減税と投資の促進:米税制改正法の概要
7月4日、トランプ米大統領は前日に議会を通過した税制改正法案(One Big Beautiful Bill Act、OBBBA)に署名し、同法が成立しました。米議会予算局の推計によると、現行の2017年税制改正法(TCJA)が延長されずに予定通り2025年末に失効した場合、OBBBAにより米国の国家債務は今後10年間で約3.3兆米ドル増加します。また、現行の政策と比較すると、今後10年間で約5,080億米ドルの赤字を削減すると推計されています。OBBBAが財政へ及ぼす長期的な影響について議論することも可能ですが、1つ明らかなことは、この法が成立しても国家債務の持続不可能な軌道はほとんど変わっておらず、むしろ若干悪化させる可能性があるということです。したがって、米国国債のタームプレミアム、すなわち投資家が長期債を保有するにあたり短期債に上乗せして求める利回りには、期間が長くなるにつれ上昇圧力がかかる可能性があります。この法は、2025年と2026年は緩やかな財政刺激効果を及ぼしますが、その後は制限的になると見られます。
投資家の関心が高いと思われる主な規定は以下の通りです:
法人税
- 法定法人税率は21%で変わらないものの、新法では国内の製造設備や施設、ソフトウェアに対する資本支出について、4年間にわたり100%のボーナス減価償却が認められます。この措置は2025年年初に遡及して発効します。
- この減価償却では、研究開発費の即時償却が恒久的に認められます。アナリストの推計によると、この規定により実効法人税率は約12%から14%まで低下します。
- 歴史的に、実効法人税率の引き下げは資本支出の増加につながっており、将来の収益性向上と生産性の強化の素地が整います。生産性の向上は一般的に、経済成長の加速につながります。
投資家はまだ費用計上規定による収益への潜在的な追い風を十分に評価していない可能性があります。
減税措置の延長と対象拡大
- OBBBAは、2017年TCJAで最初に施行された限界税率の引き下げを恒久化します。
- 児童税額控除を2,200米ドルに引き上げ、また高齢者の社会保障給付に対する所得税の影響を緩和するために高齢者を対象に6,000米ドルの控除を導入しています。この控除は2028年までの時限措置です。
- また、一定の所得基準以下の労働者に対して、最大25,000米ドルのチップと最大12,500米ドルの時間外労働収入が課税対象から除外されます。
- 2028年までの時限措置として、標準控除額は単独申告者で15,750米ドル、共同申告者で31,500米ドルに引き上げられました。
- 修正調整済み総所得が200,000米ドルの共同申告者の場合、米国で組み立てられた自動車のローンの利息について、年間最大10,000米ドルまでの控除が認められます。この控除は2028年末までの時限措置です。
OBBBAはTCJAの減税を恒久化し、さらに対象を拡大します。
州税および地方税(SALT)控除
- 州税および地方税(SALT)の控除可能額は、1世紀以上前から税法に盛り込まれており、項目別控除 を行う納税者は、特定の州税および地方税を連邦課税所得から控除することができます。OBBBAでは控除可能額の上限を10,000米ドルから40,000米ドルに引き上げます。
- 共同申告者の場合、税控除額は所得500,000米ドルから段階的に減額され、600,000米ドル超で完全に廃止されます。また、インフレを考慮して、所得制限が毎年1%調整されます。将来の議会で延長されない限り、SALT控除は5年間で期限を迎えます。
- SALT改革は、カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーなど、主に高税率州の住民に影響します。
SALT控除の増額は州政府や地方政府からすでに課税済みの所得に対する二重課税を制限することを目的としています。
債務上限の引き上げ
- OBBBAは米国の債務上限を5兆米ドル引き上げます。債務残高は早ければ8月にも債務上限に達する見込みでした。
- 債務上限の引き上げにより、政府機関の閉鎖の可能性が回避され、また過去の同様の局面で見られたような、米国をデフォルトの瀬戸際に追い込み得る政治的対立も回避されます。債務上限の引き上げにより本法の財源が創出されますが、短期的に財政赤字を拡大させる可能性があります。
国家債務はハーバート・フーバー大統領(任期1929~33年)以降すべての政権下で増加し続けています。
赤字抑制のための相殺措置
- OBBBAにおける支出に対する主な相殺措置として、補助的栄養支援プログラム(SNAP)の資金削減と、医療保険制度改革法(ACA)のマーケットプレイスにおけるメディケイド(低所得者向けの公的医療保険)の受給資格および保障範囲の変更が行われます。また、電気自動車に対する税額控除を撤廃または改革するほか、インフレ抑制法の他の条項も撤廃または改革します。
- 風力および太陽光発電は、2027年末までに稼働を開始した場合のみ、税額控除の対象となります。
- SNAP資金の削減は、連邦政府の拠出を削減し、受給者の就労要件を拡大し、州の負担費用を引き上げることで行われます。
- メディケイドには、19歳から64歳までの健常成人に対する就労要件が盛り込まれ、連邦政府が州に支払う補助金が引き下げられ、さらに不法移民にACAの保険を提供する州に対する罰則が含まれています。
19歳から64歳のメディケイド受給者の約64%がすでに就労しており、うち44%がフルタイムで就労しています。
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