2026年下半期の主要テーマ
M F Sマーケット・ インサイト・ チーム
概要
2026年下半期の投資環境を展望すると、人工知能(AI)による破壊的変革から供給サイドの圧力、米ドル安まで、いくつかの重要なテーマがマクロ経済状況と市場環境に影響を及ぼすことが予想されます。そのため、幅広く分散投資する根拠が強まっています。米国大型株のリターンは一部の超大型ハイテク株に大きくけん引され上昇してきましたが、米国以外の企業の業績見通しも改善しており、また中小型株も上昇するなど、株価上昇が市場全体に広がる兆しが見られ、今後は上昇銘柄の裾野の拡大が期待されます。米国以外の株式はバリュエーションが魅力的で、米国株式とは異なるリターン源泉を持っているほか、質の高いグローバル・クレジット、エマージング・ソブリン債、オルタナティブ戦略はポートフォリオの耐性を高めることが期待されます。こうした中、安全保障の領域は従来の防衛の枠を大きく超えて広がっています。世界で軍事支出の伸びが加速する中、北大西洋条約機構(NATO)の全加盟国が遂に防衛費の対GDP比2%という目標を達成し、「安全保障の傘」が必要な領域は、エネルギー、重要鉱物、サプライチェーンにまで拡大しています。通常、この種の支出は財政赤字で賄われ、経済成長を支える一方で、緩やかなインフレも伴います。
AIは今後も市場をけん引するテーマであり続けますが、投資にあたっては銘柄を選別することが重要です。AIがもたらす破壊的変革によって業種を超えた価値の再分配が進んでおり、固有のデータと業務上不可欠なワークフローを持つ企業に恩恵がもたらされる一方で、コモディティ(汎用品)化と利益率低下圧力にさらされる企業には脅威となっています。市場の熱狂はAIの恩恵を明らかに受ける企業の過大評価をもたらし、割安な企業への投資機会を埋もれさせてしまうおそれがあるため、規律あるバリュエーション評価が極めて重要になります。また、AI関連の設備投資を拡大する動きはハイパースケーラー以外にも広がっており、半導体企業や公益事業会社、電力インフラ企業および一部の資本財企業に恩恵が及んでいます。ただし債券市場では、発行が増えるため、投資成果は資金調達構造とバランスシートの余力によって左右される可能性が高いでしょう。
供給サイドの圧力は、さらに複雑さを増幅させる要因になります。労働力不足、エネルギー制約、インフラへの過小投資によって生産コストが上昇し続けているため、インフレの上振れリスクが高まり、企業の利益率が圧迫されています。こうした中、価格決定力のある企業と汎用化された企業との格差が拡大しており、銘柄選択の重要性が増しています。このような環境下では、GARP投資(growth at a reasonable price:適正な価格で成長企業に投資する手法)が有効です。この手法により持続的な需要、適応性、妥当なバリュエーションを持つ質の高い企業に焦点を当てることで、市場を主導する銘柄の変化に対応できる規律ある投資アプローチが可能になります。また、米国例外主義の後退を受けて米ドルの優位性が徐々に低下しており、金(ゴールド)、エマージング通貨、現地通貨建て債券など、米ドル以外の資産を保有する根拠が強まっています。最後に、プライベート・クレジットが初めての真のストレステストに直面しています。ビジネス・デベロップメント・カンパニー(BDC)のスプレッド拡大、回収懸念債権の増加、非流動性プレミアムの縮小などがその背景です。システミック・リスクは抑制されていますが、リスク・リターン特性が変化すればポートフォリオの安定資産として機能する伝統的債券の相対的な魅力が高まるでしょう。
防御策としての 分散投資と投資機会
近年、分散投資を行う根拠が強まっています。市場集中度の高さ、AIを巡る熱狂、変化するマクロ経済リスクによって株価が左右される現在の市場環境を乗り切る上で、分散投資の重要性が高まっています。ここ数年、米国大型株のリターンのけん引役が少数の超大型ハイテク株に限られていることから、時価総額加重ポートフォリオでは単一のセクターや銘柄へのエクスポージャーが高くなっています。今後1年は大型IPO(新規株式公開)が相次ぐと予想され、市場集中度はさらに高まる可能性があります。こうした環境下では、資産クラスや地域の枠を超えて幅広く投資することで、景気サイクルを通じて異なるパフォーマンスを示すセクターや地域、リターン源泉にエクスポージャーを分散させることができるため、リスクの軽減が期待できます。
株式市場では上昇銘柄の裾野が広がる兆候が見られることから、グローバルにエクスポージャーを分散させるべきとの声が強まっています。2020年代前半に堅調な収益成長を記録した企業の大半は「マグニフィセント・セブン」でしたが、現在はこうした増収企業の裾野が拡大し、S&P 500の他の構成企業も勢いを増すとみられています。バリュエーション格差の縮小と企業収益の見通し改善を背景に投資家が超大型株から資金をシフトさせているため、米国の中小型株は年初来で上昇しています。米国企業の業績は引き続き予想を上回っていますが、米国以外でも、特に欧州とエマージング諸国で成長見通しが大幅に改善しています。欧州と日本は現在進行中の構造改革と企業改革の恩恵を受ける可能性が高く、エマージング諸国はAI、製造業、再生可能エネルギーの各分野で大きな進歩を遂げています。
地政学的な不確実性が高まる中、投資家はリスク管理を重視する姿勢を強めています。米国株式は引き続きAI投資と高い収益性の恩恵を受けていますが、バリュエーションの高さと市場集中度は依然としてリスクです。一方で、米国以外の株式はバリュエーションが比較的魅力的な水準にあり、米国とは異なる経済要因や政策動向、通貨へのエクスポージャーをもたらします。また、増収企業の増加は世界経済の健全性の高まりを示しており、こうした状況を背景に、グローバル・クレジットやエマージング・ソブリン債をはじめとする債券に対して強気な見方が広がっています。地政学的な不透明感が続く中でも、企業のファンダメンタルズが堅調で、フリー・キャッシュフローが改善していることから、投資適格債、中でも特に相対的に質の高い銘柄の選好が続いています。投資適格債の利回りは2022年の高水準からは低下しているものの、世界のクレジット市場で依然として魅力的な水準にあります。さらに、米国以外の資産は、米ドルの下落が続く局面でリターンの上昇が期待できます。以上を踏まえ、現在のような複雑な環境下では、資産クラス、セクター、地域を超えて幅広く分散投資し、長期的なリスク調整後リターンの向上を図る戦略的重要性が高いと考えられます。
検討事項 |
安全保障の傘
防衛支出の増額はもはや段階的なものではなく、世界で加速しています。2025年には過去数十年で初めてNATOの全加盟国が防衛費の対GDP比2%という目標を達成しました。ウクライナ紛争が続く中、欧州が主導する形で防衛支出の増額が加速しており、2024年と2025年の実質的な増加率は20%近くに達しました。この傾向は欧州以外にも広がっています。日本は平和憲法をうたっているにもかかわらず、過去2年間で防衛費を年約10%のペースで増加させており、NATOの盟主であり先進兵器システムの主要輸出国でもある米国は、世界の防衛システムの中心であり続けています。
歴史を見ると防衛支出にはサイクルがあり、現在は新たな拡大局面に入りつつあります。冷戦後の数十年は紛争が比較的抑制されていましたが、現在は新たな防衛の時代が到来しています。こうした防衛支出の拡大局面では、経済成長のみで財源が確保されることはほとんどなく、概して財政赤字の拡大や国債発行の増額が必要になり、社会支出の削減圧力が増大します。
一般的に、支出拡大によるマクロ経済への影響は強弱両面があり、成長を促す一方でインフレを加速させる副作用を伴います。防衛支出の増額は経済活動を刺激する効果がありますが、同時にインフレ率を緩やかに押し上げる傾向もあります。今回の支出拡大局面では、地政学的背景もあってインフレ押し上げ効果がさらに強まっています。原油と天然ガスの純輸出国である米国は、大規模なエネルギーショックは抑えられているものの、構造的に原油の輸入への依存度の高い欧州は影響を受けやすい状況にあります。
現在、安全保障の領域は軍事力以外にも広がっています。重要資源、中でも、防衛、AI、最先端技術に不可欠なレアアース鉱物へのアクセスは、戦略的に重要になっています。2025年に中国の輸出規制でレアアースに対する脆弱性が浮き彫りになると、各国が戦略的鉱物の代替的供給源を求める動きが活発化しました。今やサプライチェーン自体が地政学的資産となっており、国内に資源を持たない国は国外から調達せざるを得ず、多くの場合は国内生産するよりもコストが高くなります。
「安全保障の傘」はエネルギー、鉱物、サプライチェーンにまで拡大しています。安全保障を維持するためには持続的な支出が必要で、結果として政府は予算でどのプロジェクトを優先すべきかという難しい選択を迫られることになります。地政学的リスクと財政政策はますます密接に関連するようになっており、債券市場では警戒感が広がっています。
検討事項 |
AIによる破壊的 変革を乗り切る
AIはさまざまな業界の競争優位性を再構築し、投資家に強力な投資機会と重大なリスクの両方をもたらしています。この破壊的変革を乗り切るには、厳格な分析を行って長期的な成長が見込める勝者企業と脆弱な旧来型の企業とを選別する必要があります。ここで重要になるのは、単に「どの企業がAIを利用しているのか」だけでなく、「どの企業がAIをより強力な経済的価値に転換できるのか」という点です。成長が見込める企業には、企業固有のデータセット、業務に不可欠なソフトウェア、強力な顧客関係および価格決定力を持つ企業や、既存の製品にAIをうまく組み込んで生産性と定着率を向上させることができる企業が含まれます。一方の成長が見込めない企業には、自動化、コモディティ化、利益率低下圧力、中抜き(顧客との直接取引)のリスクにさらされている企業が含まれます。投資家は、AIが企業の収益成長、コスト構造、参入障壁、資本集約度、長期的な投資収益率にどのような変化をもたらすのかを評価することが必要です。
AIによって予測、自動化、コンテンツ生成にかかるコストが低下するため、市場では希少で高品質なデータ資産を持つ企業や独自のワークフローを管理する企業、あるいは重要なAIインフラを提供する企業の評価が高まる可能性が高いと思われます。豊富なデータを有する企業は、自社のデータセットを使ってビジネスモデルのパフォーマンス向上、顧客インサイトの深化、競争力の強化を図ることができるため、ますます戦略的になる可能性があります。現在は広範囲でアルゴリズムの利用が可能になっていることから、テクノロジーそのものよりも差別化されたデータ、展開力、信頼性、およびドメイン知識の方が重要になるかもしれません。
規律あるバリュエーション判断も同様に重要です。AIをめぐる熱狂は、明らかに恩恵を受ける一部の企業の過大評価につながる一方で、AIによる成長余地が過小評価されている企業や、破壊的変革の影響が過剰に懸念されている企業は見過ごされる可能性があります。AI関連の恩恵のタイミング、規模、広がりについて、市場で誤った評価がされている場合には、魅力的な投資機会が生じると考えられます。一方で、優れた経営執行で迅速に収益化できることを前提にバリュエーションが切り上がっている場合は、高い期待がリスクをもたらすかもしれません。
また、AIによる破壊的変革は、より広範なリスクと投資機会をもたらします。規制当局による監視、データプライバシー懸念、知的財産に関する懸念、サイバーセキュリティの脅威、AIモデルの信頼性、導入コストは、いずれも導入と収益性に影響を与える可能性があります。同時に、AIによって、到達可能な市場の拡大、生産性の向上、意思決定の強化、新しいビジネスモデルの創出も可能になります。投資を行う上で課題となるのは、AIをテーマとする投機的な投資先を避け、ファンダメンタルズ分析を活用してAIによって競争上の優位性が高まる(あるいは損なわれる)企業や、バリュエーションで安全マージンが確保されている企業を特定することです。投資機会は、AIを広く導入することではなく、破壊的変革によってどのように価値が再分配されるのかを理解することにあります。
検討事項 |
AIの設備投資が市場を再形成
AIの設備投資を拡大する動きは、米国の近代史上最大規模の設備投資サイクルの1つであり、その影響はテクノロジー・セクター以外にも拡大しています。ハイパースケーラー、半導体企業、電力会社、資本財企業、インフラ・プロバイダーが設備投資を行ってAIの作業負荷を支える中、投資機会が拡大しています。コンピューター、コネクター、電力、冷却装置、データセンター構築に関する分野については、引き続き成長見通しを強気に見ています。恩恵を受けることが最も明白なのは半導体・半導体装置メーカーですが、AIの能力が拡大し続ける中、こうした恩恵の機会は、電子機器や電力インフラ、送電網の最新化などに携わる一部の資本財企業も巻き込みながら広範囲に広がっています。
ハイパースケーラーには戦略的な緊急性があり、投資を継続できる財務能力も備わっていることから、こうした投資は長期にわたって続くとみられています。ハイパースケーラーは、潤沢なキャッシュフロー、支配的なクラウドプラットフォーム、深い顧客リレーションの恩恵を受けています。また、その規模の大きさから、調達、効率的なインフラ、データ・アクセス、AIモデルの展開においても優位性が構築されています。 AI関連投資は資本集約的ですが、景気サイクルを問わずに資金を調達できる企業はほとんどありません。AIがクラウド需要を押し上げてソフトウェアの採用が増え、新たなプラットフォーム収益が拡大すれば、現在の設備投資は持続的な成長につながる可能性があります。
しかし、AI構築にあたっては資金調達も同じくらい重要な要素です。AIには莫大な投資が必要ですが、すべての企業が最大手のプラットフォーム企業と同じような財務的柔軟性を持っているわけではありません。データセンター開発業者、電力会社、通信事業者、その他のインフラ関連企業は、資金調達を借入、プロジェクト・ファイナンス、プライベート・キャピタル、株式発行に依存する必要があるかもしれません。そのため、自己資金による成長が可能な企業と、レバレッジ比率の拡大や資金調達コストの上昇、事業遂行リスクといった問題に直面する企業との間で、格差が拡大するリスクが高まっています。
債券では、AIの設備投資は成長よりも主に資金調達と需給の観点から評価されます。債券の供給が需要を上回っており、特にレバレッジが上昇している場合、インフラ関連企業による発行増加はスプレッド拡大圧力につながる可能性があります。これまでのところ、AI関連の債券に対する需要は依然として強いため、市場のバランスは維持され、バリュエーションは支えられています。ただし、銘柄選択が重要です。投資にあたっては、耐久性が高く、キャッシュフローの裏付けがあるインフラのための資金を調達する企業と、投機的な事業拡大を追求する企業を選別する必要があります。 AIの設備投資は株式市場では強気に見られている投資テーマですが、クレジット市場では、資金調達構造やバランスシートの健全性、債券の需給動向によって投資成果が左右されるため、より選択的に投資することが重要です。
検討事項 |
供給不足により生産コストが上昇するリスク
近年のマクロ経済環境の特徴とされる供給の目詰まりが再び発生しています。これにより、コストの安定と利益率の拡大に依存してきた世界金融危機後の経済システムが揺らいでいます。MFSのグローバル・インベストメント・ストラテジストであるRob Almeidaが指摘するように、利益は売上高からコストを差し引いて計算されるものですが、現在はそのコストの不確実性が高まっています。
主なリスクは労働力の不足です。長年にわたる物理的設備への投資不足と、インフラやテクノロジーの導入に伴う熟練労働者への需要の高まりが相まって、労働市場は引き締まっています。こうした状況は賃金を押し上げ、特に専門的人材に依存しているセクターでは、企業の構造的なコスト・ベースの上昇に寄与しています。
同時に、エネルギーとインフラの制約が生産コストを押し上げています。より資本集約的な経済へ転換するためには、発電、送電、生産能力への投資が必要であり、企業はエネルギー、原材料、物流の投入コストの上昇にますますさらされることになります。こうしたコスト上昇圧力は一時的なものではなく、現在の景気局面で経済システムが十分に機能しておらず、遅れを取り戻そうとしている動きの表れです。
こうした要因が重なり、インフレの上振れリスクが顕在化する可能性があります。需要が減退しても、供給面の摩擦によってコストに上昇圧力がかかり続け、インフレが正常化するペースが制限されています。歴史を見る限り、インフレの急騰は短期的には価格決定力を支える可能性がありますが、コストの上昇を伴うことも多々あります。コストの上昇は持続する傾向があり、最終的には利益率を圧迫します。
こうした状況は、企業収益の底堅さに疑問を投げかけることになります。経済成長が減速し、企業収益の伸びが鈍化すれば、企業は人件費、エネルギーコスト、売上原価などの固定費の上昇を吸収することが難しくなります。負の供給ショックは、企業収益を圧迫するほかコストを上昇させる可能性があり、これらが同時に起こることで、利益率の圧縮が加速し、予想以上に急速な利益の減速につながる可能性があります。
投資家への影響は一様ではありません。供給が限られたリソースを持つ企業、重要インフラを所有している企業、あるいは強力な価格決定力を持っている企業は、利益率を維持する上で有利な立場にあるといえます。一方、コモディティ化した市場や競争の激しい市場で事業を展開している企業は、コスト上昇分の転嫁は困難と思われます。結果として、市場では勝者と敗者の格差が拡大するため、供給制約が高まる状況下では、市場全体にエクスポージャーを持つよりも、銘柄選択を行うことの重要性が高まります。
検討事項 |
GARP:変化する市場環境で耐性のある 成長銘柄を発掘
GARP(Growth at a Reasonable Price)とは、収益の持続性、資本配分、バリュエーションのすべてを重視して成長企業に投資する手法です。つまり、質が高く、適正な株価水準にある銘柄を重視します。この手法は、上昇をけん引する銘柄が一部に偏っており、投資家の関心が少数の支配的なテーマに集まっていることで、他の質の高い銘柄が過小評価されている市場で特に重要になります。
市場は、景気循環的というよりも構造的に変化しています。テクノロジーによって、参入障壁の低下や競争構造の転換の加速、利益プールの再配分が進んでいます。一方で、AI主導の設備投資、資金調達コストの上昇、サプライチェーンの強靭化が進む中、資金の流入先が変化し、市場をけん引する銘柄が変わりつつあります。背景には景気循環的な要因もありますが、それ以上にリターンの源泉が変化していることが大きいと言えます。そのため、変化する中でもリターンを維持できる企業と、景気循環に業績が左右される企業との間で格差が拡大する可能性があります。投資家にとって重要なリスクは、景気回復を背景とした好業績を持続的な成長と勘違いし、1株当たり利益(EPS)が過去最高に近づき株価が過度に上昇した銘柄を買ってしまうことです。下図で示す通り、EPS上位5分位の株価収益率(PER)は2021年の84倍から2023年には11倍に低下し、現在は36倍に回復しています。こうした状況は、持続的な利益成長と規律あるバリュエーション評価を重視するGARPアプローチが、より安定的な複利成長の実現に有効であることを示唆しています。
持続的な需要、価格決定力、バランスシートの強さ、環境の変化に適応できる経営陣を有する企業には、投資機会があるとみています。こうした企業の多くは、市場ではそれほど評価されていませんが、長期的なリターンは市場心理よりも企業利益の複利成長によってもたらされる傾向があります。多くの場合、リターンと企業利益の関連性は弱まっていません。少数の上昇銘柄に関心が集まっている現在の市場で注目されていないだけです。こうした企業は景気循環に依存するのではなく、環境が変化する中でも企業利益の複利成長を実現できる可能性があります。
市場をけん引する銘柄が一部に偏ることで、急速な破壊的変革と幅広いリターン源泉を特徴とする市場に十分適応できる広範な銘柄群が埋もれてしまっています。競争優位性の維持が容易ではなくなる中、規模と同様に適応性が重要になると考えられます。投資家は、引き続き強力な構造的投資テーマに参加しつつ、支配的な投資テーマの外で過小評価されている質の高い銘柄を保有することも可能です。そうすることにより、リターン源泉が広がり、単一の市場テーマへの依存が低下します。
GARPは、市場環境が変化する中で、保有資産の質、適応性およびバリュエーションの安定性を維持する手段を投資家に提供します。依然として景気循環は重要な要素ですが、それ以上に強い影響を及ぼすのは構造的な要因です。GARPは、相場をけん引する銘柄や競争力を持つ銘柄が交代したり、成長の源泉が変化する中で、ポートフォリオの耐性強化を支援する効果が期待されます。さらには、市場の人気銘柄に過度に依存することなく、バランスよく成長銘柄にアクセスする道を提供するといった効果も期待できます。
検討事項 |
米ドルの 優位性低下
米ドルの優位性が低下しつつあります。そのペースは緩やかで、且つ一定ではないものの、有意に低下しています。とはいえ、米ドルは依然として世界の金融システムの中心にあり、貿易決済、クロスボーダー融資、国際的な債券発行、 SWIFT決済、外国為替取引で使用される通貨の大半を占めています。実際に、国際取引で使用される通貨の主要指標のほとんどで、過去15年にわたって米ドルのシェアは50%近い水準で推移しています1。
しかし、準備通貨に占める割合の大きさと通貨の強さはイコールではありません。投資家が割高になった米ドルの保有に消極的になっても、米ドルのシステム上の重要性は変わりません。この点が大きな違いです。米ドル離れが徐々に進んでいることを最も明確に表しているのは、外貨準備です。2015年以降、外貨準備に占める米ドルのシェアは約8パーセント・ポイント低下している一方で、金(ゴールド)やシェアが小さい他の通貨は着実に外貨準備としての地位を高めています2。この傾向は、先進国ではそれほど見られませんが、特にエマージング諸国で顕著になっています3。
米ドルにとってそれよりも大きなリスクとなるのは、世界の決済通貨としての役割ではなく、価値貯蔵手段としての役割の喪失です。米ドルが価値貯蔵手段としての役割を果たす上で最も重要なのは信頼性ですが、その信頼性が揺らいでいます。近年は、関税、多国への制裁、地政学的な分断、ナショナリズムの再燃、防衛費の増加、財政上の懸念といった要因が重なり、米国例外主義のシナリオが弱まっています。その結果、世界の投資家や中央銀行の間でドル資産からの分散を図るインセンティブが高まり、伝統的な安全資産としての米ドルの地位が試される局面を迎えています。
こうした状況は米ドル安を志向する戦略的根拠を示しています。それは、米ドルが他の通貨に取って代わられようとしているからではありません。米ドルに取って代わる準備が整っている通貨はありません。欧州では、外貨準備として米ドルの真のライバルとなる通貨を支えるための財政同盟がまだ構築されておらず、中国は資本取引を自由化する必要があります。しかし、他に代替できる通貨がないからといって、米ドルからの段階的な移行が妨げられるわけではありません。
こうした状況から、米ドル建て以外の資産を分散投資ポートフォリオに組み入れる根拠が強まっています。外貨準備の多様化による恩恵を主に受けるのは金ですが、混み合った米ドル建て資産からエクスポージャーをシフトさせる動きが進めば、米国以外の資産も恩恵を受けることが見込まれます。特に優位な立場にあると思われるのはエマージング諸国です。米ドル安はエマージング通貨と現地通貨建て債券に恩恵をもたらす傾向があり、米ドル安基調が続けば、エマージング市場のリターンにとって大きな追い風となる可能性があります。その場合、エマージング資産の組み入れは単なる景気循環的な取引ではなく、ポートフォリオにおける戦略的配分として位置付けられます。
検討事項 |
プライベート・クレジット:リスク・リターン特性の変化
ここ数年急成長してきたプライベート・クレジットが、初めての真のストレステストに直面しています。悪化の兆候はさまざまな形で現れています。ビジネス・デベロップメント・カンパニー(BDC)のスプレッドが拡大し、回収懸念債権が増加しているほか、解約圧力も高まっており、一部のマネジャーはセカンダリー市場を通じて不良資産を売却するなどしています。同時に構造的な圧力も高まっており、例えば、ダイレクト・レンディングの借り手の約21%を占めるソフトウェア企業はAIの登場で窮地に立たされ、事業再編を余儀なくされています4。プライベート市場は不透明性(評価頻度の低さ、限定的な情報開示、統一されていない報告データ)という特徴を持つことから、信用状況悪化の全容はまだ見えていない可能性があります。欧州中央銀行(ECB)はシステミック・リスクが高まっていると指摘し、欧州の保険会社に影響が波及するリスクがあると警告しています。
とはいえ、プライベート・クレジットの現在のストレスが経済全体に重大なリスクをもたらす可能性は低いと思われます。プライベート・クレジットは依然セクターとしては比較的小規模で、非金融法人向け融資に占める割合は約10%程度と、ハイイールド債やレバレッジド・ローンの21%を下回っています5。したがって、新規融資の減速によって信用スプレッドには小幅な上昇圧力がかかると思われますが、広範囲で信用収縮が起きる可能性は依然として限定的であり、また、こうしたリスクはいくつかの要因から緩和されると思われます。ファンドが保有する投資待機資金(ドライパウダー)が短期的には融資減速の緩衝材となり、また、銀行は必要に応じてこうしたミドル・マーケット企業向けの融資活動に参入する余力を持っています。さらには、バーゼルIIIの完全適用に伴い、銀行の余剰資本が増加することが予想され、そうなれば融資環境は改善されることが期待されます。
プライベート・クレジットのスプレッドの変化を受け、流動性に再び注目が集まっています。非流動性プレミアムが縮小しているため、流動性を犠牲にすることのメリットが低下しています。また、地政学的な不確実性が高まる中、流動性の重要性がますます増しています。エクスポージャーを調整して変化する環境への対応を可能にしておくことは、リスク管理に不可欠な要素であり、後付けでできることではありません。プライベート・クレジットは分散投資ポートフォリオにおいて引き続き重要な役割を果たしますが、大きく変化したリスク・リターン特性を反映して資産配分を慎重に調整する必要があります。
リスク・リターン特性が変化すれば、ポートフォリオの安定資産として伝統的債券の相対的な魅力が高まるでしょう。流動性の高いクレジット市場は最近のストレス期を通じても相対的に底堅く推移しており、スプレッドはタイト化しているものの利回りは依然として魅力的な水準にあるほか、ハイパースケーラーによる大規模な社債発行が相次ぐ中でも資金流入は続いており、また企業のファンダメンタルズは異例の強さを示しています。こうした環境下では、相対的な価値を見極めるだけでなく、流動性を確保しながら、柔軟性を維持して状況の変化に応じてエクスポージャーを調整できるアクティブ運用が最適であると考えます。
検討事項 |
当レポート内で提示された見解は、MFS ディストリビューション・ユニット傘下のMFS ストラテジー・アンド・インサイト・グループのものであり、MFS のポートフォリオ・マネジャーおよびリサーチ・アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFS の代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。
1 Goldman Sachs。“Dollar Dominance and Dollar Depreciation ‒ Moving on Different Tracks,” 2025年9月。
2 Goldman Sachs。“Dollar Dominance and Dollar Depreciation ‒ Moving on Different Tracks.”2025年9月。
3 Deutsche Bank Research。“The Return of History: Gold, the Dollar, and the Monetary Future,” 2026年4月。
4 出所:JP Morgan。North America Economic Research, “US: Private Credit isnʼt a Public Problem.”Abiel Reinhart, Michael Feroli, Nelson Jantzen, Kabir Caprihan, 2026年5月1日。
5 出所:JP Morgan。North America Economic Research, “US: Private Credit isnʼt a Public Problem.”Abiel Reinhart, Michael Feroli, Nelson Jantzen, Kabir Caprihan, 2026年5月1日。
BLOOMBERG®は、Bloomberg Finance L.P.およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。BloombergまたはBloombergのライセンサーは、Bloomberg Indexのすべての所有権を有します。Bloombergは、本資料を承認もしくは保証するものではなく、本資料に記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、本資料から得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。
「Standard & Poorʼs®」およびS&P「S&P®」はStandard & Poorʼs Financial Services LLC(以下、「S&P」といいます)の登録商標であり、Dow JonesはDow Jones Trademark Holdings LLC(以下、「Dow Jones」といいます)の登録商標です。S&P Dow Jones Indices LLCはこれら登録商標の使用許諾を受け、MFSは特定の目的のためにサブライセンスを受けています。S&P 500®はS&P Dow Jones Indices LLCの商品であり、MFSはこの使用許諾を受けています。MFSの商品は、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、またはそれぞれの関連会社によって出資、保証、販売、または販売促進されておらず、また、S&P Dow Jones Indices LLC、Dow Jones、S&P、それぞれの関連会社は、かかる商品への投資の妥当性についていかなる表明も行っていません。
インデックスデータ出所:MSCI。MSCIは、当レポートに含まれるMSCIデータに関して、明示または非明示を問わずいかなる保証も行っておらず、責任を一切負わないものとします。MSCIデータは、他の指数や有価証券、金融商品のために再利用することは出来ません。当レポートはMSCIによって承認、審査または作成されたものではありません。
当レポートは一般的な情報提供のみを目的としたものであり、特定の投資目的、財務状況、特定の個人のニーズを考慮したものではありません。当レポートはMFSの投資商品またはサービスの販売促進や助言を行うものではありません。当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言として依拠するべきではありません。過去の運用実績や予測、予想、見込みは将来の運用成果を示唆するものではありません。当レポートに含まれる情報は、MFSによる明示的な同意なしに複写、複製、再配布することはできません。MFSは、発行日現在における情報の正確性を確保するために合理的な注意を払っていますが、明示または黙示を問わず、いかなる保証または表明も行わず、いかなる誤謬または脱落についても責任を負わないことを明示します。情報は予告なく変更される場合があります。MFSは、当レポートの使用または当レポートへの依拠から生じるいかなる損失、間接的損害、派生的損害についても責任を負いません。