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景気後退はどこに行った?

本稿では、足元の経済、中央銀行の金融政策、景気後退に陥る可能性について、MFSのチーフエコノミストErik Weismanの見解をご紹介します。

インフレ率と金利が過去40年以上で最も急速に上昇する中、投資家の間では景気後退を警戒する声が高まっていました。

しかし、最近の経済指標は、景気後退局面入りが少なくとも先送りされたことを示唆する内容となっています。具体的には、米国の1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が上方修正されたほか、所得の伸びはまずまずの水準となり、新規失業保険申請件数は最近のピークから鈍化し、耐久財受注も改善しています。また、全体的に消費も順調に推移しているようです。こうした消費関連のデータを見る限り、信用供与への影響はごくわずかであり、ほんの数カ月前に銀行危機が発生したとは思えません。

しかし、景気の先行きを示す指標は良好とは言えないことから、正確な時期はわからないものの、将来的には景気後退に陥るというのが依然として最も確率の高いシナリオであると考えています。

では、景気後退はどこに行ったのでしょうか?

今のところ、景気後退局面が差し迫っているようには見えませんが、これは金融政策の効果が実体経済に波及するまでには時間がかかるためです。例えば、企業が12カ月、18カ月あるいは24カ月の契約を結んだとします。この期間にFRBが大幅な利上げを行ったとしても、すぐに経済に影響するわけではありません。利上げ開始から12~24カ月間は影響が完全には浸透していない可能性があり、今回の利上げ局面では今がまさにその時期にあたります。

中央銀行の信頼回復

FRBは、インフレはパンデミックに起因するサプライチェーンの混乱による一時的なものであるとの見方に固執しすぎたことで、信頼を失ったと自覚しています。そのため、インフレを放置したことの埋め合わせとして、予想以上にタカ派姿勢を堅持して過度に引き締めを行う可能性が懸念されます。

こうした状況を考えると、米国の労働市場の持続的な力強さは、インフレ率を目標水準に戻す上で逆効果になると思われます。労働市場が堅調で所得が着実に増加すれば、消費が拡大して物価がさらに上昇するため、FRBが望むような水準にインフレ率を戻すのは困難になるでしょう。したがって、FRBがインフレ目標を達成するためには、労働市場の勢いを弱める必要があります。

現在のFRB当局者が、1980年代のポール・ボルカー議長(当時)のような不屈の精神を持っているかどうかはまだわかりません。FRBは経済成長を制限する水準まで政策金利を引き上げることがインフレを抑制する唯一の方法であると考え、急激な景気悪化に直面しても金利を高水準で維持するのでしょうか。あるいは、過去30年間のシナリオに戻り、景気悪化の最初の兆候が見られた時点で金融緩和に動き、いわゆるFRBプットを提供し続けるのでしょうか。その答えは、経済成長が鈍化し、インフレ率が目標を大きく上回る水準で高止まりするという状況になるまでわかりません。

そうなった時、FRBは最も後悔しない「金融政策ミス」を選択する必要性に迫られるでしょう。経済成長を制限する金融政策を維持して景気後退を深めるのか、あるいは時期尚早に金融緩和に動いてインフレを再燃させるのか、当局者はどちらを選ぶのでしょうか。

市場への影響

市場の金利が大きく低下するのは、労働市場の勢いが弱まり、インフレ率の低下が加速し、FRBが利上げ終了のシグナルを発してからになると考えています。6月のインフレ率と雇用統計の伸びは鈍化しましたが、引き締めサイクルが終了したとFRBが明確に示唆するには、同様のデータ結果が数カ月間続く必要があると思われます。

 

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。

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