米国課税地方債:利回り上昇でディフェンシブ資産にまたとない投資機会が到来
執筆者
Jason Kosty
ポートフォリオ・マネジャー
Megan Poplowski
ポートフォリオ・マネジャー
Michael Adams
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
概要
- 米国課税地方債は世界的な需要に後押しされ、2019年から2021年にかけて発行額が急増しました1。
- 発行増加に伴い同資産クラスは厚みを増し、高い質(信用力)、低いデフォルト率、幅広い年限といった固有の戦略的特性に魅力を感じる機関投資家からの関心を集めました。
- その後、発行額は長期平均に回帰しましたが、利回りは指数設定以来ほとんど経験したことがない水準まで上昇しました。最近では、市場のボラティリティも極端に高まり、米国地方債のように質が高く分散効果を持つ資産の必要性が高まっています。
- 重要なポイント:現在の相対的に魅力的な利回りの獲得とボラティリティの軽減を目指すのであれば、持続的な戦略的利益を実現するソリューションとして米国課税地方債への投資を検討する時期かもしれません。その上で、最適なエクスポージャーを実現するためには、指数の組入基準によって投資可能銘柄が制約される指数連動型の運用ではなく、柔軟性の高いアクティブ運用は検討に値すると考えます。
変化する投資環境
今年、米国では一部をターゲットとする連邦予算の削減や税制改正が見込まれているため、歴史的に投資対象資産の中で相対的に安全とされてきた資産クラスである米国地方債への注目が高まっています。現時点で、最終的に税制改正法案が成立するかは不明ですが、連邦予算の削減や米国地方債の利子所得に対する免税措置の廃止が現実のものとなれば、米国課税地方債市場では発行増加に拍車がかかる可能性があります。このように発行増加の見通しと現在の利回り上昇を背景に、投資家の皆様にとっては同資産クラスへの投資を検討するまたとない機会が訪れていると考えます。同時に、高い質、幅広い年限、歴史的に低いデフォルト率といった構造的な特性も長期的な戦略的配分の支えとなる可能性があるとみられます。
米国課税地方債の発行増加の可能性
米国課税地方債の発行額は、連邦政府によるインフラ投資刺激策や税制改正の影響でここ数年ばらつきがありました。例えば、世界金融危機発生後の2009年-2010年には、連邦政府が「ビルド・アメリカ債」プログラムを通じて支払い利息の一部を補助したことで、インフラ投資が促されました。また、2017年に成立した米国税制改革法(TCJA)によって、米国非課税地方債の繰上償還を行う目的で新たに米国非課税地方債を発行することが認められなくなったため、同目的のために米国課税地方債が使用されるようになりました。こうした政府の取り組みによって、 2009年の発行額および2018年から2020年にかけての発行増加額は、米国課税地方債の年間発行額のベースラインとなる約400億米ドルの3~4倍に膨らみました。TCJAによる変更は現在も有効ですが、ここ数年の利回り上昇で米国非課税地方債の繰上償還は経済合理的ではないことから、米国課税地方債の発行は減少しています。しかし、利回りが低下すれば、米国課税地方債を新規発行して非課税地方債を繰上償還するメリットが高まるため、こうした動きが復活すると思われます。2025年、減税措置延長の財源を模索していたトランプ政権は、4兆米ドル規模の米国地方債市場における非課税という優遇措置に目を付けました。同市場全体で非課税措置が全面的に廃止される可能性は低いと予想されていますが、市場の一部を対象に廃止するというアプローチは広く受け入れられるかもしれません。例えば、空港、病院、私立大学などの民間機関が適格なインフラ・プロジェクトのために発行する民間活動債(PAB)の非課税措置は廃止が検討される可能性があります。PABは2024年に発行された米国非課税地方債の23%(1,170億米ドル)を占め2、同年の米国課税地方債の発行額(420億米ドル)を大きく上回っています。
米国課税地方債は大半の債券セクターと比較して依然として相対的に小規模ですが、発行額が増加すれば、資産クラスとしての厚みが増すと考えます3。米国課税地方債の通常の年間発行額は400億米ドル程度にとどまっていますが、質の高い債券に対する投資意欲は世界的に旺盛なことから、発行額が増えれば、かつて新規発行の波が押し寄せたときのように、機関投資家にとって米国課税地方債へのエクスポージャーを拡大する好機になるとみられます。
強力な戦略的・戦術的根拠
戦略的な根拠
米国課税地方債には、様々な機関投資家にとって魅力的な特性があります。例えば、保険会社は資産の質を重視し、格下げリスクの低さとインカムを優先します。その上で、生命保険会社はデュレーションが長めの債券を、損害保険会社は短めの債券を中心にそれぞれ投資しています。年金基金は、特定のデュレーションを目標としてボラティリティとデフォルト・リスクを抑制しながら、割引率を上回る運用利回りを求める傾向があります。現在、債券への配分で米国社債を利用している一部の投資家にとって、相対的に質が高く、デフォルト率が低い上に、利回りが高い米国課税地方債は、社債のエクスポージャーを補完または代替できる可能性があります。図表2に示したとおり、米国課税地方債の現在の利回りは歴史的な高水準にあり、同資産クラスへの魅力的な戦略的エントリー・ポイントが訪れていると思われます。
この市場が持つこれらの構造的特性は、歴史的に高い利回りといったいくつかの短期的要因も相まって、投資家が米国課税地方債に関心を持つべき説得力のある根拠になっていると考えます。下の図表3は、機関投資家がこの資産クラスへの投資を検討すべき戦略的および戦術的な根拠について、我々の見解をまとめたものです。
図表3:戦略的および戦術的な根拠
戦略的な根拠 | 戦術的な根拠 |
|
|
|
|
|
|
出所:Bloomberg、Moodyʼs、 MSCI。米国課税地方債指数のデータは Bloomberg Taxable Municipal Index に基づきます。米国社債指数のデータは Bloomberg US Corporate Index に基づきます。デフォルト率のデータは、Moody's のパブリック・ファイナンス・レポート「US Municipal Bonds Defaults and Recoveryies」より取得したものです。1970年12月31日~2023年12月31日までの年次データ。グローバル株式の下落は、MSCI World indexと Bloomberg US Corporate index および Bloomberg US Taxable Municipal index の相対リターンを比較したものです。 |
アクティブ運用で構造的な魅力がさらに増す可能性も
指数はルールに基づいて構築されていますが、米国地方債は発行規模が比較的小さく、銘柄数が非常に多いため、エクスポージャーを構築する際には独自の検討が必要になります。
指数とは、対象とする市場のセグメントを体系的かつ透明性をもって表したものです。米国課税地方債を代表するものとして同資産クラスの指数が使用されることがありますが、米国課税地方債ユニバースの幅の広さを反映して効率的なエクスポージャーを構築するためには、指数だけでは不十分です。米国課税地方債には75,000を超える銘柄があり、同資産クラスの幅の広さは他の債券セクターにはないユニークな特性です。しかし、他の指数と同様に米国課税地方債指数にも様々な組入基準が適用されています。最も影響力が大きいのは銘柄の発行規模の基準で、当初発行額が7,500万米ドル以上で、発行残高(額面)が700万米ドル以上という条件を満たす必要があります。これらの基準を満たしていない銘柄は、指数の対象外となります。そのため、発行済み米国課税地方債の実に88%に相当する66,000以上の銘柄が指数に含まれていません。指数に含まれていない銘柄が投資戦略から除外されている限り、スプレッドや分散効果などを追求する最適なポートフォリオの構築は制約を受け続けることになります。
指数の組入基準を満たしていない銘柄は発行規模こそ小さいものの、それ以外は指数の構成銘柄と同水準の信用力、低いデフォルト率、分散効果といった特性を概ね備えているという点を理解しておくことが重要です。そうすることで、指数に含まれない銘柄への大きな投資機会にアクセスできると我々は考えています。コア・プラス戦略といった他の債券戦略では、追加の利回りを求めて、コア債券指数に含まれない信用力の低い銘柄に投資するのが一般的です。しかし、米国課税地方債を活用すれば、指数には含まれていないものの、指数の構成銘柄と同程度の信用力を維持している銘柄によって利回り向上を図ることができます。指数に含まれない銘柄は流動性がやや低い場合もありますが、一般的に流動性が低い銘柄にはイールド・プレミアムが上乗せされており、またこうした銘柄への投資の前提条件である長期保有は、機関投資家の投資期間とかなり一致しています。
米国課税地方債指数は幅広い同債券のユニバースを代表するには不十分で非効率的であると考えます。しかし、柔軟性の高いアクティブ運用を採用することで、上述した同資産クラスのメリットを享受しつつ、潜在的なリターンと利回り獲得の最大化につながる可能性があります。
結論
米国課税地方債は相対的に質が高く、デフォルト率が低く、かつ幅広い年限を有していることから、同資産クラスを資産配分に組み入れて戦略的に保有すべき説得力のある根拠があると考えます。現在、利回りは歴史的高水準にあり、ボラティリティ抑制効果が高いことも歴史的に証明されているため、同資産クラスの採用を検討する動きがかつてないほど高まっているようです。米国非課税地方債による資金調達へのアクセスが制限されれば、米国課税地方債の発行が促進され、投資機会がますます拡大する可能性があります。米国課税地方債への配分を開始するにあたっては、同債券ユニバースの大部分が指数に含まれていないため、米国課税地方債のメリットを最大限に享受することを目指す柔軟性の高いアクティブ運用は検討に値すると考えます。
巻末脚注
1 2016年から2018年と比べた2019年から2021年の3年平均発行額が227%増加。
2 Bloomberg MSRC。PABの発行額は、PABの基準と適格要件に基づいてMSRCシステム内のすべての地方債をスクリーニングしてフィルタリングすることによって概算。PAB=民間活動債。
3 2025年4月28日現在、 Bloomberg US Corporate Index の発行残高が7兆米ドルに上っているのに対し、 Bloomberg Taxable Municipal Index の発行残高は3,770億米ドル。
当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
分散投資は利益を保証するものでも、損失を防ぐものでもありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。