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Market Insights

債券市場の主要テーマ-2025年下半期

本稿では、2025年後半の債券投資において考慮すべき5つのテーマについてご説明します。

執筆者
マーケット・インサイト・チーム

 

  • 概要

    概要

    グローバル市場は年初来、マクロ経済が不安定となる中、政策の不確実性の高まりを受けて、先の読みにくい状況が続いています。このような状況下、多くの中央銀行がより慎重なアプローチを採用していることから、デュレーションのロング・ポジションに強い確信を持つことが難しくなっています(テーマ1)。しかし、米国債利回りに織り込まれているリスク・プレミアムが上昇しているため、クレジット・スプレッドは見かけほど縮小していないとみられることなどから、社債は今後も良好なパフォーマンスを示すと考えます(テーマ2)。株式市場は好材料がすべて織り込まれているとみられ反落するリスクを抱える一方、株式と債券の相関が引き続き正常化し低下すると見込まれることから、債券は、リスク回避型の資産クラスとしての魅力を取り戻しつつあります(テーマ3)。米国例外主義が後退する中、グローバルな分散投資が非常に重要になっています。現地通貨建てエマージング債券はこの新たな市場テーマに最も適していると考えます。米ドルへの圧力が高まっていることもあって(テーマ4)、この資産クラスにとって好条件が揃っているとみられます。最後に、プライベート・デットの人気はもはや言うまでもないですが、この資産クラスは逆風に直面する可能性があります。より広範な戦略的資産配分においてプライベート・デットへの配分は依然として理にかなっていますが、予期される問題を考えると、グローバル投資家はエクスポージャーを適切な規模に調整することを検討する必要があるものと考えます(テーマ5)。

    厳しい市場環境の中で、債券は依然として優れた投資対象ですが、グローバルな分散投資がこれまでになく重要になっています。


  • デュレーションの一時休止

    多くの市場において、デュレーションは中立なポジションが適切であるとみられます。大きなマクロ・ショックがない中で、デュレーションのロング・ポジションに確信を持つことが多くの市場で難しくなっています。これは、ほとんどの中央銀行のアプローチがより慎重になっている一方で、財政リスクの高まりにより多くの国で長期金利の上昇圧力が強まっているためです。現在、米連邦準備制度理事会(FRB)は関税がマクロ経済に及ぼす影響をより明確に把握できるようになるまで様子見の構えです。金利市場は今後12カ月の間にFRBによる一定程度の利下げがあることを織り込んでいますが、FRBが市場の予想を上回る利下げを実施する状況にはありません。一方、欧州では、マクロ経済見通しが大幅に改善し、大規模な財政刺激策も実施されることから、欧州中央銀行(ECB)は緩和サイクルを終えようとしています。そのため、ユーロ圏ではデュレーションのロング・ポジションに有利に働く要因が大幅に弱まっています。

    今後、何に注目すべきでしょうか。マクロ経済の不確実性が高い状況が当面続くとみられることから、金利見通しに対する高い確信を持つことは困難な状況です。世界の経済成長の面では、下振れリスクの主な要因として関税の影響、消費者や企業の信頼感の悪化、世界貿易の混乱などが挙げられます。米国では、移民規制の影響も考慮する必要があるとみられます。関税がインフレを引き起こす可能性がありますが、今後は成長リスクが注目されるとみています。したがって、デュレーションについてより明確な見通しを立てるためには、成長見通しの具体的な悪化と、その後の中央銀行による緩和的なシグナルを確認することが必要です。各国のマクロ経済動向を踏まえると、英国とオーストラリアは、デュレーションのロング・ポジションがより適している国であると考えます。一方、財政規律が戻ってくれば多くの国で長期金利に対する需要につながるとみられますが、現時点ではこのシナリオは予想していません。

      検討事項

    • マクロ経済の不確実性が高い状況では、デュレーション・エクスポージャーを慎重に管理
    • リターンの主な源泉として魅力的なキャリーを確保
    • 超過収益の主なドライバーとして銘柄選択に注力

     


  • クレジット・スプレッドの測定に誤り?

    米国債利回りは依然としてリスクフリー金利と考えて良いのでしょうか。米国債はかつて究極の安全資産とみなされていました。しかし、最近の市場の動きをみると、「解放の日」以降、米国が政策の不確実性の主要な源となっているため、米国債のディフェンシブな性質が損なわれていることを示しています。政策枠組みの信頼性が世界の投資家から疑問視されているとさえ言えます。その過程で、主として財政リスク・プレミアムの上昇と、より一般的には米国ソブリン・クレジットの格付けの低下によって米国長期債利回りが急激に上昇しました。市場が織り込む財政リスク・プレミアムは2011年以来の高水準となっています。

    米国債利回りからクレジット・スプレッドへ。米国債利回りをもはやリスクフリー・レートとみなすことができないとすれば、米国債利回りに対するクレジット・スプレッドを測定することは適切なのでしょうか。社債のスプレッドの測定が誤っていたとしたらどうなるでしょうか。さらに重要な点として、投資家が考えていたよりも社債のスプレッドがはるかに魅力的だったとしたらどうでしょう。試験的ではありますが、マーケット・インサイト・チームが、米国債に組み込まれたソブリン・クレジットリスクの上昇を考慮して調整した後のクレジット・スプレッドを計算しました。この計算では、調整後クレジット・スプレッドは社債利回りと調整後米国債利回りの差として推定されます。なお、後者は時間の経過に伴うソブリン・リスクの変化を調整したものです。結果は示唆に富んでいます。米国投資適格社債の調整後社債スプレッドは現在140ベーシスポイント(bps)と推定され、10年間で下から60%の水準にあります1。言い換えれば、ソブリン・リスクの内在的な悪化を考慮するならば、投資適格社債のクレジット・スプレッドは調整前スプレッドの絶対水準が示唆するよりも魅力的である可能性があります。

      検討事項

    • タイトなスプレッド水準を、投資適格社債のエクスポージャーを制限すべき要因として捉えない

    • 財政リスクが高い国ではソブリン債よりも投資適格社債へのエクスポージャーを選好

     


  • 継続する債券と株式の相関の正常化

    債券と株式の相関のピークはとうに過ぎています。債券と株式の相関がしばらく前にピークに達した理由は、過去数年間支配的だった2つの強力なマクロ経済レジームによって説明することができます。中央銀行が政策金利を積極的に引き上げ、グローバルの債券市場と株式市場に大混乱を引き起こした、いわゆる「FRBの引き締め懸念」レジームからすべてが始まりました。FRBが金融緩和に転じた2023年12月まで続いたこの期間中に、債券と株式の相関は急上昇しました。その後に続いた「ゴルディロックス」レジームでは、中央銀行がハト派姿勢に転じ、投資家の投資意欲が急回復したため、今度は債券市場と株式市場がともに上昇し、両資産間の相関はピークに達しました。しかし、新しいマクロ・レジームは全く異なります。このレジームの特徴は重大なグローバル・リスク、政策の不確実性の高まり、ボラティリティの高いマクロ経済です。新しいレジームの下で、債券と株式の相関が低下しそうな初期の兆候が見られます。

    債券はポートフォリオの分散に適した資産としての地位を取り戻そうとしています。今後、より複雑なマクロ経済および市場環境の下で、債券は魅力的なディフェンシブ特性を提供する資産になると考えています。これは、資産間の相関のさらなる正常化によって促される可能性が高いと考えられます。もう1つ重要な点は、この相関が将来どちらに向かうかにかかわらず、ボラティリティを管理する上で効果的な資産クラスとして債券が機能し得るということです。債券のパフォーマンスが金利低下やスプレッドの縮小によって左右される可能性は低いですが、過去最高水準にあるキャリーは堅調な期待リターンにつながる可能性があります。一方、株式市場はここ数カ月間特に堅調に推移していますが、マルチプルの拡大が足元のリターンの主因であることなどから、好材料をすべて織り込んでしまったのではないかという懸念が高まっています。金利上昇は債券投資を拡大する上で常に懸念材料となる一方、緩和的金融政策と魅力的なキャリー・レートという現在の世界経済環境により金利のボラティリティは相殺、緩和されると考えます。こうした状況を背景に、債券は株式リスクのヘッジとして機能するとみられます。

      検討事項

    • 債券を魅力的なリスク回避型資産クラスとして選好
    • リスク管理の方法として資産クラスや地域の分散投資に注目

     


  • 現地通貨建てエマージング債券にとって好条件が揃う

    2つの重要な属性:グローバルな分散投資と通貨エクスポージャー-2025年初来の経験から学んだ重要な教訓の1つは、グローバルな分散投資の重要性です。世界の投資家は米国例外主義により、米国へのアロケーションが過大となっていた可能性があります。しかし、米国が貿易戦争を引き起こしたことにより、この見方には大きな疑問符が付きました。もう1つの大きな動きは、米ドル高サイクルの終焉です。この動きは世界的な米国からの資金流出も要因の一つとなっています。こうした状況下、現地通貨建てエマージング債券がこれら2つの市場動向において優位となる可能性があると考えています。現地通貨建てエマージング債券への投資は構造上、十分な国別分散投資が可能となります。主要な参照指数であるJ.P. Morgan GBI EM Diversifiedはアジア、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、中南米の19カ国を含んでいます。さらに重要な点として、この資産クラスにとってグローバルなマクロ経済環境が依然として重要である一方、中央銀行の金融政策や国内インフレなどの各国のマクロ要因がその国の市場動向に大きな影響を及ぼす傾向があります。一方、通貨エクスポージャーの面では、現地通貨建てエマージング債券の重要な特徴の1つは、当然のことながら、債券に内在するエマージング諸国の通貨リスクです。これは、現地通貨建てエマージング債券に対して非常に慎重になるべき時期があることを意味します。しかし、現在のような米ドル安の場合は、現地通貨建てエマージング債券にとって好条件が整っている可能性がみられます。

    現地通貨建てエマージング債券の魅力-MFSは、魅力的な実質利回りを期待できるのは現地通貨建てエマージング債券であると考えています。エマージング債券市場の実質利回りは5月末時点で3%を上回っています。これは先進国債券市場の実質利回り(米国債利回り2/3と独国債利回り1/3を組み合わせた参考バスケットに基づく)の2倍以上です。利回りが魅力的なだけでなく、エマージング諸国の今後の利下げ余地を考えると、利回りが低下する可能性も高いと考えます。実際、現時点ではアジアはそれほどでもありませんが、中南米から中欧に至るまで多くのエマージング諸国の中央銀行は金融緩和姿勢を確固として維持し、自国のファンダメンタルズを支えています。全体として、現地通貨建てエマージング債券のリターンを構成する3つの要素、すなわち、魅力的な利回り、金利の低下、米ドル安シナリオの下での自国通貨高はいずれも、この資産クラスが魅力的なリターンを生み出し続ける方向に向かっているとみられます。ただし、米ドル高方向への転換や、エマージング諸国通貨の上昇を妨げるような経済成長ショックには警戒する必要があると考えます。

      検討事項

    • 現地通貨建てエマージング債券へのアロケーションの拡大を検討

    • グローバルな分散投資による潜在的メリットとそれによる魅力的な利回りの活用

     


  • プライベート・デットへの逆風

    広範な戦略的資産配分においてプライベート・デットへのアロケーションは理にかなっています。今ではプライベート・デットの利点はよく知られています。プライベート・デットは分散投資のメリットを提供し、伝統的な債券投資よりも魅力的な利回りを生み出す傾向にある一方で、ボラティリティは低く抑えられています。ただし、低いボラティリティはリアルタイムの時価評価をしていないためで、実際にはより高いリスクが隠されている可能性があるとも言えます。プライベート・デットにはダイレクトレンディング、メザニン・ファイナンス、不動産デット、ディストレストデットなどの専門的な融資戦略があり、これらの戦略は、多くの場合、カスタマイズされており、特定のリスク・リターン目標に合わせて条件が調整されます。また、プライベート・デットは変動金利取引の比率が高いため、効果的なインフレヘッジと捉えることもできるかもしれません。プライベート・デットは、世界金融危機後に資産クラスとして本格的に広がり始めました。それ以来、飛躍的に拡大し、運用資産残高は推定約1兆2,000億米ドルに達しています2

    この資産クラスは、最近の拡大によりさらに飽和状態になっています。これには、相互に関連する2つの要因があります。第1に、プライベートレンディングの機会を見出す競争が激化しているため、資金の投入が難しくなっています。これにより、待機資金が増加しているだけでなく、今後、資産クラスの期待リターンが低下する可能性もあります。非流動性プレミアムは依然として存在し獲得できますが、以前よりもかなり縮小しているとみられます。MSCI Private Capital Universeによると、プライベート・クレジットのクローズドエンド型ファンドは2024年に年率6.9%のリターンを記録しましたが、昨年のUS high yieldi ndexのリターンを約130bps下回りました3

    最近注目が集まっている流動性リスクも、プライベート・デットの今後の課題となる可能性が高いとみられます。プライベート・デットは、従来の方法を通じて取引することができず、従来の債券投資よりも透明性がはるかに低いことを踏まえると、伝統的な債券よりも流動性がかなり低いと言えます。2022年の英国の年金危機と2023年3月の欧米の銀行不安は、健全な流動性リスク管理が運用プロセスの重要な柱であることを如実に示す事例となりました。そのため、流動性管理は現在、グローバル投資家の最重要課題となっています。極端な市場環境下では、ポートフォリオの流動性を犠牲にするコストは非常に高くつく可能性があります。この点を念頭に置くと、特に流動性ニーズが高い投資家にとっては、プライベート・デットのオーバーウェイトを正当化することは難しいとみられます。対照的に、伝統的な債券への投資は、ポートフォリオの流動性を十分に維持するという点で、はるかに優れた選択肢であると考えます。

      検討事項

    • プライベート・クレジットへの資産配分の適切な規模を検討
    • 伝統的な債券を含め、プライベート・クレジットに代わる魅力的な金融商品を検討

     


    当レポート内で提示された見解は、MFSディストリビューション・ユニット傘下のMFSストラテジー・アンド・インサイト・グループのものであり、MFSのポートフォリオ・マネジャーおよびリサーチ・アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFSの代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。

    1 出所:Bloomberg、MFS。Bloomberg US IG credit index。スプレッド = オプション調整後スプレッド。調整後スプレッドは、信用リスクの変化を調整するため、金利のターム・プレミアムを差し引いて推定されます。2025年5月30日現在のデータ。
    2 出所:BISの執筆者の計算、Pitchbook。2024年12月31日現在のデータ。
    3 出所:Bloomberg、MSCI。2024年12月31日現在の年間データ。プライベート・キャピタル = MSCI Private Capital Universe。米国ハイイールド債 = Bloomberg US High Yield Index。

    出所:Bloomberg Index Services Limited. BLOOMBERG® は、Bloomberg Finance L.P.およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。Bloomberg またはBloombergのライセンサーは、Bloomberg Indexのすべての所有権を有します。Bloombergは、本資料を承認もしくは保証するものではなく、本資料に記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、本資料から得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。

    インデックスデータ出所:MSCI。MSCIは、当レポートに含まれるMSCIデータに関して、明示または非明示を問わずいかなる保証も行っておらず、責任を一切負わないものとします。MSCIデータは、他の指数や有価証券、金融商品のために再利用することは出来ません。当レポートはMSCIによって承認、審査または作成されたものではありません。

    当レポートは一般的な情報提供のみを目的としたものであり、特定の投資目的、財務状況、特定の個人のニーズを考慮したものではありません。当レポートはMFSの投資商品またはサービスの販売促進や助言を行うものではありません。当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言として依拠するべきではありません。過去の運用実績や予測、予想、見込みは将来の運用成果を示唆するものではありません。当レポートに含まれる情報は、MFSによる明示的な同意なしに複写、複製、再配布することはできません。MFSは、発行日現在における情報の正確性を確保するために合理的な注意を払っていますが、明示または黙示を問わず、いかなる保証または表明も行わず、いかなる誤謬または脱落についても責任を負わないことを明示します。情報は予告なく変更される場合があります。MFSは、当レポートの使用または当レポートへの依拠から生じるいかなる損失、間接的損害、派生的損害についても責任を負いません。

    ご利用にあたっての注意事項

概要

グローバル市場は年初来、マクロ経済が不安定となる中、政策の不確実性の高まりを受けて、先の読みにくい状況が続いています。このような状況下、多くの中央銀行がより慎重なアプローチを採用していることから、デュレーションのロング・ポジションに強い確信を持つことが難しくなっています(テーマ1)。しかし、米国債利回りに織り込まれているリスク・プレミアムが上昇しているため、クレジット・スプレッドは見かけほど縮小していないとみられることなどから、社債は今後も良好なパフォーマンスを示すと考えます(テーマ2)。株式市場は好材料がすべて織り込まれているとみられ反落するリスクを抱える一方、株式と債券の相関が引き続き正常化し低下すると見込まれることから、債券は、リスク回避型の資産クラスとしての魅力を取り戻しつつあります(テーマ3)。米国例外主義が後退する中、グローバルな分散投資が非常に重要になっています。現地通貨建てエマージング債券はこの新たな市場テーマに最も適していると考えます。米ドルへの圧力が高まっていることもあって(テーマ4)、この資産クラスにとって好条件が揃っているとみられます。最後に、プライベート・デットの人気はもはや言うまでもないですが、この資産クラスは逆風に直面する可能性があります。より広範な戦略的資産配分においてプライベート・デットへの配分は依然として理にかなっていますが、予期される問題を考えると、グローバル投資家はエクスポージャーを適切な規模に調整することを検討する必要があるものと考えます(テーマ5)。

厳しい市場環境の中で、債券は依然として優れた投資対象ですが、グローバルな分散投資がこれまでになく重要になっています。


デュレーションの一時休止

多くの市場において、デュレーションは中立なポジションが適切であるとみられます。大きなマクロ・ショックがない中で、デュレーションのロング・ポジションに確信を持つことが多くの市場で難しくなっています。これは、ほとんどの中央銀行のアプローチがより慎重になっている一方で、財政リスクの高まりにより多くの国で長期金利の上昇圧力が強まっているためです。現在、米連邦準備制度理事会(FRB)は関税がマクロ経済に及ぼす影響をより明確に把握できるようになるまで様子見の構えです。金利市場は今後12カ月の間にFRBによる一定程度の利下げがあることを織り込んでいますが、FRBが市場の予想を上回る利下げを実施する状況にはありません。一方、欧州では、マクロ経済見通しが大幅に改善し、大規模な財政刺激策も実施されることから、欧州中央銀行(ECB)は緩和サイクルを終えようとしています。そのため、ユーロ圏ではデュレーションのロング・ポジションに有利に働く要因が大幅に弱まっています。

今後、何に注目すべきでしょうか。マクロ経済の不確実性が高い状況が当面続くとみられることから、金利見通しに対する高い確信を持つことは困難な状況です。世界の経済成長の面では、下振れリスクの主な要因として関税の影響、消費者や企業の信頼感の悪化、世界貿易の混乱などが挙げられます。米国では、移民規制の影響も考慮する必要があるとみられます。関税がインフレを引き起こす可能性がありますが、今後は成長リスクが注目されるとみています。したがって、デュレーションについてより明確な見通しを立てるためには、成長見通しの具体的な悪化と、その後の中央銀行による緩和的なシグナルを確認することが必要です。各国のマクロ経済動向を踏まえると、英国とオーストラリアは、デュレーションのロング・ポジションがより適している国であると考えます。一方、財政規律が戻ってくれば多くの国で長期金利に対する需要につながるとみられますが、現時点ではこのシナリオは予想していません。

    検討事項

  • マクロ経済の不確実性が高い状況では、デュレーション・エクスポージャーを慎重に管理
  • リターンの主な源泉として魅力的なキャリーを確保
  • 超過収益の主なドライバーとして銘柄選択に注力

 


クレジット・スプレッドの測定に誤り?

米国債利回りは依然としてリスクフリー金利と考えて良いのでしょうか。米国債はかつて究極の安全資産とみなされていました。しかし、最近の市場の動きをみると、「解放の日」以降、米国が政策の不確実性の主要な源となっているため、米国債のディフェンシブな性質が損なわれていることを示しています。政策枠組みの信頼性が世界の投資家から疑問視されているとさえ言えます。その過程で、主として財政リスク・プレミアムの上昇と、より一般的には米国ソブリン・クレジットの格付けの低下によって米国長期債利回りが急激に上昇しました。市場が織り込む財政リスク・プレミアムは2011年以来の高水準となっています。

米国債利回りからクレジット・スプレッドへ。米国債利回りをもはやリスクフリー・レートとみなすことができないとすれば、米国債利回りに対するクレジット・スプレッドを測定することは適切なのでしょうか。社債のスプレッドの測定が誤っていたとしたらどうなるでしょうか。さらに重要な点として、投資家が考えていたよりも社債のスプレッドがはるかに魅力的だったとしたらどうでしょう。試験的ではありますが、マーケット・インサイト・チームが、米国債に組み込まれたソブリン・クレジットリスクの上昇を考慮して調整した後のクレジット・スプレッドを計算しました。この計算では、調整後クレジット・スプレッドは社債利回りと調整後米国債利回りの差として推定されます。なお、後者は時間の経過に伴うソブリン・リスクの変化を調整したものです。結果は示唆に富んでいます。米国投資適格社債の調整後社債スプレッドは現在140ベーシスポイント(bps)と推定され、10年間で下から60%の水準にあります1。言い換えれば、ソブリン・リスクの内在的な悪化を考慮するならば、投資適格社債のクレジット・スプレッドは調整前スプレッドの絶対水準が示唆するよりも魅力的である可能性があります。

    検討事項

  • タイトなスプレッド水準を、投資適格社債のエクスポージャーを制限すべき要因として捉えない

  • 財政リスクが高い国ではソブリン債よりも投資適格社債へのエクスポージャーを選好

 


継続する債券と株式の相関の正常化

債券と株式の相関のピークはとうに過ぎています。債券と株式の相関がしばらく前にピークに達した理由は、過去数年間支配的だった2つの強力なマクロ経済レジームによって説明することができます。中央銀行が政策金利を積極的に引き上げ、グローバルの債券市場と株式市場に大混乱を引き起こした、いわゆる「FRBの引き締め懸念」レジームからすべてが始まりました。FRBが金融緩和に転じた2023年12月まで続いたこの期間中に、債券と株式の相関は急上昇しました。その後に続いた「ゴルディロックス」レジームでは、中央銀行がハト派姿勢に転じ、投資家の投資意欲が急回復したため、今度は債券市場と株式市場がともに上昇し、両資産間の相関はピークに達しました。しかし、新しいマクロ・レジームは全く異なります。このレジームの特徴は重大なグローバル・リスク、政策の不確実性の高まり、ボラティリティの高いマクロ経済です。新しいレジームの下で、債券と株式の相関が低下しそうな初期の兆候が見られます。

債券はポートフォリオの分散に適した資産としての地位を取り戻そうとしています。今後、より複雑なマクロ経済および市場環境の下で、債券は魅力的なディフェンシブ特性を提供する資産になると考えています。これは、資産間の相関のさらなる正常化によって促される可能性が高いと考えられます。もう1つ重要な点は、この相関が将来どちらに向かうかにかかわらず、ボラティリティを管理する上で効果的な資産クラスとして債券が機能し得るということです。債券のパフォーマンスが金利低下やスプレッドの縮小によって左右される可能性は低いですが、過去最高水準にあるキャリーは堅調な期待リターンにつながる可能性があります。一方、株式市場はここ数カ月間特に堅調に推移していますが、マルチプルの拡大が足元のリターンの主因であることなどから、好材料をすべて織り込んでしまったのではないかという懸念が高まっています。金利上昇は債券投資を拡大する上で常に懸念材料となる一方、緩和的金融政策と魅力的なキャリー・レートという現在の世界経済環境により金利のボラティリティは相殺、緩和されると考えます。こうした状況を背景に、債券は株式リスクのヘッジとして機能するとみられます。

    検討事項

  • 債券を魅力的なリスク回避型資産クラスとして選好
  • リスク管理の方法として資産クラスや地域の分散投資に注目

 


現地通貨建てエマージング債券にとって好条件が揃う

2つの重要な属性:グローバルな分散投資と通貨エクスポージャー-2025年初来の経験から学んだ重要な教訓の1つは、グローバルな分散投資の重要性です。世界の投資家は米国例外主義により、米国へのアロケーションが過大となっていた可能性があります。しかし、米国が貿易戦争を引き起こしたことにより、この見方には大きな疑問符が付きました。もう1つの大きな動きは、米ドル高サイクルの終焉です。この動きは世界的な米国からの資金流出も要因の一つとなっています。こうした状況下、現地通貨建てエマージング債券がこれら2つの市場動向において優位となる可能性があると考えています。現地通貨建てエマージング債券への投資は構造上、十分な国別分散投資が可能となります。主要な参照指数であるJ.P. Morgan GBI EM Diversifiedはアジア、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、中南米の19カ国を含んでいます。さらに重要な点として、この資産クラスにとってグローバルなマクロ経済環境が依然として重要である一方、中央銀行の金融政策や国内インフレなどの各国のマクロ要因がその国の市場動向に大きな影響を及ぼす傾向があります。一方、通貨エクスポージャーの面では、現地通貨建てエマージング債券の重要な特徴の1つは、当然のことながら、債券に内在するエマージング諸国の通貨リスクです。これは、現地通貨建てエマージング債券に対して非常に慎重になるべき時期があることを意味します。しかし、現在のような米ドル安の場合は、現地通貨建てエマージング債券にとって好条件が整っている可能性がみられます。

現地通貨建てエマージング債券の魅力-MFSは、魅力的な実質利回りを期待できるのは現地通貨建てエマージング債券であると考えています。エマージング債券市場の実質利回りは5月末時点で3%を上回っています。これは先進国債券市場の実質利回り(米国債利回り2/3と独国債利回り1/3を組み合わせた参考バスケットに基づく)の2倍以上です。利回りが魅力的なだけでなく、エマージング諸国の今後の利下げ余地を考えると、利回りが低下する可能性も高いと考えます。実際、現時点ではアジアはそれほどでもありませんが、中南米から中欧に至るまで多くのエマージング諸国の中央銀行は金融緩和姿勢を確固として維持し、自国のファンダメンタルズを支えています。全体として、現地通貨建てエマージング債券のリターンを構成する3つの要素、すなわち、魅力的な利回り、金利の低下、米ドル安シナリオの下での自国通貨高はいずれも、この資産クラスが魅力的なリターンを生み出し続ける方向に向かっているとみられます。ただし、米ドル高方向への転換や、エマージング諸国通貨の上昇を妨げるような経済成長ショックには警戒する必要があると考えます。

    検討事項

  • 現地通貨建てエマージング債券へのアロケーションの拡大を検討

  • グローバルな分散投資による潜在的メリットとそれによる魅力的な利回りの活用

 


プライベート・デットへの逆風

広範な戦略的資産配分においてプライベート・デットへのアロケーションは理にかなっています。今ではプライベート・デットの利点はよく知られています。プライベート・デットは分散投資のメリットを提供し、伝統的な債券投資よりも魅力的な利回りを生み出す傾向にある一方で、ボラティリティは低く抑えられています。ただし、低いボラティリティはリアルタイムの時価評価をしていないためで、実際にはより高いリスクが隠されている可能性があるとも言えます。プライベート・デットにはダイレクトレンディング、メザニン・ファイナンス、不動産デット、ディストレストデットなどの専門的な融資戦略があり、これらの戦略は、多くの場合、カスタマイズされており、特定のリスク・リターン目標に合わせて条件が調整されます。また、プライベート・デットは変動金利取引の比率が高いため、効果的なインフレヘッジと捉えることもできるかもしれません。プライベート・デットは、世界金融危機後に資産クラスとして本格的に広がり始めました。それ以来、飛躍的に拡大し、運用資産残高は推定約1兆2,000億米ドルに達しています2

この資産クラスは、最近の拡大によりさらに飽和状態になっています。これには、相互に関連する2つの要因があります。第1に、プライベートレンディングの機会を見出す競争が激化しているため、資金の投入が難しくなっています。これにより、待機資金が増加しているだけでなく、今後、資産クラスの期待リターンが低下する可能性もあります。非流動性プレミアムは依然として存在し獲得できますが、以前よりもかなり縮小しているとみられます。MSCI Private Capital Universeによると、プライベート・クレジットのクローズドエンド型ファンドは2024年に年率6.9%のリターンを記録しましたが、昨年のUS high yieldi ndexのリターンを約130bps下回りました3

最近注目が集まっている流動性リスクも、プライベート・デットの今後の課題となる可能性が高いとみられます。プライベート・デットは、従来の方法を通じて取引することができず、従来の債券投資よりも透明性がはるかに低いことを踏まえると、伝統的な債券よりも流動性がかなり低いと言えます。2022年の英国の年金危機と2023年3月の欧米の銀行不安は、健全な流動性リスク管理が運用プロセスの重要な柱であることを如実に示す事例となりました。そのため、流動性管理は現在、グローバル投資家の最重要課題となっています。極端な市場環境下では、ポートフォリオの流動性を犠牲にするコストは非常に高くつく可能性があります。この点を念頭に置くと、特に流動性ニーズが高い投資家にとっては、プライベート・デットのオーバーウェイトを正当化することは難しいとみられます。対照的に、伝統的な債券への投資は、ポートフォリオの流動性を十分に維持するという点で、はるかに優れた選択肢であると考えます。

    検討事項

  • プライベート・クレジットへの資産配分の適切な規模を検討
  • 伝統的な債券を含め、プライベート・クレジットに代わる魅力的な金融商品を検討

 


当レポート内で提示された見解は、MFSディストリビューション・ユニット傘下のMFSストラテジー・アンド・インサイト・グループのものであり、MFSのポートフォリオ・マネジャーおよびリサーチ・アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFSの代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。

1 出所:Bloomberg、MFS。Bloomberg US IG credit index。スプレッド = オプション調整後スプレッド。調整後スプレッドは、信用リスクの変化を調整するため、金利のターム・プレミアムを差し引いて推定されます。2025年5月30日現在のデータ。
2 出所:BISの執筆者の計算、Pitchbook。2024年12月31日現在のデータ。
3 出所:Bloomberg、MSCI。2024年12月31日現在の年間データ。プライベート・キャピタル = MSCI Private Capital Universe。米国ハイイールド債 = Bloomberg US High Yield Index。

出所:Bloomberg Index Services Limited. BLOOMBERG® は、Bloomberg Finance L.P.およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。Bloomberg またはBloombergのライセンサーは、Bloomberg Indexのすべての所有権を有します。Bloombergは、本資料を承認もしくは保証するものではなく、本資料に記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、本資料から得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。

インデックスデータ出所:MSCI。MSCIは、当レポートに含まれるMSCIデータに関して、明示または非明示を問わずいかなる保証も行っておらず、責任を一切負わないものとします。MSCIデータは、他の指数や有価証券、金融商品のために再利用することは出来ません。当レポートはMSCIによって承認、審査または作成されたものではありません。

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