく、ファンダメンタルズに着目することであるとのグローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します。

執筆者

Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト

概要

  • 資本体制の転換は、市場のリーダーシップを大きく揺るがす可能性があります。
  • 現在、世界経済は資本軽量型から資本集約型の環境へと移行しつつあります。
  • ファンダメンタルズの重要性が再び高まるなか、過去のトレンドに過度に依存した投資判断は、この新たな経済体制下においては投資家に大きなリスクをもたらしかねません。

将来について確実に言えることもあります。例えば、太陽が今後も東から昇り西に沈むことは、疑いの余地のない事実です。しかし、人生の多くの側面、とりわけ経済や金融市場の将来は、はるかに不確実です。このような分野では、結果は確率としてしか捉えることができません。

証券は、本質的にはこうした確率を反映したものです。投資家が行うあらゆる取引は、売上高成長率、利益率、再投資の必要性、資本コストといった要因に関する前提に基づいています。言い換えれば、株価とは確率を資本化したものであり、企業が将来生み出すと見込まれるリターンについての、市場全体による最良の推定値です。実際のリターンがこうした予想を上回れば株価は上昇し、下回れば調整されます。

株価指数などのベンチマークは、中立的な物差しではありません。むしろ、市場が企業収益について持つ前提を反映した、加重平均された株式の集合体です。時間の経過とともに、その時点の経済・資本環境に最も適合した企業へと集中していく傾向があります。しかし、環境が変化すれば、市場のリーダーシップも入れ替わります。かつて特定の体制の下で成功していた企業であっても、新技術の登場、規制や資本供給環境の変化によって苦境に立たされることがあります。その結果、新たなリーダーが現れ、株価はそうした変化を織り込む形で調整されていきます。

2009~2021年:資本回収の時代

世界金融危機後、異例の経済・資本体制が始まり、2009年から2021年まで続きました。この期間の特徴として、資本集約度の低下、過剰貯蓄、資本コストの継続的な低下などが見られました。家計はバランスシートの修復を優先し、銀行は融資を抑制し、企業は有形資産への投資を控えました。企業は生産を外部委託し、効率性を最優先したサプライチェーンを構築する一方で、新たな設備への投資ではなく、配当、自社株買い、企業買収に資本を配分しました。言い換えれば、この時代の資本は「投下」されるものではなく、「回収」されるものでした。

こうしたアプローチは投下資本利益率を押し上げ、過去に例を見ない高い収益性をもたらしました。金利の継続的な低下と相まって、株式の高いバリュエーションが正当化されてきました。投資家は、低インフレ・低金利、構造的に高い資本収益率を前提とする状況に慣れてしまい、個別銘柄選択の価値が低下した結果、ベンチマーク連動型投資が拡大しました。そして、株価指数は資本効率が高く、拡張性の高いビジネスモデルを展開する企業にますます集中するようになりました。しかし、バリュエーションを支えてきたこうした経済的前提は近年変化し始めているにもかかわらず、それらを前提とした仮定は、現在でも市場に織り込まれたままです。

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2022年以降:資本投下の時代

2022年頃から、新たな経済・資本体制が台頭し始めました。この局面は「資本投下期」と位置づけることができ、世界が大きく変化しました。新型コロナウイルスのパンデミック、地政学的緊張の高まり、貿易の分断化といった構造的変化により、企業は効率性よりも強靭性を重視せざるを得なくなっています。企業はサプライチェーンに冗長性を持たせ、生産能力を拡大し、インフラ投資を進めています。資本配分は、自社株買いや配当といった金融工学から、有形資産投資へと移りつつあります。

この動きをさらに加速させているのが、人工知能(AI)の台頭です。AI革命には、データセンター、電力インフラ、半導体、メモリ、建設能力などへの巨額の投資が不可欠であり、これらはいずれも多額の資本が必要となります。また、こうしたインフラ整備は物理的制約を伴うため、コストが上昇しやすく、資本の限界費用を押し上げています。エネルギーコストも重要な要因です。経済活動の本質はエネルギーの変換にあり、エネルギー価格の上昇は多くの産業に波及します。例えば、原油価格が持続的に上昇すれば、投入コストが高まり、資本集約度や営業費用が上昇するという広範な傾向を一段と強める可能性があります。

資本コストが上昇するなか、企業はこれまで以上に高いハードルを超えるリターンを求められる厳しい課題に直面しています。上昇する限界費用を上回るリターンの確保は、コストが低下し続けていた2010年代と比べ、さらに難しくなっています。この変化は、投資家が許容するバリュエーション水準にも影響を及ぼしています。無リスク金利の上昇によって、投資環境そのものが変化しているためです。

AIの技術は生産性の向上を約束する一方で、設備投資に加え、AI特有の課題も生み出しています。技術革新は参入障壁を低下させ、競争を促し、新規参入を可能にする傾向があります。この「創造的破壊」のプロセスは既存企業の競争優位を損ない、市場シェアを維持するために多額の再投資を強いる可能性があります。その結果、AI導入による初期のコスト削減効果は再投資ニーズによって相殺され、資本集約度が高まる環境下で高いリターンを持続させることは、より困難になるかもしれません。

結論

現在の異例な低水準の株式益回りは、市場が依然として、世界金融危機後に近い経済・金利環境を織り込んでいることを示唆しています。これは投資家にとって、リスクと機会の両面を意味すると考えます。投資環境が資本集約度の上昇、実体経済における制約の増大、構造的に高い資本コスト、そしてAI主導の競争を特徴とする局面へ本格的に移行しているのであれば、ベンチマークに内在する前提は、今後さらに脆弱になる可能性があります。かつてディスカウント率の低下によって支えられていたバリュエーションは、より厳しい環境の下で、企業の規律ある実行力に依存せざるを得なくなるかもしれません。

資本効率が高く拡張性の高いビジネスモデルを背景に成長してきた企業も、今後は有形資産投資、エネルギー需要、サプライチェーンの強靭性、再投資の強化などに一層注力する必要があります。ファンダメンタルズの重要性が再び高まる中、新たな経済体制下においては、過去のトレンドに過度に依存することは、投資家にとって重大なリスクとなる可能性があると考えます。 

 

 

すべての投資には投資元本を割り込む可能性等を含む一定のリスクが伴うことにご留意ください。

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