decorative

2024年の主要テーマ

本稿では、2024年に市場や経済に影響を及ぼす可能性があると考える6つのテーマについてご説明します。

執筆者:JONATHAN W. HUBBARD, CFA(マネージング・ディレクター、インベストメント・ソリューション・グループ)、BENOIT ANNE(マネージング・ ディレクター、インベストメント・ソリューション・グループ)、BRAD RUTAN, CFA(マネージング・ ディレクター、インベストメント・ソリューション・グループ)

 

  • 概要

    概要

    2024 年に入り、マクロ経済や資本市場の状況に影響を与える可能性の高い重要なテーマがいくつかみられます。昨年は、米国で経済成長が回復しインフレ率が低下した一方、欧州やいくつかのエマージング諸国は健全な経済成長の回復に苦戦しました。米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年末にかけてタカ派姿勢を軟化し始め、今後の利下げの道筋を検討しています。しかし、欧州中央銀行やイングランド銀行などは、FRB のように早く利下げをする可能性は低いとみられます。 2023 年の株式市場のパフォーマンスは多くの投資家を驚かせるものとなり、予想を大きく上回りました。ただし、それなりの波乱がなかったわけではありません。そのような事例の 1 つは 2023 年 3 月の米国における地銀危機で、このときは FRB が銀行の流動性問題に対処するため、銀行資金調達プログラムを立ち上げました。この対応は的確かつ最終的には効果的で、中央銀行は問題を封じ込めつつ、利上げを高い水準で維持することができました。これにより、FRB は危機に対処する一方でインフレとの戦いを続けることができ、インフレは FRB にとって有利に推移しているように見えます。 

    資 本 市 場 で は、 世 界 株 式(MSCI AC World Index)は20%超上昇しました。一方、コア債券のリターン(Bloomberg Barclays Global Aggregate Index)は 2 年続いたマイナスの流れを断ち切り、プラス圏で終えました。AI の明るい展望にも後押しされて、投資家の熱狂の渦が 2023 年半ばにかけて株式市場を席巻しました。とりわけこの流れを牽引したのは、マグニフィセント・セブンと呼ばれる収益力とバランスシートの安定性の面から敵なしに見える米巨大テクノロジー企業の集合体でした。しかし、歴史を振り返ると、このような株式のグループが長期間にわたって足並みをそろえて変動したことはほとんどありません。これは、個々の企業の長所をそれぞれ分析することの重要性を示しています。この点は、不安定な地政学的状況や高水準のソブリン債務、借入コストの上昇、グローバル・サプライチェーンの転換が見込まれる、より変化の激しい投資環境に移りつつある中で特に重要になると考えます。受託した資本の効果的な配分のためには、これまで以上にグローバル・リサーチ・プラットフォーム全体におけるリサーチ間の情報交換が不可欠であると考えています。


  • 脱グローバル化 ではなく「再グローバル化」

    国と国との関係、特定の産業への特化および無数の経済的要因により、世界貿易のエコシステムは常に変化しています。1944 年のブレトン・ウッズ体制の成立、1957 年の欧州経済共同体の設立、2001 年の中国の世界貿易機関への加盟などは、世界貿易に長く影響を与えた歴史上の大きな転換点でした。最近では、英国の欧州連合(EU)離脱、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の発効、中国からの特定の輸入品に対する米国の関税が、世界の貿易構造が大きく転換する契機となりました。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックとロシアのウクライナ侵攻により、サプライチェーンは分断され、エネルギーの流通は混乱に陥り、企業の資産状況は悪化したため、世界の貿易構造の変化はさらに加速しました。加えて、半導体製造などの主要分野では、国家安全保障への懸念が経済効率に勝り、貿易相手国間の信頼が低下しています。 

    このような事象が同時に発生したことにより、自給自足と保護主義の名の下に比較優位の原則が軽視される脱グローバル化の世界へと移行するのでしょうか。そうは思いません。世界貿易の利益は無視するには大きすぎます。現に再グローバル化の動きが現れており、貿易の相手国、サプライチェーン、物流、国家間の提携は、リショアリング、自動化、フレンド・ショアリング、サプライチェーンの冗長化といった新たな組み合わせに移行しています。米国の企業は、米連邦政府の金融面や政策面での促進策、特にインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)とチップス・科学法(Chips and Science Act)を通じて、こういった移行を実現するよう一段と促されています。欧州では、政策当局者が、国家間の分断を防ぐために戦略的貿易関係をどのように支援し促進するのが最適かを検討しています。こうした大きな変化の真の受益者は、かつて中国の影に隠れていたエマージング諸国であるかもしれません。 

      留意事項

    • インド、タイ、ベトナムなどの国で有利な立場にある企業は、再グローバル化の恩恵を受ける可能性があります。 
    • 米国の中小企業も米国の「再産業化」の恩恵を受ける可能性があります。

     


  • 地政学リスクの回避はますます困難に

    ウクライナ危機とハマスによるイスラエル攻撃を受けて、地政学的状況はさらに厳しくなっています。FRB の 2 人のエコノミストが開発し、注目度の高い地政学リスク指数によると、ハマスの攻撃は 9.11 米国同時多発テロ事件以降で 3 番目に大きな地政学リスクの増大をもたらしました(下図参照)。この指標に基づくと、2004 年から 2021 年までの期間と比較して、地政学リスクはウクライナ危機開始以降、大幅に上昇しています。地政学リスクはすぐに弱まる可能性は低いとみられます。

    まず、現在の危機は迅速に解決されそうな兆候をほとんど示しておらず、紛争の歴史的起源や解決への明確な道筋の欠如などを考慮すると長引く可能性があります。加えて、米中関係の悪化が続いていることが新たな国際的緊張の原因になる可能性があります。最後に、Integrity Instituteによると、 2024 年には世界の人口の約半数を占める78 カ国で選挙が予定されています。二極化が深刻な世界で、これは政治的または地政学リスクの正常化にはつながりません。現在の米国内および世界的な緊張を踏まえると、今度の米大統領および議会選挙は特に激しい論争を呼ぶ可能性があります。 

    地政学リスクは予測が非常に難しく、そのリスクに備えたポジションをとることは事実上不可能です。第一に、危機発生の可能性を見極めることは非常に困難です。第二に、危機の発生時期、規模、期間、およびそれによって生じ得る影響が常に不確実であり、その多くは想像を超えるものとなりえます。この点を踏まえると、「ブラック・スワン」的事象(めったに起こらないが壊滅的被害をもたらす事象)に相当し得るという理由だけで、地政学的リスクに対する保護のみを目的としてポートフォリオのポジションを構築することは、リスク管理の観点から見て非合理的であると考えています。後から振り返る場合を除き、予期せぬ事態を予期することは困難です。しかし、リスク管理を最適化するために投資家が実行できる戦略はあると考えます。 

      留意事項

    • ポートフォリオの分散は資産クラス別、地域別エクスポージャーの観点から不可欠です。 
    • 債券、特に国債は、地政学的危機による影響の緩和に役立ちます。
    • 米ドル、スイスフラン、日本円、および一部のコモディティは安全資産として機能する傾向があり、ヘッジとなる場合があります。

     


  • 頂点での分岐

    まるでマグニフィセント・セブンはカレンダーを確認しているかのようです。Bloomberg Magnificent 7 index は 2021 年 12 月 下旬にピークをつけ、2022 年 12 月下旬に底を打ち、現在はこの下げを完全に取り戻し、 2023 年 12 月下旬に最高値を更新しました。もちろん、この物言いはいささか現実離れしていますが、2023 年に指数が 100% 以上上昇したことは特記に値します。このグループに属する銘柄は、テクノロジーを事業に活用するプラットフォーム重視の大企業であるといった点で類似した特徴をいくつか持っていますが、大きく異なる点もあります。実際、これらの銘柄は、世界産業分類基準ではコミュニケーション・サービス、一般消費財・サービス、情報技術の 3つの異なるセクターに分類されます。 

    メディアは、わかりやすいストーリーを作り上げるためにこれらをグループ化したがりますが、これらをグループとして見ることは近視眼的な見方であり、投資家は採用すべきではないとみています。今後、同グループの銘柄間で大きな差異が生じる可能性があり、投資家は一括りで見るのではなく、各社の個別の長所に注目すべきであると考えています。一部の企業は、何十年にもわたる試練を経て健全なバランスシートと有望な事業見通しを持っていますが、そうでない企業もあります。1960 年~ 1970年代のニフティ・フィフティ、2000 年代のビッグ・メディア、2010 年代終盤の FANGといった過去の株式グループの愛称に関しては、最終的に各銘柄がすべて異なる道をたどることになり、こういったメディアが付けた名前は意味をなさなくなりました。 

      留意事項

    • マグニフィセント・セブンの各企業について、それぞれの事業の質、バリュエーション、将来の見通しの特性について認識することが必要です。 
    • 市場の物色対象が極端に集中した時期の後は、歴史的に正常な状況に回帰する傾向があります。

     


  • 財政赤字「より高くより長く」

    米国は財政問題を抱えています。国内総生産(GDP)の 6% を超える米国の財政赤字が異常に高い水準であることは否定できません。歴史的に見ても、同程度の財政ギャップが見られたのは、戦時中や景気後退への政策対応の時期だけです。1969 年以降で景気後退期を除いた米財政赤字の長期平均はGDP の 3.5%と、現在の水準を大きく下回っています。残念ながら、大統領選挙を控え、当面、米当局者が財政問題に目を向ける可能性はほとんどないとみられます。したがって、大幅な財政赤字はしばらくの間、維持される見通しです。 

    過大な財政赤字は多くの問題をもたらします。第一に、増大する赤字を賄う必要があり、米財務省に国債発行の増加圧力がかかります。さらに重要なのは、財政赤字が望ましい水準よりも巨額に膨らんでいるということは、政策運営の余地が制約されることを意味し、マクロ・ショックが発生した場合に政策立案者による対応策の選択肢が少なくなるという点です。最後に、景気がまだ好調な時期に強力な財政刺激策を実施すれば、景気が過熱する可能性があります。そのため、足元の大幅な利上げの後に、FRB が政策スタンスを正常化する余地が制限される可能性があります。 

    当面は、財政赤字が市場に及ぼすリスクは限定的とみられます。もっとも、投資家は米財政状況の悪化への懸念を強めており、それが市場金利の反発につながる可能性があります。つまり、2022 年 3月以降、FRB の政策によって金利が大幅に上昇しましたが、これからは米財務省が金利上昇の主要なリスクになるおそれがあります。 

    財政動向を注視することは重要ですが、少なくとも短期的には財政政策が大きな市場リスクになるとは考えていません。とはいえ、財政規律の欠如は中期的に大きなリスクとなる可能性があります。財政政策と市場との関係は、通常、転換点に達した後に生じます。つまり、危機的な閾値に達するまでは、財政政策は市場の主要な問題とはなりません。 

      留意事項

    • 短期的には、財政政策の問題が 2024 年に金利を押し上げる要因にはならないと考えます。 
    • 中期的には、この問題への対処がなされなければ、投資家による米国のあらゆる種類の資産の売却につながる可能性があります。

     


  • 米国ハイイールド債:銘柄ごとの吟味

    MFS グローバル・インベストメント・ストラテジストの Rob Almeida は、どこに座るかによってどの位置に立つかが決まる、と指摘しています。5 ブロック離れた所からはレンガ造りの建物が見えますが、 5フィート離れた所からはレンガが見えます。遠くから見ると、投機的格付け債券市場は明らかに景気サイクルのストレスの兆候を示しています。2021 年以降、投機的格付けの企業の収益成長率やキャッシュフロー指標は悪化しています。インタレスト・カバレッジ・レシオは 1 年以上前にピークに達し、その後低下しています。米国裁判所事務局によると、連邦破産法第 11 条に基づく破産申請は増加しています。しかし、この建物(市場)が倒壊する危険性はないと考えています。信用格付けの低い企業が銀行融資やプライベート市場を利用して資金を調達したおかげで、ハイイールド債市場全体の信用の質は大幅に向上しました。利益に対する有利子負債の比率を示すレバレッジは 2019 年の水準です。2024 年から2025 年にかけて満期を迎える債券は 1,500 億米ドルに過ぎず、景気サイクルの底における発行も支援材料となることから、満期の壁について騒ぎ過ぎであると考えています。 

    しかし、前述の比喩として用いた建物、つまり市場に焦点を当てるよりも、レンガ、つまり個々の企業に注目しています。このような環境下では、高水準にある金利のキャッシュフローに占める割合が高まる中で時間との戦いになっている商業用不動産や有線通信、小売などの厳しい状況にある業界の企業については、特に選別することが重要です。ゾンビ企業は増加しており、テレビの中のゾンビと同様に予想を超えて長く生きながらえる可能性がありますが、それでもやはり同じ運命をたどることになると考えます。

      留意事項

    • 2024 年に入り、より多くの企業が構造的に健全であり、魅力的な利回りを伴っています。 
    • 保有している社債について楽観的な見方をしているものの、ポジションの潜在的リスクについては引き続き警戒しています。

     


  • AI:熱心に問いかけること

    人工知能の略である「AI」という言葉からは、無限の機会と悪影響からなる未来図が想起されますが、投資家は的を得た質問をしていない可能性があります。投資家から預かった資本を長期的に配分している会社としては、AI のような新技術の短期的な影響と長期的な影響の両方を十分に理解することが不可欠です。では、企業に何を問うのでしょうか。

    現在の巨大テック企業については、質問の中心は、業績を左右する、広大だが侵入不可能ではない「堀」(堀の役割をして企業を守っている要因)を保護できるかどうかという点です。現在の検索エンジンを改良する生成 AI は、最終的に従来型の検索結果により生み出される利益の破壊につながるでしょうか。スマートフォンは、AI の恩恵を享受するための消費者向けデバイスとして引き続き好まれるでしょうか。データと計算能力の独占の程度は低下するでしょうか。 

    AI はテクノロジー業界以外の産業にも広く影響を与える見込みです。では、他のどのような企業や産業が影響を受けるのでしょうか。産業向けの AI の活用は広範かつ多様であると考えられます。製薬会社は AI を使って、創薬のスピードを向上させ、コストを下げることができるかもしれません。金融サービス会社は、AI を利用して大量の顧客データを活用できるかもしれません。エネルギー企業は、 AI を活用してコストを削減し、効率を高めることができるかもしれません。 

    現在の指数ウェイトは歴史上最も集中度が高いものの一つで、AI などの新技術を巡る投資家の楽観的見方を大きく反映しています。しかし、長期的に上昇が見込める銘柄を決定して、テクノロジーの混乱期を通してこれらの銘柄を保有し続けるだけの信念を持つには、徹底したファンダメンタルズ・リサーチと知的好奇心や規律が求められます。 

      留意事項

    • AI の未来に関して投資家は問いかけ、答えに対してさらに問いかけるべきです。AI を巡っては、答えよりも問いかける方がまだ多い状況です。 
    • AI の勝者と敗者を決定するには、企業のファンダメンタルズと業界の傾向を深く理解する必要があります。

     

     

     

    出所:Bloomberg Index Services Limited. BLOOMBERG® は、Bloomberg Finance L.P. およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。 Bloomberg または Bloomberg のライセンサーは、Bloomberg Index のすべての所有権を有します。Bloomberg は、当レポートを承認もしくは保証するものではなく、当レポートに記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、当レポートから得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。

    MSCI は、当レポートに含まれるいかなるMSCI のデータについても、明示的・黙示的に保証せず、またいかなる責任も負いません。この MSCI のデータを再配布することは許可されず、また、他の指数やいかなる有価証券または金融商品の根拠として使用することもできません。MSCI は当レポートの内容の承認やレビューを行っておらず、また、当レポートの作成者でもありません。

    当レポートで提示された見解は、MFS ディストリビューション·ユニット傘下の MFS インベストメント·ソリューション·グループのものであり、MFS のポートフォリオ·マネジャーおよびリサーチ·アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあり、投資助言、銘柄推奨、あるいは MFS の代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。

    ご利用にあたっての注意事項

概要

2024 年に入り、マクロ経済や資本市場の状況に影響を与える可能性の高い重要なテーマがいくつかみられます。昨年は、米国で経済成長が回復しインフレ率が低下した一方、欧州やいくつかのエマージング諸国は健全な経済成長の回復に苦戦しました。米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年末にかけてタカ派姿勢を軟化し始め、今後の利下げの道筋を検討しています。しかし、欧州中央銀行やイングランド銀行などは、FRB のように早く利下げをする可能性は低いとみられます。 2023 年の株式市場のパフォーマンスは多くの投資家を驚かせるものとなり、予想を大きく上回りました。ただし、それなりの波乱がなかったわけではありません。そのような事例の 1 つは 2023 年 3 月の米国における地銀危機で、このときは FRB が銀行の流動性問題に対処するため、銀行資金調達プログラムを立ち上げました。この対応は的確かつ最終的には効果的で、中央銀行は問題を封じ込めつつ、利上げを高い水準で維持することができました。これにより、FRB は危機に対処する一方でインフレとの戦いを続けることができ、インフレは FRB にとって有利に推移しているように見えます。 

資 本 市 場 で は、 世 界 株 式(MSCI AC World Index)は20%超上昇しました。一方、コア債券のリターン(Bloomberg Barclays Global Aggregate Index)は 2 年続いたマイナスの流れを断ち切り、プラス圏で終えました。AI の明るい展望にも後押しされて、投資家の熱狂の渦が 2023 年半ばにかけて株式市場を席巻しました。とりわけこの流れを牽引したのは、マグニフィセント・セブンと呼ばれる収益力とバランスシートの安定性の面から敵なしに見える米巨大テクノロジー企業の集合体でした。しかし、歴史を振り返ると、このような株式のグループが長期間にわたって足並みをそろえて変動したことはほとんどありません。これは、個々の企業の長所をそれぞれ分析することの重要性を示しています。この点は、不安定な地政学的状況や高水準のソブリン債務、借入コストの上昇、グローバル・サプライチェーンの転換が見込まれる、より変化の激しい投資環境に移りつつある中で特に重要になると考えます。受託した資本の効果的な配分のためには、これまで以上にグローバル・リサーチ・プラットフォーム全体におけるリサーチ間の情報交換が不可欠であると考えています。


脱グローバル化 ではなく「再グローバル化」

国と国との関係、特定の産業への特化および無数の経済的要因により、世界貿易のエコシステムは常に変化しています。1944 年のブレトン・ウッズ体制の成立、1957 年の欧州経済共同体の設立、2001 年の中国の世界貿易機関への加盟などは、世界貿易に長く影響を与えた歴史上の大きな転換点でした。最近では、英国の欧州連合(EU)離脱、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の発効、中国からの特定の輸入品に対する米国の関税が、世界の貿易構造が大きく転換する契機となりました。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックとロシアのウクライナ侵攻により、サプライチェーンは分断され、エネルギーの流通は混乱に陥り、企業の資産状況は悪化したため、世界の貿易構造の変化はさらに加速しました。加えて、半導体製造などの主要分野では、国家安全保障への懸念が経済効率に勝り、貿易相手国間の信頼が低下しています。 

このような事象が同時に発生したことにより、自給自足と保護主義の名の下に比較優位の原則が軽視される脱グローバル化の世界へと移行するのでしょうか。そうは思いません。世界貿易の利益は無視するには大きすぎます。現に再グローバル化の動きが現れており、貿易の相手国、サプライチェーン、物流、国家間の提携は、リショアリング、自動化、フレンド・ショアリング、サプライチェーンの冗長化といった新たな組み合わせに移行しています。米国の企業は、米連邦政府の金融面や政策面での促進策、特にインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)とチップス・科学法(Chips and Science Act)を通じて、こういった移行を実現するよう一段と促されています。欧州では、政策当局者が、国家間の分断を防ぐために戦略的貿易関係をどのように支援し促進するのが最適かを検討しています。こうした大きな変化の真の受益者は、かつて中国の影に隠れていたエマージング諸国であるかもしれません。 

    留意事項

  • インド、タイ、ベトナムなどの国で有利な立場にある企業は、再グローバル化の恩恵を受ける可能性があります。 
  • 米国の中小企業も米国の「再産業化」の恩恵を受ける可能性があります。

 


地政学リスクの回避はますます困難に

ウクライナ危機とハマスによるイスラエル攻撃を受けて、地政学的状況はさらに厳しくなっています。FRB の 2 人のエコノミストが開発し、注目度の高い地政学リスク指数によると、ハマスの攻撃は 9.11 米国同時多発テロ事件以降で 3 番目に大きな地政学リスクの増大をもたらしました(下図参照)。この指標に基づくと、2004 年から 2021 年までの期間と比較して、地政学リスクはウクライナ危機開始以降、大幅に上昇しています。地政学リスクはすぐに弱まる可能性は低いとみられます。

まず、現在の危機は迅速に解決されそうな兆候をほとんど示しておらず、紛争の歴史的起源や解決への明確な道筋の欠如などを考慮すると長引く可能性があります。加えて、米中関係の悪化が続いていることが新たな国際的緊張の原因になる可能性があります。最後に、Integrity Instituteによると、 2024 年には世界の人口の約半数を占める78 カ国で選挙が予定されています。二極化が深刻な世界で、これは政治的または地政学リスクの正常化にはつながりません。現在の米国内および世界的な緊張を踏まえると、今度の米大統領および議会選挙は特に激しい論争を呼ぶ可能性があります。 

地政学リスクは予測が非常に難しく、そのリスクに備えたポジションをとることは事実上不可能です。第一に、危機発生の可能性を見極めることは非常に困難です。第二に、危機の発生時期、規模、期間、およびそれによって生じ得る影響が常に不確実であり、その多くは想像を超えるものとなりえます。この点を踏まえると、「ブラック・スワン」的事象(めったに起こらないが壊滅的被害をもたらす事象)に相当し得るという理由だけで、地政学的リスクに対する保護のみを目的としてポートフォリオのポジションを構築することは、リスク管理の観点から見て非合理的であると考えています。後から振り返る場合を除き、予期せぬ事態を予期することは困難です。しかし、リスク管理を最適化するために投資家が実行できる戦略はあると考えます。 

    留意事項

  • ポートフォリオの分散は資産クラス別、地域別エクスポージャーの観点から不可欠です。 
  • 債券、特に国債は、地政学的危機による影響の緩和に役立ちます。
  • 米ドル、スイスフラン、日本円、および一部のコモディティは安全資産として機能する傾向があり、ヘッジとなる場合があります。

 


頂点での分岐

まるでマグニフィセント・セブンはカレンダーを確認しているかのようです。Bloomberg Magnificent 7 index は 2021 年 12 月 下旬にピークをつけ、2022 年 12 月下旬に底を打ち、現在はこの下げを完全に取り戻し、 2023 年 12 月下旬に最高値を更新しました。もちろん、この物言いはいささか現実離れしていますが、2023 年に指数が 100% 以上上昇したことは特記に値します。このグループに属する銘柄は、テクノロジーを事業に活用するプラットフォーム重視の大企業であるといった点で類似した特徴をいくつか持っていますが、大きく異なる点もあります。実際、これらの銘柄は、世界産業分類基準ではコミュニケーション・サービス、一般消費財・サービス、情報技術の 3つの異なるセクターに分類されます。 

メディアは、わかりやすいストーリーを作り上げるためにこれらをグループ化したがりますが、これらをグループとして見ることは近視眼的な見方であり、投資家は採用すべきではないとみています。今後、同グループの銘柄間で大きな差異が生じる可能性があり、投資家は一括りで見るのではなく、各社の個別の長所に注目すべきであると考えています。一部の企業は、何十年にもわたる試練を経て健全なバランスシートと有望な事業見通しを持っていますが、そうでない企業もあります。1960 年~ 1970年代のニフティ・フィフティ、2000 年代のビッグ・メディア、2010 年代終盤の FANGといった過去の株式グループの愛称に関しては、最終的に各銘柄がすべて異なる道をたどることになり、こういったメディアが付けた名前は意味をなさなくなりました。 

    留意事項

  • マグニフィセント・セブンの各企業について、それぞれの事業の質、バリュエーション、将来の見通しの特性について認識することが必要です。 
  • 市場の物色対象が極端に集中した時期の後は、歴史的に正常な状況に回帰する傾向があります。

 


財政赤字「より高くより長く」

米国は財政問題を抱えています。国内総生産(GDP)の 6% を超える米国の財政赤字が異常に高い水準であることは否定できません。歴史的に見ても、同程度の財政ギャップが見られたのは、戦時中や景気後退への政策対応の時期だけです。1969 年以降で景気後退期を除いた米財政赤字の長期平均はGDP の 3.5%と、現在の水準を大きく下回っています。残念ながら、大統領選挙を控え、当面、米当局者が財政問題に目を向ける可能性はほとんどないとみられます。したがって、大幅な財政赤字はしばらくの間、維持される見通しです。 

過大な財政赤字は多くの問題をもたらします。第一に、増大する赤字を賄う必要があり、米財務省に国債発行の増加圧力がかかります。さらに重要なのは、財政赤字が望ましい水準よりも巨額に膨らんでいるということは、政策運営の余地が制約されることを意味し、マクロ・ショックが発生した場合に政策立案者による対応策の選択肢が少なくなるという点です。最後に、景気がまだ好調な時期に強力な財政刺激策を実施すれば、景気が過熱する可能性があります。そのため、足元の大幅な利上げの後に、FRB が政策スタンスを正常化する余地が制限される可能性があります。 

当面は、財政赤字が市場に及ぼすリスクは限定的とみられます。もっとも、投資家は米財政状況の悪化への懸念を強めており、それが市場金利の反発につながる可能性があります。つまり、2022 年 3月以降、FRB の政策によって金利が大幅に上昇しましたが、これからは米財務省が金利上昇の主要なリスクになるおそれがあります。 

財政動向を注視することは重要ですが、少なくとも短期的には財政政策が大きな市場リスクになるとは考えていません。とはいえ、財政規律の欠如は中期的に大きなリスクとなる可能性があります。財政政策と市場との関係は、通常、転換点に達した後に生じます。つまり、危機的な閾値に達するまでは、財政政策は市場の主要な問題とはなりません。 

    留意事項

  • 短期的には、財政政策の問題が 2024 年に金利を押し上げる要因にはならないと考えます。 
  • 中期的には、この問題への対処がなされなければ、投資家による米国のあらゆる種類の資産の売却につながる可能性があります。

 


米国ハイイールド債:銘柄ごとの吟味

MFS グローバル・インベストメント・ストラテジストの Rob Almeida は、どこに座るかによってどの位置に立つかが決まる、と指摘しています。5 ブロック離れた所からはレンガ造りの建物が見えますが、 5フィート離れた所からはレンガが見えます。遠くから見ると、投機的格付け債券市場は明らかに景気サイクルのストレスの兆候を示しています。2021 年以降、投機的格付けの企業の収益成長率やキャッシュフロー指標は悪化しています。インタレスト・カバレッジ・レシオは 1 年以上前にピークに達し、その後低下しています。米国裁判所事務局によると、連邦破産法第 11 条に基づく破産申請は増加しています。しかし、この建物(市場)が倒壊する危険性はないと考えています。信用格付けの低い企業が銀行融資やプライベート市場を利用して資金を調達したおかげで、ハイイールド債市場全体の信用の質は大幅に向上しました。利益に対する有利子負債の比率を示すレバレッジは 2019 年の水準です。2024 年から2025 年にかけて満期を迎える債券は 1,500 億米ドルに過ぎず、景気サイクルの底における発行も支援材料となることから、満期の壁について騒ぎ過ぎであると考えています。 

しかし、前述の比喩として用いた建物、つまり市場に焦点を当てるよりも、レンガ、つまり個々の企業に注目しています。このような環境下では、高水準にある金利のキャッシュフローに占める割合が高まる中で時間との戦いになっている商業用不動産や有線通信、小売などの厳しい状況にある業界の企業については、特に選別することが重要です。ゾンビ企業は増加しており、テレビの中のゾンビと同様に予想を超えて長く生きながらえる可能性がありますが、それでもやはり同じ運命をたどることになると考えます。

    留意事項

  • 2024 年に入り、より多くの企業が構造的に健全であり、魅力的な利回りを伴っています。 
  • 保有している社債について楽観的な見方をしているものの、ポジションの潜在的リスクについては引き続き警戒しています。

 


AI:熱心に問いかけること

人工知能の略である「AI」という言葉からは、無限の機会と悪影響からなる未来図が想起されますが、投資家は的を得た質問をしていない可能性があります。投資家から預かった資本を長期的に配分している会社としては、AI のような新技術の短期的な影響と長期的な影響の両方を十分に理解することが不可欠です。では、企業に何を問うのでしょうか。

現在の巨大テック企業については、質問の中心は、業績を左右する、広大だが侵入不可能ではない「堀」(堀の役割をして企業を守っている要因)を保護できるかどうかという点です。現在の検索エンジンを改良する生成 AI は、最終的に従来型の検索結果により生み出される利益の破壊につながるでしょうか。スマートフォンは、AI の恩恵を享受するための消費者向けデバイスとして引き続き好まれるでしょうか。データと計算能力の独占の程度は低下するでしょうか。 

AI はテクノロジー業界以外の産業にも広く影響を与える見込みです。では、他のどのような企業や産業が影響を受けるのでしょうか。産業向けの AI の活用は広範かつ多様であると考えられます。製薬会社は AI を使って、創薬のスピードを向上させ、コストを下げることができるかもしれません。金融サービス会社は、AI を利用して大量の顧客データを活用できるかもしれません。エネルギー企業は、 AI を活用してコストを削減し、効率を高めることができるかもしれません。 

現在の指数ウェイトは歴史上最も集中度が高いものの一つで、AI などの新技術を巡る投資家の楽観的見方を大きく反映しています。しかし、長期的に上昇が見込める銘柄を決定して、テクノロジーの混乱期を通してこれらの銘柄を保有し続けるだけの信念を持つには、徹底したファンダメンタルズ・リサーチと知的好奇心や規律が求められます。 

    留意事項

  • AI の未来に関して投資家は問いかけ、答えに対してさらに問いかけるべきです。AI を巡っては、答えよりも問いかける方がまだ多い状況です。 
  • AI の勝者と敗者を決定するには、企業のファンダメンタルズと業界の傾向を深く理解する必要があります。

 

 

 

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