2023年09月
サステナビリティに対する構成主義的アプローチ
本稿では、スチュワードシップにおける構成主義的アプローチの概要と具体的な事例についてご説明します。
MFSは、Value maker(付加価値の創造者)となることを目指しており、建設的なスチュワードシップ活動がこの目標の達成に資すると考えています。単にお客様の資産を運用するだけではなく、投資先企業について理解を深め、協働する姿勢で建設的なスチュワードシップ活動を行うことが長期的な価値の創造につながると確信しています。こうした取り組みはファンダメンタルズリサーチの一環であり、結果として超過収益の源でもあります。
資産運用業界では、スチュワードシップを重視するのは、アクティビストかパッシブ運用者のいずれかであるというのが一般的な認識となっているように思われますが、これには同意しかねます。MFSは、効果的にスチュワードシップ活動を行うには様々なアプローチがあると考えます。オックスフォード大学の研究者はスチュワードシップのアプローチの4つの形態(保守主義、日和見主義、構成主義、積極行動主義)に関する研究を発表しています。
MFSは構成主義のグループに属します。これはエスカレーションに消極的ということではなく、投資先企業との信頼関係に基づいた定期的な対話こそが良い成果をもたらすという考え方です。
特徴 |
手法 |
スチュワードシップ活動において、長期的かつ建設的なアプローチを通じて成果を得ることは、結果的にお客様に満足いただけるような価値をご提供するための最善の方法であると考えています。MFSでは、運用プロセスの一環としてのこうした取り組みがお客様の価値の創造につながると確信しています。今後も下記のようなアプローチを用いてスチュワードシップ活動を行ってまいります。
MFSが構成主義的なエンゲージメント手法を用いて投資先企業に影響を与えうる課題に対処した事例をご紹介します。
運用部門のメンバーは、取締役会の監督と会社の意思決定に関する重要なガバナンス上の懸念について、複数回にわたり同社と対話を行いました。同社は日本で最も利益率の低いITサービス企業であると同時に、最も収益率が低い不動産デベロッパーでもありました。同社の財務状況、縁故主義、独立性の欠如、取締役会の機能不全を理由に、外部のアクティビスト(物言う株主)が、最高経営責任者を含むすべての執行取締役の再任に反対し、独立社外取締役の選任を求める株主提案を提出しました。
MFSは同社経営陣に対する懸念事項の多くに同意し、独立取締役の選任を求める株主提案に賛成しました。2022年末までに、同社の株価は日本のITサービス企業のなかでもトップクラスのパフォーマンスを上げました。このことは、同社の株価パフォーマンスがコーポレート・ガバナンスと不適切な資本配分に影響されたものというMFSの判断が正しかったことを示唆しており、これは経営陣と対話を重ねていなければ、分からなかったことです。
2021年、MFSは投資先企業上位700社宛てに「クライメート・レター」を送付しました。この書簡は気候変動に関連するリスクと機会に関する財務上のマテリアリティ(重要課題)について企業の認識を高め、適切な炭素排出量の開示と目標設定の促進を目的とするものでした。多くの企業から前向きな反応が寄せられましたが、その中でも米・イスラエル系ソフトウェア企業のチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズは、2022年にカーボン・ニュートラルへの取り組みを実際に開始しました。同社の経営陣からは、MFSの書簡がこの目標設定に影響を与えたことを示唆するメールが届きました。
投資は本質的に難しく、どんなに熟練した投資家でも常に正しい判断ができるとは限りません。投資の複雑さを説明するために、期待通りの結果が得られなかった事例とそこから学んだ貴重な教訓をご紹介します。このように自らを省みることは、将来のより良い投資判断につながると考えます。
2021年、MFSは米国のソフトウェア企業アクティビジョンの企業文化と労働環境について深刻な懸念を抱いていました。これらの懸念から、MFSのアナリストは「買い」から「中立」にレーティングを変更し、一部のポートフォリオ・マネジャーは同社の株式を売却しました。同社のその後の四半期報告書で、企業文化が市場の期待するスケジュールでの新作リリースを妨げているということが明らかになり、MFSの懸念が裏付けられました。これにより同社の株価は大幅に下落しました。しかしその直後に、マイクロソフトが同社を買収することで合意しました。この事例は、財務上重要なサステナビリティのトピックについての判断が「正しい」場合でも、必ずしもその銘柄を売却したり見送ったりすべきとは限らないことを示しています。お客様にとって最良の成果を出すためには、特定の要因を過小評価したり過大評価したりしないように努め、あらゆるファンダメンタルズ要因を総合的に検討する必要があります。
これとは別の事例として、長年にわたり保有してきたドイツの製薬企業バイエルが挙げられます。同社は、農薬・種子大手の米モンサント買収後に製造を開始した化学薬品の健康被害ついて、深刻な論争に直面してきました。買収当時のMFSの見解は、親会社の経営陣が新子会社の資産や製品(例えば干ばつに強い種子など、極めて需要の高いもの)の所有者として、より責任を果たすだろうというものでした。残念ながら、MFSはテーマとリスクについて継続的かつ詳細なリサーチを行ったにもかかわらず、これらの製品に関連する訴訟リスクを適正に評価できていませんでした。法的リスクはそれまでに判明しているものよりも小さく、同社事業の他のプラス面がそれを相殺するものと考えていましたが、これまでのところ期待通りの状況ではありません。この事例でも、財務上の重要課題の複雑さと、関連するすべてのファンダメンタルズ要因を正確に考慮することの重要性がよく分かります。
MFSにおいてサステナブル投資がどのように実践されているかについて詳しくは、MFSのウェブサイト(www.mfs.com/sustainability)をご覧いただくか、MFSの担当者にご連絡ください。
サステナブルな投資アプローチは必ずしも良好な結果を保証するものではないことにご留意ください。