排出量を資産に変える:二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)への手引き
Sustainability
in depth
2026年第2四半期
排出削減が困難なセクターが中長期的な脱炭素化目標を達成するにあたり、炭素排出管理が果たす役割はますます大きくなっています。投資にあたっては、炭素排出に係る新興技術や、炭素管理への需要が将来のセクターレベルのダイナミクスを推進する上でどのような役割を果たすかについて理解しておくことが必要です。本稿では、MFSが行ったリサーチから得た洞察を基に、二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)について紐解きます。
CCUSとは、排出されたCO2が大気中に入り込むのを防ぐ、または大気中から除去し、最終的に圧縮して地中深くに貯留する技術を指します。
CCUSには、広義にはCO2排出の除去と隔離の2つのアプローチが含まれます:
- 汚染源における炭素の回収・貯留:産業活動によって直接生成される「新たな」排出物の除去。
- CO2の除去:大気中の炭素を回収することで「既存の」排出物を除去。
現在、CCUSプロジェクトが削減しているのは世界の排出量のごく一部にすぎませんが、将来的にはエネルギーおよび資本財セクターの排出量を大幅に削減する上で重要な役割を果たす可能性があります。実際のところ、ネットゼロを達成するためのソリューションがCCUS以外ほとんどないセクターもあります。最近の「Gigatonne by 2030」(2030年までに年間1ギガトンのCO2排出量削減をめざす)などのキャンペーンは、エネルギー・セクターにおける大規模なカーボンマネジメント・ソリューションへのニーズを反映したものでもあります。
セクター横断的なリサーチでCCUSの可能性が明らかに
セクターのトレンド、それに関連するアルファ獲得機会、下振れリスクを理解するために、我々は以下を目的にリサーチを行いました。
- 最近のCCUSプロジェクトの発表急増と、それが現実的で持続可能かどうかを把握する
- エネルギーおよび産業プロセスにおけるガス(および石炭)の長期的な見通しに関する我々の見解を形成する
- 座礁資産、無駄な設備投資、または多額のコスト超過のリスクがある分野を特定する
- エネルギー企業および工業企業のエネルギー移行計画の信頼性を把握する
- 移行計画を効果的に実施している企業や、大きな成長性を持つソリューションプロバイダーを特定する
上記に沿って、MFSの運用部門のメンバーが重点的なリサーチを行い、発行体と対話を重ね、世界的な脱炭素化の取り組みの中で重要性が高まる炭素回収技術について、関連するセクター・チーム間で議論を行いました。我々の運用プロセスの強化と、CCUS分野における新たな投資機会を見出すことが、その目的でした。
ネットゼロ目標と規制による支援がCCUSイノベーションへの需要を促進
政策によるインセンティブ、技術の進歩、高排出セクター企業からの需要などの市場トレンドがCCUS技術に対する需要増加の主な要因であり、またCCUS技術を経済面で実行可能な選択肢にしています。
法律/政策 |
時期 |
概要 |
米国 |
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超党派インフラ法 |
2021年 |
炭素管理インフラおよびパイロットプロジェクトに資金を拠出。2025年以降、一部資金はCCUS展開ではなく、石炭火力発電所の寿命延長向けに再配分されている。 |
| インフレ抑制法 ―セクション45Q税額控除 | 2022年 |
CCUSプロジェクト向けの税額控除を拡充。この措置は2025年成立の「One Big Beautiful Bill Act」においても維持された。 |
欧州連合 |
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ネットゼロ産業法 |
2024年 |
2030年までにEU全体で年間5,000万トンのCO₂貯留目標を法的拘束力をもって設定。CCUSプロジェクトを戦略的ネットゼロ技術と位置付け、許認可手続きを迅速化。 |
産業炭素管理戦略 |
2024年 |
CCUSインフラ拡大に向けたEUのロードマップを提示。 |
EUイノベーション基金 |
2020年 |
EU加盟国全体の大規模CCUSプロジェクトおよびクリーンエネルギープロジェクトに資金を提供。 |
Fit for 55 パッケージ(EU ETS改革を含む) |
2021年 |
EU ETS(排出権取引制度)および関連政策を強化し、炭素価格の形成と CCUS 投資を促進。 |
英国 |
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北海移行 |
2021年 |
既存の北海の石油・ガスインフラを活用し、洋上CCUS能力の 開発を支援。 |
East Coast Cluster/Northern Endurance Partnership |
2024年 |
英国の高排出型産業拠点の脱炭素化を目的として、CCUSおよびその他のクリーンエネルギープロジェクトに資金を提供。 |
オーストラリア |
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海域石油・温室効果ガス貯留法(2024年改正) |
2006年 |
管轄海域における海洋 GHG 貯留の法的枠組みを提供。 |
セーフガード・メカニズム |
2023年 |
高排出事業者に対する排出基準を厳格化し、カーボンオフセット需要を創出するとともに、削減困難セクターを対象とするCCUSプロジェクトへの資金供給を促進。 |
中国 |
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海域第15次五カ年計画 |
2026–2030年 |
第14次五カ年計画(2021~2025年)では、国有エネルギー企業を中心にCCUSのパイロットおよび実証プロジェクトへの目標設定・資金提供を実施。第15次五カ年計画では、他の気候関連目標と併せ、これらプロジェクトの本格的な拡大を支援。 |
日本 |
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二酸化炭素の貯留事業に関する法律 |
2024年 |
日本初となるCCUSの許認可制度を創設。 |
韓国 |
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二酸化炭素の回収・輸送・貯留・利用に関する法律 |
2024年 |
CO₂を「廃棄物」から定義しなおし、CCUSプロジェクトに対する許認可制度および資金支援の枠組みを整備。 |
上記はCCUSの実施と拡大を支援する世界各国の政府の取り組みの一部を示したものです。当リストは2026年3月1日時点の取り組みを反映しています。
こうした支援的な政策環境は、企業にCCUSの採用を促すとともに、より費用効率の高い、拡張性のある炭素回収技術の開発への投資を奨励し、低炭素経済への移行をさらに促進します。低炭素排出製品の生産や購入に対する経済的インセンティブはサプライチェーンを変容させ、低排出企業やCCUS導入企業が多い国々に競争優位性をもたらす可能性があります。CCUSが普及するに伴い、地下での炭素貯蔵が可能な地質、例えば枯渇した石油・ガス井、塩水貯留層、玄武岩層、古い炭層などが、世界の一部地域にかなり優位な「先行者」利益をもたらしてきました。例えば、北米の石油・ガス生産地域、北海、オーストラリア、サウジアラビアなどがそれにあたります。
エネルギー部門におけるCCUS
顧客にCCUSを提供することが可能な上流部門のエネルギー生産者は、新たな収益源を創出することが可能です。電力供給事業者の場合、CCUSを利用することで、増加する低炭素エネルギー需要に対応することができます。ただし、CCUS技術の導入に伴い生産コストが増加する可能性もあります。
ケーススタディ: ExxonとDenbury
エネルギー・セクターの主要プレーヤーは、将来的なCCUSの収益性を確信しているようです。Exxonが2023年に米国の炭素回収・貯留企業Denburyを49億米ドルで買収したことがその一例です。米国南東部最大のパイプライン・ネットワークを誇るDenburyは、米国のCCUS分野で最大かつ最も確立されたプレーヤーの1つでした。
買収の背景は以下の通りです。
- ミシシッピ、ルイジアナ、テキサスなど南東部の州は米国の主要石油・天然ガス生産地であり、そのためすでに多くのインフラが整備されていた
- Exxon自身の拠点に加え、現地の広い産業基盤からも高いCCUS需要がある
- DenburyのパイプラインはCO2の長期貯留に適した深部地層上に位置している
- Denburyはすでに炭素隔離に必要なクラスVIの許可を取得しており、Exxonはその許可を引き継ぐことができる
Denburyの買収は、新たにインフラやパイプラインを1から構築するよりも費用対効果の高い選択肢とみなされました。許可の遅延を回避し、産業排出物の大規模な汚染源炭素回収・貯留を即座に可能にするインフラを取得することで、Exxonはこの市場で重要な「先行者」利益を得ることにつがります。Exxonは、信頼性が高く、低コストの炭素回収・貯留ソリューションをエンドツーエンドで顧客に提供するとともに、ブルー水素(炭素を放出する前に回収する技術を利用して製造される水素)など、低炭素商品の生産が可能な態勢を整えています。これは企業にとって「長期的な」投資のように見えますが、エネルギー・セクターがCCUS事業の将来的な収益性と魅力的な成長を予測していることを示唆しています。
CCUSは定着するのか
CCUSはエネルギー移行経済において非常に有望な分野ではあるものの、いまだ広範囲にわたる費用対効果の高い採用には程遠く、今後数年間で大きな逆風に直面する可能性もあります。他のクリーンエネルギー技術との競争や炭素価格の変動など、長期的な要因が市場のCCUS需要に影響を与える可能性もあります。規制によるプロジェクトへの支援も、政策支援の変化に応じて揺らぐ可能性があり、実施コストの高さを考えると、補助金がない場合のCCUSの経済的妥当性はまだ不確実です。
ネットゼロ目標達成のための「特効薬」と称されることもあるCCUSですが、投資家と発行体は、業務上発生する排出量の削減を優先しつつ、CCUS技術を巡る議論にも対処する必要があります。最終的に、CCUSに過度に依存せず、投資が適切で持続可能なリターンを生み出すことを確実にする必要があります。
リスクはあるものの、潜在的成長力、最大排出企業への適用性、主要プレーヤーによる早期採用、そして政策支援により、CCUSは発行体と投資家にとって探求するに値する分野だと考えます。
MFSは、発行体との対話において、投資判断やファンダメンタルズ分析、エンゲージメントに環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を組み入れる場合があります。当レポートでの記述や例は、MFSが一部の発行体の分析または発行体との対話において、ESG要因を組み込んだケースを例示したものですが、すべてまたは個別の状況における投資またはESG行動、エンゲージメントにおいて成果をもたらされることを保証するものではありません。MFSは、ESGトピックに関するエンゲージメントを含め、企業とのエンゲージメントを行う際、MFSのお客様の長期的な経済的利益に資する十分な情報に基づいた投資判断を行うことができるよう、企業の長期的な経済的バリュエーションにとって重要となり得る事項について議論し、情報を収集し、適切な透明性を追求することに重点を置いています。MFSは、企業の支配権の変更や影響を与えることを目的としてエンゲージを行うことはありません。エンゲージメントは通常、発行体との継続的なコミュニケーションで構成されます。発行体とのエンゲージメントが必ずしも発行体のESG関連の取り組みに直接変化をもたらすとは限りません。当レポートで示されているような投資やエンゲージメントの成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資判断や投資分析、エンゲージメントにどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があり、通常、特定のESG要因の関連性と重要性に関するMFSの見解(投資家を含む第三者の判断や意見とは異なる場合があります)に基づいて決定されます。当レポートで示されている例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因をも代表するものではありません。MFSによるESG評価やESG要因の組み入れは、第三者(投資先企業やESGデータベンダーを含む)から入手したデータに依拠する場合があります。これらのデータは、不正確、不完全、一貫性がない、最新でない、または推定値である可能性があり、投資先やそのバリューチェーン全体のサステナビリティに関する特性や行動ではなく、特定のESG側面のみを考慮している可能性があるため、投資に関連するESG要因に関するMFSの分析に悪影響を及ぼす可能性があります。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきでありません。