米国地方債・高等教育セクター投資:構造的および政策的逆風を乗り越える
執筆者
Kristy Bykowski, CFA
債券リサーチ・アナリスト
Kristen Richardon
債券リサーチ・アナリスト
Lauren Sepolen, CFA
債券リサーチ・アナリスト
Matthew Whoriskey, CFA
債券リサーチ・アナリスト
Michael Adams, CFA
債券インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
概要
- 構造的逆風と政策による逆風が重なり合う中、米国地方債の高等教育セクタ ーでは、発行体間のファンダメンタルズの差異が拡大しています。
- ファンダメンタルズの差異の拡大は運用パフォーマンスに反映されていくため、綿密なリサーチと銘柄選択の重要性がますます高まっています。
- MFSの米国地方債運用チームは、ファンダメンタルズ、クオンツ、法規、バリュエーションなど複数の観点からリサーチを行うことで、魅力的な投資機会を特定するとともに、リスクを管理しています。
高等教育セクターを取り巻く課題
大学など米国の高等教育機関は、構造的および政策による二重の逆風を受けています。
構造的逆風の中でも最も顕著なのは、「人口の崖」と呼ばれるものです。これは、従前より予想されてきた、従来の大学就学年齢人口の急減を指しています。米国の出生率は2007年以降低下が続いており、高校卒業者数は2025年がピークだったとみられます。その結果、将来の潜在的な大学入学者数は、2026年から2041年の間に13%減少すると予測されています(図表1)。
私立大学は運営予算のほぼ70%を授業料および関連収入に頼っているため、就学者数が減少する環境下では、大学経営陣は競争や財務課題への対応を迫られることになります1。比較的小規模で入学基準の緩い私立大学は、その影響を大きく受ける可能性があります。
最近の米国政府の政策変更も、高等教育機関に課題を投げかけています。
1) 留学生:就学および就労ビザ要件の厳格化、ビザ審査の遅延、渡航禁止措置、入国審査の強化などにより、米国の高等教育機関への留学需要は抑制される見込みです。2025年秋時点で、米国に入国する留学生の総数は前年比1%減少、新規留学生(米国に初めて入国する留学生)の数は前年比17%減少するなど、すでに負の影響が顕在化しています2。留学生は授業料を全額支払う数少ない学生層の1つであることが多いため、大学は、在籍学生1人当たりの正味授業料収入の低下の形で、こうした政策変更の影響を強く受ける可能性があります。
2) 学費ローンの上限:Parent PLUS、Grad PLUS、Professional PLUS など政府が提供する学費ローンに新たに上限を設定するなど政府の規制変更により、政府の学費ローンに対する需要が抑制され、より割高な民間金融機関からの借り入れを余儀なくされる学生が増える可能性があります。これは、学生の学費支払い能力への懸念を一層高め、就学者数のさらなる減少を招き、大学の財務を圧迫するおそれがあります。
3) 連邦助成金:間接費回収の上限設定や一部の裁量的連邦補助金プログラムの変更などを含む連邦研究助成金の削減案により、さらに収入が減少する可能性があります。
4) 基金税:大学基金に対する増税を目指す法案は、当初は高等教育機関全体のリスクとなるように思われましたが、減税・歳出削減法案である「1つの大きく美しい法案(OBBBA)」によって最終的に成立した法律は予想よりも緩やかな内容となり、影響は最も健全で財務状況の良好な12の大学のみに限定されました。
こうした逆風は米国の大学に厳しい経営環境をもたらす可能性がありますが、その影響の度合いは各機関で大きく異なります。投資にあたってこうした環境を慎重に乗り切るためには、こうした課題をトップダウン的に把握するとともに、個別の投資がもたらし得るリスクと機会をボトムアップで分析する必要があると我々は考えます。
投資機会を特定するには
ファンダメンタルズの差異に着目します。MFSでは、規律に沿ったリサーチ重視のアプローチ に則り、セクターを取り巻くリスクへの理解を深めることから始めます。チーム制によるリ サーチ体制を取っており、高等教育セクター担当の複数のアナリストの洞察を活用します。個々の発行体のボトムアップ分析とマクロ環境の詳細な理解に重点を置きながら、セクタ ー全体に対する見解を構築し、リスク・スペクトラムに沿ってファンダメンタルズの面から個別銘柄を選別していきます。
デューディリジェンスにおいては各発行体を個別に精査し、各機関の経営体力を評価します。特に経営環境が厳しい局面においては、レジリエンスの源泉が多いほど、困難に適応し、好機を捉えられる可能性が高くなります。分析においては以下のような属性に着目します。
√ 学生数の増加
√ ニッチな学術プログラム
√ 多様な収入源
√ バランスの取れた財務運営
√ 健全な財務慣行
√ 健全なバランスシート
√ 経営に影響しない程度の学費減免率、または学生1人当たり正味授業料の増加
√ 資金調達の実績
クオンツ分析による補完:上述のファンダメンタルズ分析を補完するため、大学のクレジットリスクを他校比較で評価するクオンツ・ランキング・ダッシュボードを自社開発しました。主要な財務比率、長期パフォーマンスのほか、ニッチ性やガバナンスなどの定性的要因を基に大学をランキングするツールです。この体系的な分析により、我々のファンダメンタルズ評価を網羅的かつ一貫して検証、再検討します。
法的保護の重視:社内の法務顧問と連携し、債権者保護の観点から投資案件を精査します。オペレーティングコベナンツまたは財務コベナンツや重要資産による担保の付いた、安全性の高い投資先を選好します。安全性措置や担保の内容は多岐にわたりますが、授業料や受取金への担保設定、特定の学内収益源への先取特権、学内施設への抵当権設定などがこれに含まれます。こうした保護は、クレジットクオリティの低い投資先を検討する際にとりわけ重視されます。
バリュエーション:最後がバリュエーション分析です。投資対象を検討する際は、利回りがリスクに見合うことを確認します。ファンダメンタルズが良好であっても、利回りが投資を正当化するには不十分であることもあります。そのため、バリュエーションとファンダメンタルズの組み合わせで分析を行います。ファンダメンタルズの持続性と直面するリスクに見合う利回りの両方を示す銘柄が、典型的な投資先候補となります。高等教育セクターにおける我々の銘柄選択プロセスでは、最終的に、利回りの魅力が相対的に高く、レジリエンスのある教育機関を導き出します。
ケーススタディ:高等教育セクター銘柄の選別例と回避例
MFSにおける投資銘柄の選別と回避の例は以下の通りです。
経営危機銘柄の回避:米国北東部に拠点を置くこの大学は、MFS が重視する前向きな属性がほとんど見られず、そのため2019年と2022年に同校が資金調達を行った際に投資を見送りました。同大学は数年前より入学者数が減少しており、学術面のニッチ性に欠け、収入源も十分に分散されていませんでした。入学者数については増加の予想を示していたものの過度に楽観的と思われ、またすでに経費削減を実施していたため、これ以上の効率改善の余地はほとんどありませんでした。2010年代後半に負債水準が上昇し、赤字を補填するため短期借入を行っていましたが、償還時に借り換えができませんでした。学生数が減少し、出願者数の減少が加速したことから、理事会は、基金を取り崩し使途無指定の資金残高へ組み入れる異例の措置を承認しました。最終的に、同大学は募集を停止し、2023年半ばに閉校しました。
経営良好な機関の選定:この小規模で利回りの高い大学は、独自のニッチ性、堅調な入学者数、健全な財務運営のほか、総収入に対する担保設定や厳格な各種コベナンツ、現金積立による元利金支払準備金など、強固な債権者保護を設定していたことから、我々は同大学が初めて発行した地方債に投資しました。数年後、堅調な雇用市場や競争の激化を背景に入学者数が減少すると、財政が圧迫され、もともと収入基盤が小規模であったこともあり、運営がさらに不安定化しました。そうした状況から、格付機関は同大学の信用格付けを1段階引き下げました。しかし我々は、継続的なファンダメンタルズ分析を通じて当初の投資仮説を再確認し、投資を継続しました。分析の結果、同大学のブランド力とニッチ性は損なわれておらず、授業料の減免率が適度であることやレバレッジの低さから、財務柔軟性は引き続き高いと判断しました。営業利益率は縮小したものの、迅速なコスト削減策により、プラスのキャッシュフローと堅固な債務返済能力を維持しており、同大学の健全な財務運営に対する我々の評価を再確認する結果となりました。理事会は新たな理事を招聘し、ニッチ分野における同大学の中核的な強みを強化するとともに、ターゲット層への支援に向け新たな学費軽減策を導入しました。この戦略は比較的有意な成果を上げており、導入以降、出願者数は80%超増加、在籍者数は15%増加し、大学の経営は一貫して黒字を維持し、流動性は2倍超に拡大しました。現在、同大学は潤沢な流動性、好調な利益率、低いレバレッジなど強固なファンダメンタルズを示しています。こうした改善を受け、格付機関は最近、同大学の格付けを引き上げました。
結論
米国地方債の高等教育セクターは、構造的および政策的逆風を受けており、セクター内のファンダメンタルズの差異が拡大しています。その結果、財務基盤の強い大学と弱い大学の将来見通しの差異が拡大しており、運用プロセスにおける個別銘柄選択の重要性が一層高まっています。MFSの規律ある投資アプローチは、ファンダメンタルズ分析を中心に、クオンツ分析、法務知識、バリュエーション規律を組み合わせた手法であるため、差別化された見通しを得ることができます。このアプローチは、効果的な舵取りを行うことを可能にするものであり、お客様に長期的な価値をご提供することを目指しています。
巻末脚注
1 注記:Moodyʼs, “Private College Medians FY24”
2 出所:Institute of International Education、Fall 2025 Snapshot on International Student Enrollment
当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
分散投資は利益を保証するものでも、損失を防ぐものでもありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。