動き続ける市場:経済と市場の変容をもたらすレジームシフト
講演者
Jonathan Hubbard, CFA
リード・アセットアロケーション・ストラテジスト
Kim Hyland
グローバル・インスティテューショナル共同責任者
Kevin Dwan
株式ポートフォリオ・マネジャー
INSIDE VIEW WEBCAST本編(英語のみ)
動き続ける市場:経済と市場の変容をもたらすレジームシフト
ポートフォリオを長期的に成功に導くには、急速に変化する今日の経済環境で生じている構造的シフトを把握することが重要です。この構造的シフトは、総じて新たなレジーム(体制)の到来を示唆しています。投資環境は現在、高金利、高インフレ、そして不確実な経済成長に見舞われています。これに貿易関係の混乱や拡張的な財政政策が加わり、独特な経済・市場環境下、投資展望はさらに複雑化しています。ただし同時に、この環境は新たなレジームにおけるポートフォリオの成功に向けた投資機会を提供している可能性も秘めています。アセットアロケーションを行うにあたり、何を保有するのか、そしてなぜ保有するのかを理解しておくことが、これまでになく重要となっています。
まず、レジームシフト(体制転換)とは何かを定義することが重要です。レジームシフトとは、経済や市場における重大で構造的、且つ長期的な変化であると我々は定義します。これは、これまでの経済や市場の原則が通用しなくなるという意味ではなく、これまでのトレンドが急速に転換し、その結果として今後のアセットアロケーションを再考する必要が出てくるかもしれないことを意味するものです。過去のレジームシフトの事例としては、1944年のブレトン・ウッズ協定、1971年の金本位制からの離脱、2000年代初頭の中国の世界貿易機関(WTO)加盟などが挙げられます。新型コロナ以前のレジームは、低金利、低インフレ、緩やかな経済成長、比較的安定した世界貿易情勢が特徴でした。対して足元では、高金利、高インフレ、経済成長の不安定化、そして世界貿易関係の再編が進んでいます。
本稿では、関税、米中関係、工業の再活性化、人工知能(AI)、およびアセットアロケーションへの示唆について考察します。
関税
株式市場もクレジット市場も関税による悪影響はほとんど受けていないと見られ、株式市場は過去最高値を更新、クレジットスプレッドもサイクルの最低水準に近い水準にあります。では、なぜ市場は関税への懸念の影響を受けていないのでしょうか。大半の方がお気づきのように、関税の計算方法は時折誤解され、しばしば主要メディアでも誤って報じられています。関税は消費者が支払う小売価格に直接課されるものではなく、輸入品の卸売価格に適用されます。つまり、仮に関税が全額消費者に転嫁されたとしても、10%の関税賦課が及ぼす影響は、小売価格に10%が課される場合より大幅に小さくて済みます。また、こうしたコスト上昇分は企業が吸収したり、または一部負担するケースもあります。さらには、関税に適応し、消費者物価への全体的な影響を軽減するために、企業がサプライチェーンを再編することもあります。関税が当初懸念されていたような経済的混乱を引き起こすことはないとの見方に、市場は自信を持っているようです。
米中関係
貿易摩擦と関税交渉が主要経済国間で進行中ですが、これは投資家と世界のサプライチェーンに長期的な影響を及ぼす可能性があります。中国経済におけるサプライチェーンの規模の大きさや経済的重要性に鑑み、米中間の関税および非関税交渉の落としどころが注目されています。関税率の交渉が大きく注目されていますが、米中関係については、世界の2大経済国が今後どのように関わり合ってゆくかを再定義する長期的なプロセスと捉えるのが適切だと我々は考えます。この貿易摩擦は、一部には、中国の中央集権型経済と米国の分権経済という制度レベルの違いから生じたものです。例えば中国の国有企業は資本コストがゼロというメリットがある一方で、米国では市場からの資本コストが発生するなど、本質的な相違が存在します。この両国間の相違は近年ますます顕著になっています。現在の両国間の相互依存関係を勘案すると、共存してゆくためには両国間の建設的な対話が不可欠です。
工業の再活性化
この新たなレジームのもう1つの特徴は、かつて産業空洞化の進んだ国々が製造業を国内回帰させることで、工業の再活性化とそれに伴う実質的な経済成長が期待されることです。かつて安価な労働力を求めて海外に移転した製造機能はその後近代化され、それが国内に回帰することにより、スキルを備えた労働者が高度なロボット技術を活用する機会が生まれています。工業の再活性化の中心地は米国ですが、過去に産業空洞化を経験した日本や一部の欧州諸国のような国や地域にも機会があります。
人工知能
テクノロジーとAIの急速な進化は、最近の株式市場の楽観を支えているのみならず、AI産業の主要企業の多 くが米国企業であることから、米国株価指数のさらなる集中を招いています。AIには生産性を大幅に向上さ せる潜在性がある一方で、体制の構築には多額の固定資産投資を必要とします。そのため、テクノロジー企 業は資本財セクター企業のようになり、競争力を維持するために大規模な設備投資が必要となり、キャッ シュフローがより不安定になる可能性があります。
アセットアロケーションへの示唆
こうした要素を踏まえ、マクロ経済の変化に対応するには、投資リターンにアルファをもたらす要因がますます重要になると我々は考えています。
以下の資産クラスは投資機会の魅力が特に高いと見ています。
- 米国を除くグローバル先進国株式およびエマージング株式:魅力的な相対価値と利益率拡大の機会を提供します。
- 米国中小型株:大型企業よりも内需志向が強く、工業の再活性化が進む中で投資機会の妙味が増しています。
- 債券:現在、カテゴリー全体で有意な利回りが期待できます。ただし、長期金利の大幅な低下によるキャピタルゲインよりも、キャリーの獲得に注力するほうが賢明です。
今後の見通し
現在の市場環境は、市場全体の上昇に乗るよりも、個別銘柄選択を通じたアルファの創出に適していると我々は考えます。銘柄選択を通じたアクティブ運用と、ファンダメンタルズ、マクロ経済、地政学的動向を深く理解することが、この複雑な投資環境に対応するうえで今後も極めて重要となると考えます。
当レポート内で提示された見解は講演者個人の見解です。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFSの代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。
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