メモリは新たな石油
執筆者
Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト
概要
- AIの開発は現在、高速メモリ(DRAM)の供給不足と価格高騰という制約を受けており、その結果、資本集約度が高まっています。
- メモリコストの上昇は、AIやクラウド企業にとどまらず、半導体に依存する幅広い産業に影響を及ぼし、スマートフォン、自動車、家電製品などの価格上昇や利益率の低下につながる可能性があります。
- このような環境下では、アクティブ運用とボトムアップ分析の有効性が高まると考えられます。構造的優位性と価格決定力を有する企業は、代替が容易な製品を扱う企業よりも投入コストの上昇圧力への耐性が高いなど、個別企業ごとの強みがより明確になるためです。
歴史を振り返ると、大きな技術革新は、最終的にボトルネックに直面してきました。19世紀の鉄道網の拡張は、輸送需要の不足ではなく、鉄鋼と資本の供給不足によって制限されました。20世紀初頭には、電化や自動車の普及の過程で銅やエネルギーの供給が制約となりました。1990年代のブロードバンドの普及では光ファイバー網の整備がハードルとなり、クラウド黎明期には、データセンターの容量不足が成長の制約要因となりました。
現在のAIサイクルにおいて最も顕著なボトルネックとなっているのは、GPU(画像処理装置)やコンピューティング容量の不足です。加えて、最近では、メモリも制約要因として顕在化してきています。データの高速処理を可能にする高速メモリ、すなわちDRAMが、AIシステムにおける極めて重要な要素となっていますが、ここ数カ月でさまざまな構成および仕様のDRAMの価格が著しく高騰しており、上昇率は400%から2,400%に及びます(図表1)。
これは大きな問題です。AIシステムは大容量の高速メモリに大きく依存しています。AIモデルは学習時と推論時のいずれにおいても、リアルタイムのトークン処理に必要な帯域幅の実現を、GPUに組み込まれた短期の高速メモリに依存しています。言い換えれば、AIシステムのパフォーマンスはますますメモリに制約されるようになってきています。
先端DRAMにおいては、容量の拡張には多額の資本を要し、技術的にも複雑であり、立ち上がりに時間を要します。需要が現在より減速したとしても、供給が完全に正常化するまでには数年を要する可能性があります。そのため、価格の高騰は市場としては合理的な反応であり、価格が低下する可能性は低いと考えられます。
AIのみにとどまらないメモリ価格高騰の影響
半導体は、スマートフォンや自動車から産業機械や家電製品に至るまで、ほぼすべての現代製品の中核を成しています。メモリ価格が大きく上昇し、高止まりが続くと、コスト圧力はクラウドやAIクラスターを構築するネオクラウド企業にとどまらず、より広範なエコシステムへと波及していきます。このボトルネックは川下にも影響を及ぼします。その影響は主に2つの形で現れます。
第1に、AI構築そのもののコストを押し上げます。これは、計画されているAI向け設備投資が大きく増加している一因となっています。どの産業においても、重要な構成要素の投入コストが上昇した場合、通常は期待リターンを調整するか、リターン達成までに要する期間を延長する必要があります。メモリ価格の高止まりは、実質的にAI投資の資本集約度を高めます。その結果、プロジェクトを正当化するために必要な投資に対するハードルレート(最低限必要とされる利回り)が上がる、あるいはフリー・キャッシュフローが投資家の期待水準に達する時期が一段と先送りされる可能性があります。コスト高が構造的に長期化する場合、現在の株価バリュエーションに織り込まれているリターン前提は楽観的すぎる可能性があります。それは機会が失われるからではなく、収益化までの道のりがより長く、より困難なものとなる可能性があるためです。
第2に、半導体の投入コストの上昇は、半導体に依存する最終市場、すなわち組立ライン、自動車、耐久消費財、ネットワーク機器などに対して、徐々に圧力となる可能性があります。チップを内蔵するあらゆる製品(例えばスマートフォン、自動車、さらには冷蔵庫にいたるまで)が、コスト上昇に直面する可能性があります。価格決定力で相殺されるケースもあるかもしれない一方で、そうでない場合には利益率が圧迫される可能性があり、その差異は重要になります。消費者にとって代替手段が乏しい製品では価格上昇は受け入れられやすい一方で、購入を先延ばしできる製品(耐久消費財など)や、低価格の代替品に置き換え可能な製品を扱う企業は、株価に織り込まれている利益水準を達成できない可能性があります。
資本サイクルの視点
これまでにも述べてきたとおり、足元で起きている状況は典型的な資本サイクルであると考えます。AIの構築・整備がコンピューティング需要を急拡大させており、そのコンピューティングにはメモリが必要です。しかし、メモリの供給は一朝一夕に調整できるものではありません。価格が上昇し、利益が拡大し、資本が流入して初めて供給が需要に追いつくのです。投資家にとっての論点は、こうしたサイクルが存在するか否かではなく、現在そのサイクルのどの段階にあるのか、そして、どの企業が恩恵を受け、一方でどの企業が投入コストの上昇を価格転嫁できずに利益を圧迫されるのか、という点です。
結論
このような環境においては、ファンダメンタルズに基づくボトムアップ分析が有効性を発揮する可能性が高いと考えます。なぜならば、インデックス運用では、希少な投入資源を支配する企業もそれを消費する企業も区別されません。また、価格決定力を有する企業と利幅の薄い企業も区別しなければ、借換コストが上昇し、資本集約度が高まり、コスト圧力が強まる局面でのバランスシートの強靭性も考慮されません。
これに対し、アクティブ運用では、供給へのアクセス、技術力、資本規律といった構造的優位性を持つ企業に資本を配分しつつ、投入コストの高騰に対して利益が脆弱な企業を回避することが可能です。
市場が世界の変化を織り込み始める中、こうした関係性を理解し、それに応じてポートフォリオを構築することが極めて重要になると我々は考えます。
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