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Fixed Income Insight

マクロとミクロの融合:リスクバジェッティングのための強固な枠組み

本稿では、経済の重要な局面において、トップダウンとボトムアップの両面からファンダメンタルズ分析を行うことで、リスクを的確且つ十分な情報に基づいて把握することが可能となるとのMFSの考え方についてご紹介します。

執筆者

Josh Marston
北米マルチセクター・
ポートフォリオ運用責任者
債券ポートフォリオ・マネジャー

Rob Hall
債券インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー

概要

  • 資産配分を決定する際の指針となる「市場に対する仮説」を構築するにあたり、ト ップダウンのマクロ的視点とボトムアップのミクロ的視点を効果的に融合して経済状況を分析することが極めて重要であると、我々は考えます。
  • マクロの視点は、政策、世界的なイベント、人口動態の影響を受ける世界の資本市場の動きを把握するための枠組みを提供します。ただし、マクロデータは過去の実績を表すものであり、また数値が改定されることもあるため、経済の構造的変化による影響や景気サイクルの転換点を認識ないし予測するための根拠としては適していません。
  • 一方のミクロ、すなわち企業レベルの視点は、リアルタイムの情報であるため、市場の転換点を早期に特定するほか、経済の構造的な変化が起きた場合にその影響を測る手段としても有用です。
  • トップダウンとボトムアップの見解に乖離が生じているときは、景気サイクルの転換点や経済の構造的な転換点にあり、それに伴い投資機会が発生していることを示唆している可能性があります。
  • MFSは、リサーチ・プラットフォーム全体から導き出したトップダウンのマクロ的洞察とボトムアップのミクロ的洞察を基に、リスクバジェッティングの指針となる包括的で精緻な「市場に対する仮説」を構築するための、再現性のある枠組みを構築しました。

はじめに

ボトムアップとトップダウンのデータを融合して導き出される経済のファンダメンタルズ評価は、経済の循環的および構造的な変化をリアルタイムで反映しており、マクロデータのみに基づき分析した評価より精緻であると我々は考えます。アナリストが企業経営陣との面談から得た知見を分析し体系的に集約することの主な利点は、リアルタイムかつ将来に向けたガイダンスに焦点を当てられる点にあります。経済状況に対する市場の見方に大きな影響を与える傾向があり、過去志向のデータであるという性質を持つ経済指標を補完する効果が期待できます。経済が重大な局面にあるときには、トップダウンの視点とボトムアップの視点の融合により差別化されたマクロ観を形成でき、ポートフォリオ・マネジャーはそれを基に確信を持って逆張りスタンスのリスクをとることが可能となります。

ファンダメンタルズ分析はリスクバジェッティングにおける重要な要素

ポートフォリオのリスク総量を決定する際の指針となるリスクバジェットの設定と調整は、アクティブ運用における運用プロセスの重要な第1段階となります。ポートフォリオのリスクバジェットは、債券市場を動かす3つの主な要因、すなわちファンダメンタルズ、需給、バリュエーションの3つの間の相互作用に基づき決定します。「市場に対する仮説」を構築する際は、需給のシナリオと併せて将来的なファンダメンタルズの見通しを考慮し、投資開始時点のバリュエーションから示唆される潜在的な超過リターンで投資機会を評価します。予想される投資成果の比較検討に基づき、ポートフォリオのクレジットリスクと金利リスクの目標総量を設定し、調整を繰り返して各資産の配分とポジショニングを決定します。本稿では、以下のトップダウンによるマクロ的な枠組みとボトムアップによる企業レベルの視点を融合したファンダメンタルズの見通し評価プロセスについて解説します。

  • トップダウン:実質GDP成長率、インフレ率、金融・財政政策、長期トレンド、テールリス クを分析し、マクロ環境と市場環境、およびそれらの今後の動向について評価します。
  • ボトムアップ:主に、将来的な見通しについて企業経営陣からリアルタイムのフィードバックを得ることで、労働市場、設備投資、売上高成長率、利益率について、現在および将来のトレンドを評価します。企業の健全性を示すこれら4つの要素を産業別に集計し、経済の現状と今後の見通しに関するシグナルを導き出します。

トップダウンとボトムアップによるファンダメンタルズ評価を比較

トップダウンの指標は、景気サイクルの判断に伝統的に使用されている要素です。経済指標の多くは定期的に測定され、複数のサイクルに亘って推移を見ることができるため、それを基に景気後退入りなど将来の景気動向を示唆するパターンやシグナルを特定することが可能です。この分析の根底にあるのは、「過去は序章に過ぎない」という考え方(実際にそうであることが多い)です。

過去の実績値を示す「ハードデータ」は、過去のパターンが続くという前提の下、季節調整を施しているため、後から数値が大幅に改定されることがよくあります。この「ハードデータ」を「ソフトデータ」で補完します。「ソフトデータ」は意識調査を基に測定されるため、市場心理の影響を大きく受ける可能性があります。調査データは、長期的には実際の経済活動と強く相関する傾向がありますが、短期的には大きく乖離することがあります。

トップダウン指標の主な限界として、実績値であり過去志向のデータであるため、景気サイクルの重要な転換点を見逃す可能性があるという点が挙げられます。過去20年間は、伝統的なパターンから逸脱した経済情勢が多く見られました。その背景には、量的緩和あるいは引き締めといった金融政策やかつてない規模の財政刺激策といった政策イニシアチブなど、前例のない様々な要素がマクロ経済政策ミックスに導入されたことがあります。また、労働と消費の構造的な変化によって政策に対する経済の反応が変わったことも一因です。

ボトムアップのシグナルには、時間的優位性という重要な補完的効果があります。つまり、企業経営陣が発信するメッセージは現在の状況と将来の見通しが主体であるため、トップダウンの指標の多くが抱える限界に対処することができます。したがって、景気回復が指標に先行して進んでいる時期や、経済が構造的変化にどのように反応しているかを検証する手段として、ボトムアップの視点は特に有用です。トップダウンのマクロ経済ストーリーと矛盾するようなミクロのシグナルが現れた場合、従来のマクロデータの解釈は当てはまらないため、より詳細な分析が促されます。ただし、トップダウンの視点と同様、ボトムアップの視点にもバイアスは内在します。企業経営陣が公表する見解はさまざまな動機に影響され、ストーリーに歪みが生じる(自社に有利な発言をしたり、政治的な影響を受けているといった)可能性があることから、メッセージを適切に解釈する上で、こうしたバイアスを認識することは非常に重要です。

マクロ・ミクロ・フォーラムの設立

MFSは、リスクバジェッティングの際に考慮するマクロ経済ファンダメンタルズの評価にトップダウンとボトムアップの視点を融合する取組みとして、マクロ・ミクロ・フォーラムを2017年に正式に立ち上げました。この取組みの下、より良い情報に基づいたリスクバジェットの決定を目指し、以下の目標の達成に努めています。

  • クレジット・アナリストが産業や企業横断的に導き出した見解を取り入れるための、より体系的で構造化されたプロセスを確立する。
  • マクロとミクロの視点を融合してファンダメンタルズの見解を形成する。
  • 変化する経済環境の中で、マクロ経済と市場に対する仮説の検証力を高める。

このフォーラムは、協議形式で考案されました。四半期ごとに開催し、トップダウンの分析を行うチーフ・エコノミストとチーフ投資ストラテジストが、北米の投資適格債とハイイールド債担当のクレジット・アナリストに対し、経済に関するトップダウン評価の賛否の根拠を論じるというものです。

マクロ・ミクロの力学

四半期ごとのマクロ・ミクロ・フォーラム開催に先立ち、参加者全員が、各自担当する産業およびセクターの労働市場、設備投資、売上高成長率、利益率の4つの主要テーマについて評価します。参加者は各テーマについて、モメンタムが「ポジティブ」か「ネガティブ」か、あるいは「中立」(平常時の平均または景気サイクル全般を通した水準)水準での横ばいかを評価します。トレンドを上回っている場合はスコア「1」、中立の場合はスコア「2」、トレンドを下回っている場合はスコア「3」とします。

投資適格債アナリストとハイイールド債アナリストによる産業別スコアは、投資適格債指数とハイイールド債指数の構成産業の時価総額でそれぞれ加重平均されます。セクター別スコアは、セクターの構成産業のスコアを時価総額で加重平均したものです。集計されたスコアは、時価総額で加重平均したセクター全体の寄与度を示しています。

マクロ担当者も同様のスコアリング・システムを採用しているため、ミクロとマクロの両スコアは比較可能です。

下図はスコアリングのプロセスを図示したものです。アナリストによる評価の引き上げまたは引き下げがあった数値はハイライト表示されます。

マクロ・ミクロ・フォーラムでは、まず、トップダウン分析チームが労働市場、設備投資、売上高成長率、利益率のトレンドの分析結果のポイントについて述べます。次に、この4つのテーマについて、参加アナリストが産業ごとの調査結果を発表していきます。

ここで、モデレーターはアナリストに直接質問し、市場に対する仮説をその場で検証します。質問は、景気サイクルの局面の転換など長期的なトレンドに関する場合もあれば、マクロデータに表れにくく、そのため従来のマクロ分析の枠組みでは見逃されがちな、短期的な経済構造変化に関する場合もあります。

ケーススタディ:ボトムアップとトップダウンの視点の融合により、差別化されたファンダメンタルズ評価が可能に

下図は、マクロとミクロの視点からのスコアを時系列で示したものです。これによると、労働市場、設備投資、売上高成長率、利益率のいずれについても、マクロとミクロの視点から見た印象は概ね同じ方向に動いていますが、乖離することもあります。

ケーススタディ:2022~2023年

以下のケーススタディでは、ファンダメンタルズに関するボトムアップとトップダウンの視点を融合することで、マクロデータのみに依拠していては正当化されなかったと思われるポートフォリオのリスクテイクが実現しました。この事例で重要なのは、ファンダメンタルズ評価を差別化できたことにより、リスクを追加するという、コンセンサスとは異なる見解が形成されたことです。

2022年は、コロナ禍後の2021年に始まった力強い経済回復が続いていました。インフレ率が予想以上に上昇し40年ぶりの高水準に達すると、米連邦準備制度理事会(FRB)は大幅な金融引き締めを余儀なくされました。すると、市場ではFRBの金融引き締めが急激すぎ景気後退に陥るおそれがあるとの懸念が広がり、債券の利回りも急上昇しました。また、その後マクロ経済指標が悪化し、年末には景気後退入りするとの見方がコンセンサスになりました。こうしたネガティブな市場心理は2023年も続き、年前半にはSilicon Valley Bankの取り付け騒ぎとCredit Suisseの経営破綻に端を発した地方銀行危機によって、市場心理の悪化はピークに達しました。景気後退懸念が広がる中、金利のボラティリティは急上昇し、スプレッドは急拡大しました。 

この激動の中、景気後退を示唆する伝統的な指標は次々に危険信号を灯しましたが、我々は一貫して、景気減速は比較的軽微にとどまるとの予想を維持しました。経済成長の鈍化は予想されたものの、そのペースは緩やかで、クレジットは十分に支えられると考えたためです。この逆張り的な見方の裏付けとなったのは、我々が行った企業レベルの分析でした。分析の結果、健全で底堅い個人消費の兆候が見られ、支出に前向きな消費者心理が成長を支え得ると考えられる理由が複数見られました。1つ目は、MFSのアナリストが企業との対話の中で「雇用保蔵者」の存在を認識し、それが消費を支える要因になると考えたことです。企業はコロナ禍後に人手不足を経験していたため、景気が一時的に減速しても人員削減には慎重にならざるを得ず、結果として労働所得が予想以上に底堅く推移していました。2つ目は、住宅ローンと企業債務がFRBの利上げサイクル開始前の低金利で固定されていたことです。これにより、当面は金利上昇による経済への影響は緩和されると考えられました。コロナ禍の間に低金利の住宅ローンへの借り換えが可能だったことと、それに伴う「ロックイン」効果によって住宅市場の力学が変化し、住宅セクターの金利上昇に対する耐性は高まっていました。また、消費者金融会社が貸出に積極的な姿勢を見せていたことも消費者の購買力を高めました。さらに経営陣からは、成長への確信や、コスト上昇分を消費者に転嫁することで利益率を維持できるとの確信が示唆されました。これは、売上高成長率と利益率に対するミクロ視点からの評価がマクロ視点からの評価よりも高いことに反映されています。このように、ボトムアップによるエビデンスからは、経済が構造的に変化し、景気後退に大きな抵抗力を持つようになると同時に金利上昇に対する感応度が低下したことで、金融政策の伝達メカニズムが以前よりも弱まったことが示唆されました。

我々の比較的強気な経済観測(ミクロレベルの分析と、景気後退入りがほぼ確実な状況が反映されたクレジットスプレッドに基づく)は、投資機会の発掘につながりました。加えて、FRBの利上げサイクルが終息に近いとの見方と、債券のオールイン利回りが過去10年間で最高水準に達したところで金利に安定の兆候が見られたことを踏まえ、債券の需給は明らかなマイナスからプラスに転じる段階に入ったと考えました。こうした仮説を念頭に、我々は2022年後半に投資適格社債とハイイールド社債の選別的な買い増しを始め、その後、米地方銀行危機で市場が動揺した2023年前半には本格的な買い増しを行いました。その際、市場で無差別的に売られていた消費者金融などの金融銘柄も組み入れました。

2023年末から2024年前半にかけては、クレジットスプレッドが景気後退を織り込んだ高水準からリーマンショック以前の低い水準に大きく縮小したため、債券価格が大幅に上昇し、アルファを創出することができました。

ただし、ミクロのメッセージとマクロのメッセージの間に乖離が生じている場合は、ミクロのメッセージが必ずしもマクロのデータに結びつくとは限りません。例えば、リーマンショックの際には、住宅市場の崩壊が顕在化した途端、企業が自社の事業見通しへの影響を認識する間もなく、金融システム全体を揺るがす事態に発展しました。同じように、新型コロナのパンデミックの初期段階では、投資を行う上で最も重要な指針となったのは金融・財政政策であり、ボトムアップの視点ではありませんでした。こうした事例は、トップダウンとボトムアップの両方の視点を取り入れることの重要性を裏付けています。

結論

MFSのマクロ・ミクロ・フォーラムは、経済の転換点を予測するためにはトップダウンの分析と併せてボトムアップのシグナルの収集が有効であるとの考えの下、再現性と体系性のあるアプローチの構築を目指して、リスクバジェッティング・プロセスの一環として設立されました。ミクロ側とマクロ側の議論は多くの場合、大筋では一致し、違いはわずかにとどまります。その場合、結果としてより高い確信につながります。

一方、経済が変化する局面においては、見解の相違そのものが変化を察知する手がかりとなり、リスク配分の考え方に影響を及ぼす可能性があります。2022~2023年のケーススタディでは、ボトムアップのインプットを基に、景気後退を織り込んだクレジットスプレッドが示唆していた状況よりも経済は良好であるとの判断につながりました。市場の需給の改善や魅力的なバリュエーションといった視点に、こうしたファンダメンタルズに関する洞察を組み合わせることで、より多くの情報に基づいた投資判断を下すことができ、割安な水準でリスクを取ることが可能となった例です。

 

 

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