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Strategist's Corner
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テクノロジーの進化と金融サイクル:AIが果たす役割

本稿では、金融サイクルの展開と過熱への発展、および足元のAI投資ブームを理解するための枠組みについてご説明します。

執筆者

Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト

  • 新たなテクノロジーの多くは、社会に大きな変革をもたらします。しかし、その経済的価値はいずれ生産者から消費者へと移行し、その結果、利益率は平均以下に低下します。
  • 変革的テクノロジーの普及は、競争によって利益率が低下するという予見可能なサイクルを辿る傾向があります。
  • コモディティ化が進んだ事業は避け、追随しがたい優位性を有する企業に投資を行うことが、将来のアウトパフォーマンスを実現する鍵となりうると考えます。

金融サイクルはひとつとして同じではないものの、過去の類型には一貫して見られる共通の力学があります。汎用技術(GPT:General­Purpose Technologies)のような、経済全体に影響を及ぼしうる画期的なテクノロジーは、普及率がピークに達すると、その経済的価値が生産者から消費者へと移行する傾向があるというものです。この傾向を考察すると、金融サイクルの進展と過熱について重要な洞察が得られ、今日のAI投資ブームを理解するための枠組みを得ることができます。 

GPTのパラドックス

最近出張で訪れた中東からの帰りのフライトは14時間と長い時間がかかりましたが、1世紀前であればこの移動に14週間を要していたことでしょう。航空産業は移動時間を短縮し、商品の配送スピードと量を加速させ、人と人とのつながりをも拡大させることで、グローバル経済の統合を効果的に促進しています。その観点から見れば、航空というGPTが社会に大きな恩恵をもたらしたことに異論を唱える人はほとんどいないでしょう。しかし、航空産業の利益率は経済サイクルを通じて平均を下回る状況が続いています。 

こうした傾向は過去のGPTにも見られます。航空と同様、自動車も人や物資の移動速度を加速させますが、自動車産業の利益率も市場平均を下回っています。同様のパターンはその後ラジオやテレビでも繰り返されました。また1980年代後半にはオフィスでパソコンが急速に普及し生産性が大幅に向上しましたが、今日、PCメーカー(特に携帯端末に注力していない企業)の資本収益率は多くの場合、市場平均を下回っています。

このことから、次のような予測可能なサイクルが生まれます。

  1. 広範な需要を持つ新技術は供給が制約されるため、期待収益が高くなる。
  2. 高リターンへの期待が起業家や資本を呼び込み、その結果製品供給が増加し、株価が上昇する。
  3. 普及率が高まる一方で、過度な競争と過剰供給が需要を上回り、産業の利益率が希薄化する。
  4. 高騰した資産価格は暴落し、業界が再編される。 
  5. 経済と金融市場の投資ブームへの依存度により、その後の景気後退および市場下落の深刻度が左右される。

このパラドックス(逆説)の原因は、技術そのものの衰退ではありません。実際、製品は進化し続けています。コンピュータはより高速かつ高性能となり、テレビはより薄型化し画質も向上しています。自動車は燃費が向上し耐久年数も長くなり、航空機は飛行時間も短縮されています。これこそがGPTのパラドックスの本質です。技術の普及とその生産者や株主にとっての商業的価値は、逆相関の関係にあるのです。

資本主義や自由市場の強い力を適切に考慮せずに起業や投資を行うと、その結果として、この逆相関が経済や金融市場に過熱や調整を引き起こします。科学の進歩への畏敬の念に捉われ、商業的価値が生産者から社会へ移転するのを見落とした投資家は、しばしば経済と金融市場から痛みを伴う教訓を得ることになります。

AIと今回のサイクルについて考える上でどのように役立つのか

アルゴリズムとは、過去に基づいて未来を予測するフィードバックループです。そのアルゴリズムによって、AIは人間の能力をはるかに超える計算能力を備えた強力な予測マシンとして機能します。これは人間工学の驚異的な成果であり、日々進化し続けています。

しかしながら、過去のGPTと同様に、この現実には二面性があります。もし利益率の見通しが市場の熱狂が示唆するほどに高いとしたら、今年初めにDeepSeekが公開されたときに見られたように、AIの大量供給によって過去を繰り返す可能性があるのではないでしょうか。

同時に、AIモデルが学習に使用できるデータの多くはすでに使われているものです。これは、資本集約型のAIモデルに新たな競争相手が現れるだけでなく、すべてがウェブという同じデータベースから情報を収集しているがために、既存モデルとの差別化や競争優位性を確保することがますます困難かつ高コストになることを意味します。差別化要素が少ないほど、その製品の価格決定力と商業的価値は低下します。 

図表1はS&P 500とMSCI EAFEの利益率の推移を示したものです。長期にわたる人為的な低金利政策、コスト抑制、およびグローバル化による事業売却の後、2010年代に利益率の過熱が始まったことを示しています。AIが他のGPTと同様に競争激化とコモディティ化の道をたどれば、AI関連の設備投資は減速し、その影響が経済にも波及すると見込まれます。これは現在AI人気の水面下に隠れている利益率の脆弱性を露呈させる可能性があります。

結論

他のテクノロジーを評価する場合と同様、AIの商業的側面を評価するのに、必ずしもコーディングやプログラミングの知識は必要ではないと考えます。その代わり、熟練した投資家は、AIの将来的な需要を、資本サイクルによって生み出される供給との対比で評価する必要があります。需給こそが最終的に利益率や株価パフォーマンスを決定するからです。

長期的なアセットアロケーションを検討する投資家にとって、投資機会は、AIとの直接的または間接的な関連の有無に関わらず、高いコモディティ化リスクに晒されている企業を回避することにあると考えます。代わりに、他に追随できない優位性を持つ事業に投資することが賢明で、その中には特定のハイパースケーラーのようなAI普及を支える企業なども含まれます。我々は、追随困難なドメイン専門知識を有する垂直型ソフトウェア(特定の業種に特化したソフトウェア)企業に投資機会を見出している一方、特定の水平型ソフトウェア分野(会計や顧客管理ベンダーのように幅広い業種向けアプリケーションを提供する企業)については、企業がAIを導入する中で市場シェアの課題に直面するおそれがあるため警戒しています。

しかし、コモディティ化や利益率の低下は、テクノロジー以外にも広がっています。AIは多様な消費者ににわかに自律性をもたらし、多額の広告費用によって築かれたブランド力だけを売りにしていた凡庸製品の利益優位性を消失させます。平均的な製品やサービスを提供する企業は、競争が激化する中で従来のリターンを達成することは難しく、遅れに遅れたイノベーションを実現するために広告予算を削らざるを得なくなるでしょう。図表1に示されているような高水準の利益率は、多くの企業にとって持続困難と考えられます。

総じて、市場の進化と変動が予測される将来において市場を上回るリターンを獲得するには、選別眼が鍵となると考えます。また、この選別眼が、アクティブ運用とパッシブ運用間のパフォーマンスの差別化という新たなパラダイムをもたらすと考えます。

 

 

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

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