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大いなる期待

本稿では、2024 年の金融市場は楽観的なムードでスタートし、投資家の間でインフレ率と金利が低下し企業利益が増加するとの見方が広がっている状況が矛盾しているように見えるというグローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します。

Robert M. Almeida

Robert M. Almeida

グローバル投資ストラテジスト

概要

  • 2024年の金融市場は楽観的なムードでスタートしました。
  • 現在、投資家の間ではインフレ率と金利が低下し、企業利益が増加するとの見方が広がっています。
  • しかし、こうした期待は矛盾しているように見えます。

新年の抱負

新しい年がスタートし、新たな熱狂と楽観が生まれています。新年を機に、健康的な食事、適度な運動、無駄遣いの削減など、自己改善に向けて野心的な決意を持つ人も多いことでしょう。

そこで、3,000年以上前に古代ギリシャの詩人アルキロコスが残した「我々は自分が望むレベルまで行けるわけではない。結局、訓練したレベルにしか行けない」という格言をご紹介したいと思います。この言葉には深い意味と同時に明らかな真実があるといつも納得させられています。つまり、行動を変えたいと思っても、それを習慣として定着させなければ、せっかくの決意も一時的なものになり、元の状態に戻ってしまうという状況を表現したものであり、私自身、新年に決意した3つの目標のうち、すでに挫折したものが1つあるため、この言葉の意味を身をもって実感しています(しかし、あとの2つはまだ希望があります!)。

2024 年の投資家の期待

現在の金融市場には確かに楽観的な材料が多いと言えます。株式のバリュエーション とアナリストの 2024 年予想には、S&P500 指数の構成企業が全体として利益率と収益で 10% 以上の成長を達成するとの期待が織り込まれています。この期待は、有利な経済環境にあったとしても高いと言える水準であり、景気後退が回避され、2008年以降の景気サイクルの平均をはるかに上回る売上高の伸びが達成されることを意味しています。その場合、売上高は数量と価格の積であると認識することが重要です。 数量は経済成長を示し、価格は消費者が支払うものであり、中央銀行や市場参加者が重要な指標として重視しているインフレ率はこの 2 つが集約されたものです。現在、 株式投資家とクレジット投資家は0%を上回る程度の成長率と高止まりが続く財・サー ビスの価格を過小評価しており、債券投資家は 2% 程度のインフレ率と中央銀行による利下げを見込んでいます。こうした状況を踏まえると、投資家の期待は高すぎるだけでなく、矛盾していると言えます。

市場で過度な期待が調整されるとき、ボラティリティは上昇する

私が好きな小説の1つに、チャールズ・ディケンズの「大いなる遺産」という古典作品があります。ここでは、主人公ピップが学校教育と訓練によって大きな富と繁栄を手に入れることができるという大いなる期待を抱きます。しかし、現実は思っているほど簡単ではなく、彼の考えや想定は、ほとんどが誤りであったことが証明されます。物語は最終的にはうまくいくのですが、ピップの人生は波乱に富み、予想外の展開に見舞われることになります。このことは私たちの日々の生活にも当てはまります。つまり、予想外の結果になるのが普通であり、予想通りの結果になることの方が異常な事態なのです。

金融資産の価格については、将来のキャッシュフローに対する投資家の期待が総合的に反映されているという点では、ごく自然で単純なものと言えますが、将来は不確実で、予測が困難なことから、実際は明らかに複雑な要因が絡み合っています。そのため、これまでの投資家の想定が間違っていたことが証明される新たな情報が浮上すると、資産価格のボラティリティは高まります。

財・サービスの価格が下落してインフレ率が中央銀行の目標値まで低下した場合、はたして企業は予想通り2桁の利益成長率を達成できるのでしょうか。また、労働需給が逼迫しており、景気後退が回避される中でも、中央銀行は利下げを行う用意があるのでしょうか。恐らく、利下げは実施されるでしょう。しかし、そうならなかった場合、投資家の想定が外れ、期待に変化が生じるため、資産価格は調整されると考えます。

結論 

多くの人と同様に、私も自分と自分の周囲の人がより良い生活を送れるよう、新年に目標を立てています。何事も管理するためには測定する必要があるため、私は最近、残りの2つの決意を習慣化するためにスマートウォッチを購入しました。アルキロコスの言葉を借りれば、私が期待したレベルまで訓練できるかどうかは、時が経たなければわかりません。 

余談はさておき、問題は「投資家が現在期待している水準まで経済と企業利益が成長するのか、それとも資産価格の調整が余儀なくされるのか」ということです。新年の抱負の多くが達成できないように、確率が高いのは後者であると思われますが、賢明な投資判断に基づきアクティブ運用を行う投資家は利益を得ることができると考えています。

S&P500 指数は米国株式市場の指標となる株価指数です。

 

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。

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