概要
- 世界の金融政策は、緩和局面から据え置き、ないし引き締め局面へと移行しており、金利の方向性にリスクを取る根拠が薄れています。
- クレジット市場ではバリュエーション面で全般的に割高感が見られることから、ベータの追求やデュレーション、クレジット、流動性リスクに対する過度なリスクテイクよりも、防御的なキャリーの確保と分散投資の重要性が高まっています。
- 真にグローバル、かつマルチセクターの投資アプローチこそが、各国市場、イールドカーブ、セクター、発行体間のバリュエーションのばらつきから生じる投資機会を捉える上で最も有効であると考えます。
グローバル債券は新たな局面に入りつつあります。中央銀行のタカ派姿勢が再び台頭するなか、クレジット市場のバリュエーションは大半のセグメントで割高な水準にあります。さらに、インフレ、地政学リスク、AI投資サイクルが市場環境を一層複雑にしています。我々の見解では、取り組むべきはもはや金利やスプレッドの次の動きを予測することではありません。方向性主導の投資機会が限られる市場環境において、分散されたキャリー、十分な流動性の確保、そして銘柄間のばらつきを捉えた個別銘柄選択を通じて収益機会を追求できるポートフォリオを構築することが重要です。
タカ派の再来:新たなグローバル金利レジーム
世界の金融政策サイクルは転換点を迎えています。中央銀行の金融政策はタカ派色を強めており、利下げが見込まれていた米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行も、政策金利を据え置く公算が大きくなっています。こうした変化が短期間で逆転する可能性は低いと考えられます。労働市場は引き続き底堅く、インフレは根強いほか、FRBの新議長に対する市場の期待も、これまでよりタカ派寄りの方向へとシフトしているためです。
現在では大半の中央銀行の政策見通しが市場に概ね織り込まれていることから、金利の全体的な方向性にベットするデュレーション戦略には以前ほどの投資機会は残されていないと見ています。むしろ今後は、中央銀行がフォワードガイダンスへの依存から脱却する分、投資家自身が先行きを見通す必要性が高まると思われます。そのため、投資機会を見出すうえでは、全体的なデュレーションの方向性よりも、イールドカーブの形状や各国市場間の相対価値の分析に重点を置くことが重要になると考えられます。
リスクレーダー:インフレ、地政学、そしてAI投資サイクル
今後12カ月を見通すうえで、我々が注視しているリスクは3つあります。まず最も重要なのはインフレです。インフレがどの程度持続するのか、またどのような二次的影響を及ぼすのかによって、各中央銀行がどの程度の期間金融引き締めスタンスを続けるのかが左右されると考えています。
地政学的リスクも引き続き懸念材料です。ホルムズ海峡を巡る状勢は依然解消しておらず、米国とフランスは選挙を控えています。これらは供給網の混乱や政策運営を巡る不確実性をもたらす可能性があります。
3つ目の重要なリスクは、AI投資サイクルです。このリスクは債券の発行増加にとどまりません。株式市場で大幅な調整が生じた場合には、これまで米国経済の成長を支えてきた高所得層の消費活動に大きな下押し圧力がかかる可能性があります。これら3つのリスクは相互に関連しており、包括的に捉えることが重要であると我々は考えています。特に、AI投資、クレジット市場、株式市場が交錯する領域における動向を包括的に注視する重要性が一段と高まっています。
キャリーかスプレッド縮小か:割高なバリュエーション環境をどう乗り切るか
クレジット市場はほぼあらゆるセグメントで割高な水準にあると思われます。パブリックかプライベートか、米国か欧州か、投資適格かハイイールドかに関わらず、割安とは言い難い状況です。スプレッドの縮小余地が限られるなか、今後のリターンはこれまで以上にキャリー収益に依存することになると考えられます。しかし、我々が繰り返し指摘しているように、キャリー収益は有効なリターン源泉ではあるものの、市場環境が悪化すればその効果は失われます。重要なのは、そのキャリー収益がどの程度防御的な性質を備えているかということです。世界各国の堅固なファンダメンタルズに裏付けられたインカム収益の獲得を目指し、ディフェンシブなキャリー戦略に厳選したスプレッド縮小機会を組み合わせたポートフォリオを構築することが、その目的です。具体的には、米国ハイイールド債の一部セクターにおける短期デュレーション戦略、投資適格債のバーベル戦略、エマージング債券への選別的な投資が、過度なリスクテイクを伴うことなく魅力的な利回りを確保する手段になると考えています。モーゲージ市場については、より選別的な姿勢をとっており、新規発行の商業用不動産担保証券(CMBS)よりも、特定のデリバティブに投資妙味を見出しています。また、資本構造の上位部分へのエクスポージャーを選好しており、中期年限を中心に投資を行うとともに、スプレッド・デュレーションを抑制し、流動性を重視しています。
ばらつきが生み出す投資機会:セクター、格付け、銘柄選択
明確なベータ獲得機会が限られる市場環境において、投資成果を左右する要因として、銘柄間・セクター内のばらつきの存在感が高まっています。投資適格債市場では、セクター間のばらつきは比較的小さいものの、米国と欧州のセクター別バリュエーションには依然として差異がみられ、相対価値の投資機会を提供しています。マクロ・ファンダメンタルズの観点では米国がより有利な環境にある一方で、テクニカル要因は、欧州クレジットに有利な環境にあります。ハイイールド債市場におけるばらつきは主としてクオリティの違いから生じており、格付けの低い銘柄には慎重な姿勢を取っています。
セクター別では、ホルムズ海峡情勢を受けて、エネルギー・セクターの投資魅力が高まっています。利益成長の追い風が期待できるうえ、バリュエーションも概ね妥当な水準にあります。金融、公益事業、エネルギーを引き続き選好する一方、自動車など景気循環の影響を受けやすいセクターについては慎重な姿勢を維持しています。また、AI関連銘柄については、デュレーションの長い投資適格債よりも、データセンター案件やその他のプロジェクト・ファイナンスへの選別的なエクスポージャーのほうが魅力的であると考えています。
グローバル・マルチセクター債券投資のポジショニング:ディフェンシブ、分散、流動性を重視
アナリストとの緊密な連携を通じて有望な投資テーマの中から最適な発行体を見極めることが、確信度の高い投資アイデアの源泉であると我々は考えます。現在、債券市場を取り巻く不確実性が高いことを踏まえ、特に防御性、十分な分散投資、そして高い流動性の確保を重視しています。
クレジット
引き続きクレジットのキャリーに投資妙味を見出していますが、バリュエーション面ではスプレッドの追加的な縮小余地が限られていることから、大幅なオーバーウェイトとはしていません。投資適格債については引き続き前向きな見方を維持しているものの、バーベル戦略や、選別的な地域配分を行っています。米国と欧州の投資適格債市場の間でバリュエーションのばらつきがみられることから、ここに一定の投資機会が存在すると見ています。ハイイールド債は、ややアンダーウェイトを維持しています。市場全体のベータを追求するのではなく、アナリストとの緊密な連携により、特定のセクターにおける確信度の高い短期デュレーション銘柄の発掘に注力しています。エマージング債券については、社債よりも国債を選好しています。これは社債の魅力を否定するものではなく、現局面では流動性の重要性が高まっていると考えるためです。国債への投資は、市場に調整が生じた際に流動性の提供余地をより大きく確保できると考えます。また、高格付け銘柄よりも、投資適格債とハイイールド債の中間に位置するクロスオーバー領域に魅力的な投資機会があるとみています。証券化商品については、モーゲージ関連資産をより魅力的な投資機会へ資金を振り向けるための主たる原資として位置付けています。金利の更なる低下余地は大きくないと考えており、新規発行のCMBSやエージェンシー・パススルー証券よりも、選別的なモーゲージ・デリバティブの方が優れたリスク調整後リターンを提供すると考えます。
デュレーション
デュレーションは全体としてややオーバーウェイトとしていますが、重要なのは、そのデュレーション・ポジションをどのように構築しているかです。金利の全体的な方向性にポジションを取るのではなく、国別配分やイールドカーブ戦略に重点を置いており、カナダのデュレーション・リスクを引き続き選好しているほか、既に有意な利上げを進めているオーストラリアにも注目しています。日本については、長期国債に一定のエクスポージャーを保有していますが、日本市場全体では引き続き慎重な配分としています。米国では、引き続き2年・10年債スプレッドのフラット化ポジションに投資妙味があると見ています。ただし、今後のFRBの政策動向を踏まえると、今後はスティープ化に備えたポジショニングの余地があるかもしれません。
通貨
これまで米ドルを一定程度アンダーウェイトとしてきましたが、足元ではそのアンダーウェイト幅を戦術的に縮小する方向で検討しています。背景には、各国の金融政策の方向性の違い、欧州経済指標の軟化、米ドルの弱気ポジションの積み上がりなどがあり、これらは全て、米ドルに対する慎重姿勢をやや和らげる根拠になると考えています。また、米ドルはリスクオフ局面においてディフェンシブな特性を発揮する傾向があり、その点も米ドルに対する見方を若干引き上げる根拠となっています。もっとも、長期的・構造的な観点から見た米ドルの魅力については、なお不透明感が残っており、現時点で米ドルを大幅にオーバーウェイトする戦略には慎重です。
結論
今日のグローバル債券市場においては、これまでとは異なる発想が求められます。金利の方向性にベットする戦略の魅力度が低下し、クレジット市場全体が割高な水準にあるなかで投資成果を上げるためには、防御的なキャリーの確保、真の分散投資、そして市場の歪みが生じた際に機動的に行動できる柔軟性を兼ね備えたポートフォリオの構築が重要になると考えています。投資機会は世界中に見られますが、その分布は一様ではなく、銘柄や市場固有の要因に依拠する傾向が強まっています。十分な流動性を維持しながら投資を継続できることに加え、国、イールドカーブ、セクター、個別発行体の間のばらつきを捉えることができる投資家が、今後の市場環境を最も効果的に乗り切ることができると、我々は考えています。
当レポートの中の意見はMFSのものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。
執筆者
Pilar Gomez-Bravo
債券運用部門
共同最高投資責任者
(Co-CIO)
Benoit Anne
シニア・マネージング・
ディレクター
ストラテジー・アンド・
インサイト・グループ