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医薬品産業への投資と AIが及ぼすゲームチェンジ効果
本稿では、人工知能(AI)と医薬品産業の融合について取り上げ、AIが医薬品開発にどのような変革をもたらし、また投資にどのような影響を及ぼすのかについて掘り下げます。ヘルスケアの未来とお客様のポートフォリオにどのような意味を持つのかについてご紹介します。
新薬は医薬品銘柄の株価を左右
医薬品産業は新薬の開発と承認を基盤としており、新薬が発見・承認されると医薬品企業の株価に直接的な影響を及ぼします。厳しい臨床試験を経て規制当局の承認を受けた革新的な新薬は、医薬品企業の業績を大きく押し上げる可能性があります。
投資家は、画期的な医薬品が多大な収益や市場機会をもたらすとの認識に立ち、新薬パイプラインを注視しています。ただし、治験中に副作用が発見されたり、規制当局による承認の遅れなどで医薬品開発プロセスが頓挫すると、株価の下落につながることがあります。
新薬が未充足の医療ニーズに対応したり、既存の治療薬より高い効能をもたらす可能性は、医薬品銘柄の潜在的投資価値を評価する上で極めて重要な要素です。評価を行うタイミングは、医薬品開発の最終段階、つまり収益を生み出す前が最適です。評価では、どの程度の需要が見込まれるか、またそれが企業の収益成長プロファイルを変化させるか否かなどを検討します。
AIは消費者価格の低下にはつながらないがイノベーションを促進する
AIは、特に新薬開発において医薬品業界に大きな変革をもたらすと予想されます。新薬を市場に投入するまでのプロセスは、従来長い期間を要し、複雑かつコストがかかります。しかしAIは、膨大な生物学的データを分析し、新規化合物の効果を予測し、有望な薬剤候補をより効率的に特定するなど、プロセスの効率化に貢献する可能性があります。これは新薬の発見を加速させるだけでなく、治療の精度と効果も高めます。
AIは新薬開発に重大なイノベーション、そして患者の治療成果の改善をもたらすと期待される一方、医薬品価格の引き下げには当面つながらない見通しです。AIによる効率化で削減できたコストは、多くの場合、価格引き下げの形で消費者に還元されるのではなく、更なる研究開発への再投資に充てられます。また、規制遵守、臨床試験やマーケティングに伴う高額なコストが、新薬の市場投入に係る総コストを押し上げます。
それにもかかわらず、AIのイノベーション促進能力は、医薬品業界にとって非常に大きな可能性を秘めています。より効果的かつ的を絞った治療法の開発を可能にすることで、治療成果を向上させ、従来は考えられなかった方法で複雑な医療課題に対応できる潜在性があります。

AIにより生み出される勝者と敗者を決めるのはデータ量
医薬品産業にAIが融合されることで、明確な勝者と敗者が生み出されることが予想されます。AIを活用して新薬の発見・開発プロセスを促進し、より迅速かつ効率的な創薬、開発コストの低減、新規治療法の市場投入までの期間の短縮化といったメリットを享受できる企業は、競争優位性を獲得する可能性が高いといえます。経営陣や研究開発責任者と定期的に接触したり、拠点を訪問することが、AIを医薬品開発に活用することで恩恵を受ける可能性が高い企業を特定するためには重要です。
製薬イノベーションの新時代においては、AIに投資するだけでなく、AIを既存の研究開発体制にシームレスに統合できる企業が勝者となるでしょう。AIの統合にあたっては、データセットが非常に重要となります。膨大なデータを有する企業は、今後AIを最大限に活用することが可能となります。例えば、特定の治療分野で最も広く使用されている医薬品を有する企業は、最も多くの患者および臨床データを保有することになり、そのデータを活用して当該薬の新バージョンを開発したり、新たに他の疾患に転用したりすることが可能となります。この既得権益が優位性となり、大手企業が勝者の地位を守る一方で、十分なデータを持たない企業は競争力が低下します。
開発プロセスへのAIの活用は、医薬品企業以外にも、サービスを提供したり研究開発を支援するツール企業などの下流部門にも影響をもたらし、投資家に新たな機会をもたらします。セクターをまたいで連携する、統合されたインベストメント・プラットフォームを活用することが、下流部門への影響を理解し、その恩恵を受ける企業を特定する際の鍵となります。
この複雑かつ絶えず変化するセクターで投資の舵取りを行うには、新薬開発、AIのイノベーション、および変化し続ける医薬品業界の相互作用を理解することが、情報に基づく投資判断や長期的な勝者を見極める上で欠かせません。
当レポートの中の意見は講演者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。