概要
- MFSでは、長期アクティブ運用アプローチの一環として、独自のEM ESGダッシュボードなどのツールを用いてエマージング諸国のリスクをモデル化しています。また、発行体とのエンゲージメントを通して、ESG要因が発行体に与える影響を深く理解するよう努めています。
- エネルギー転換においても、エマージング諸国特有のダイナミクスがあり、また、リスクもあります。投資判断を行う際には、これらを考慮することが肝要です。
分散投資のメリットや魅力的なリターンへの期待など、エマージング諸国への戦略的資産配分を検討する理由は様々であると考えます。世界銀行の短期予測によれば、中国を除くエマージング諸国・途上国(EMDE)における2026年と2027年の投資成長率はそれぞれ3.7%と4.0%であるのに対し、先進国では2.6%と2.7%となっています1。
MFSのリサーチによると、物理的な気候リスク、天然資源管理、社会的安定性、教育の質、所得格差、法の支配、労働者の権利、国民の発言力と説明責任などは、エマージング諸国の発行体の信用力を示す指標となりえます。こうした要因が発行体に及ぼす影響を理解することは、デフォルトの可能性やクレジット・スプレッドの変動予想を見極める上で極めて重要です。また、これらのリスクの評価には、個々の要因の重要度が鍵となります。
本稿では、MFSがエマージング債券投資において気候変動などのESG要因をどのように評価しているか、また、エマージング諸国におけるエネルギー転換に関連する疑問などについて取り上げます。
MFSのアプローチ
1. ESGダッシュボードを用いて重要なリスク要因を評価・モデル化
MFSは、様々な指標を基にした独自のESGダッシュボードを開発しました。アナリストやポートフォリオ・マネジャーは、投資の意思決定プロセスでこのダッシュボードを活用しています。ダッシュボードでは、各国の発展度合いに応じた発行体のESGパフォーマンスを、一貫性があり且つ標準化された形で確認・比較することができ、財務報告書に記載されているデータ以外の様々な重要なリスクや投資機会を理解するのに役立ちます。ダッシュボードを利用する際は、通常、以下の2点に着目します。
a. 相対比較:国の場合は各国の発展度合いに鑑みた上でESG指標を比較。企業の場合は同業他社比での各発行体のESG指標を比較
b. 将来の見通し:ESG指標の今後を予測(改善するか悪化するか)
ESGダッシュボード上のデータは、信頼性の高い様々なデータソースから取得しています。データソースの選択に当たっては、エマージング諸国全体を幅広くカバーしていること、データの仕組み、長期的な実績があるかなどを考慮します。
伝統的なESGデータは、ESGの各要因に対して任意の基準(例えば、ESGの各要因を3分の1ずつウェイト付けするなど)を用いる傾向にあります。一方、MFSのESGダッシュボードは、定量的なバックテストに基づく長期的な相関に基づき、各要因をウェイト付けします。マテリアリティ(重要性)は日々変化するものであり、様々な回帰分析を継続的に実施することで、マテリアリティの度合いが変化しているかどうかを判断します。こうした変化を考慮し、ESG 要因の比重に反映させます。
エマージング諸国への投資においてガバナンスが最も重要であることは広く認識されていますが、環境要因や、教育やヘルスケアなどの社会的要因も重要性を増しています。ダッシュボードではESGの各要因のウェイトを基本ウェイトである15%、35%、50%としているケースもありますが、MFSのアナリストは発行体ごとの各要因の重要性を適切に反映させるためにウェイトを適宜調整することができます。
MFSのアナリストとポートフォリオ・マネジャーは、財務報告書以外の様々な重要なリスクや投資機会の理解を深めるためにESGダッシュボードを利用しています。ESGデータは、エマージング諸国全体をカバーするとともに、広範かつ十分に意味のある、評価の高いソースから取得しています。
ESGダッシュボードでは、ある国の非伝統的なマクロ経済データについて、様々な時間軸で確認したり、属する地域の観点から比較することができます。
このダッシュボードは重要なESGリスクの将来的な評価を示すものではありませんが、将来的なトレンドやファンダメンタルズの変化を示すことにより、ESGリスクの将来的な変化について十分な情報を提供するツールとして活用されています。
2. エンゲージメントと説明責任
発行体の評価に当たっては、短期的なリスクだけでなく長期的なリスクも考慮した総合的なアプローチが必要です。また、債券保有者として発行体とオープンなコミュニケーションを取ることも極めて重要であると考えます。多くの投資家がESG課題に関心を寄せるなか、MFSは長期的視点を持つ資産運用会社として、政府高官や企業幹部などにESG課題について十分な検討の必要性を認識するよう働きかけることで、ガバナンスや事業慣行にポジティブな影響を与えられると考えます。MFSのエマージング債券運用に携わるポートフォリオ・マネジャーやクレジット・アナリストは、政府高官、企業幹部、野党政治家、エコノミスト、学者、ジャーナリストやコンサルタントと年間を通じて数百回のミーティングを行っています。これらのミーティングには、発行体の理解を深めることを目的としたものだけでなく、発行体への影響の大きいトピックについて深く議論するためのエンゲージメントも含まれます。
チリおよびウルグアイとエンゲージメントを行った際、MFSは両国のファンダメンタルズが堅固であること、野心的な持続可能な開発目標を掲げていること、加えてマクロ政策の枠組み強化を目的とした国内改革が進展していることに注目しました。両国のソブリン・サステナビリティ・リンク・ボンド(SSLB)およびサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)を買い入れる際に、エンゲージメントを通じて得た情報を活用しました。これらの債券には、2030年までに温室効果ガス排出量削減目標を達成することや、2031年までの取締役会のジェンダー多様性向上といった、主要指標の目標達成度に応じてクーポンを段階的に変更する条項が盛り込まれています。その点で、両国はSSLBやSLBのパイオニア的存在ともいえます。
MFSは継続的なリスク評価プロセスの一環として、ポートフォリオレベルでのリスク・レビューを年次で実施しています。このレビューによって、ポートフォリオの重要なESGリスクを独自に評価し、ESGリスクに対する理解を深めています。
なお、発行体とエンゲージメントを行う際は、現地の規範を尊重し、画一的なアプローチを採らないように注意を払っています。
エマージング諸国のエネルギー転換への対応
エマージング諸国は、経済成長と、手頃な価格のエネルギーへのアクセスおよびエネルギー安全保障の確保を両立させる一方で、炭素集約的な発展経路を回避しなければならないという課題に直面しています。その課題も変化しています。中国は過去5年間にわたり、国内の再生可能エネルギーやグリーンテクノロジーへ積極的な投資を行ってきました。その結果、生産コストの低下が進むとともに、中国主導の投資や輸出を通じて、こうした技術の世界的な普及が促進されています。多くのエマージング諸国にとって、この動きはエネルギー移行の意義を、単なる気候変動対策という枠組みから、経済性、レジリエンス(強靭性)、エネルギー安全保障とも結び付いた枠組みへと変化させています。最近の地政学的緊張の高まり、とりわけホルムズ海峡を巡る懸念は、この点を改めて浮き彫りにしました。再生可能エネルギーの導入が進み、エネルギー源の多様化が進展している国は、化石燃料の供給ショックに対する耐性が相対的に高い可能性があります。一方、中国のグリーンテクノロジーを巡る役割については、一部の先進国において依然として政治的な論争の対象となっています。特に欧州では、産業政策、国際競争力、サプライチェーンへの依存といった懸念が引き続き議論の方向性を左右しています。
これは、エマージング債券投資において、エネルギー移行を気候変動政策だけで評価するのではなく、より広い視点から捉える必要があることを意味します。移行リスクや座礁資産リスクは依然として重要な考慮事項ですが、それらは特定のセクターや政策環境にますます集中しつつあります。とりわけ、石炭関連資産や、経済環境、規制動向、地政学的要因の変化に影響を受けやすい資産において、その重要性が高まっています。こうしたリスクがどの分野で実質的な影響を持つのか、またどの分野では転換の進展がむしろレジリエンスや競争力の向上につながるのかを見極めることは、投資判断を行う上で不可欠です。
1. エネルギー転換および座礁資産リスク:転換リスクはエマージング諸国において引き続き重要なテーマであるものの、その影響は一様ではありません。特に石炭への依存度は、政策変更の可能性や電力セクターの経済性の変化、さらには国際的な資金供給主体からの圧力といった観点から、引き続き重要な分析対象となっています。投資家は、各国のエネルギー転換に向けた道筋がどの程度信頼性を有し、経済的に実現可能であるかを評価する必要があります。その際には、既存および計画中の化石燃料関連資産への影響に加え、財政収入、雇用、エネルギー安全保障への影響についても慎重に検討することが必要です。
2. ソブリン債の資金調達と資金使途:ソブリン・グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、およびサステナビリティ・リンク・ボンドは、引き続きエネルギー転換を支える重要な資金調達手段であるものの、一部市場では発行の勢いが鈍化しています。こうした状況を受け、プロジェクト選定の妥当性、資金使途の枠組みの信頼性、発行体のインセンティブ、さらには投資家が取るリスクに見合ったリターンを得られているかが再検討されています。このため、グリーンボンドなどを呼称する債券への投資においては、名称そのものと同様に、その裏付けとなる枠組みの質や重要性を評価することが引き続き重要であると考えます。
3. AI、電力需要と競争優位性:エマージング諸国におけるAI関連投資の機会はまだ初期段階にあり、その発展は地政学、インフラの整備状況、資源制約などの要因に大きく左右されると考えます。各国はデータセンターやデジタルインフラ投資の誘致を競うとみられますが、信頼性の高いエネルギー、水、そして十分な送配電インフラを提供できるかどうかが重要な差別化要因となるでしょう。そのため、この投資機会を評価するにあたっては、家庭への電力供給、産業発展、気候変動への適応といった国内需要とのバランスを踏まえながら検討することが重要であると考えます。
4. 気候変動に対するレジリエンスと適応するための政策、およびエネルギー安全保障:気候変動リスクは、異常気象、水不足、農業の混乱など、エマージング諸国に深刻な問題をもたらしています。一方で、近年はエネルギー安全保障が投資判断における重要な論点として、これまで以上に注目されています。再生可能エネルギー技術のコスト低下は、一部の国々においてエネルギー輸入への依存度を低下させるとともに、商品価格の変動による影響に対する耐性を高める可能性があります。投資家は、排出削減計画のみならず、気候変動への適応戦略、送配電インフラへの投資、蓄電能力の整備状況に加え、エネルギー転換関連投資がマクロ経済全体のレジリエンス強化にどの程度貢献しているかを総合的に評価することが重要であると考えます。
5. 規制環境の分断化と政策の多様化:気候変動やエネルギー政策を取り巻く環境は、国・地域ごとの差異が拡大しています。気候関連規制を強化する国・地域がある一方で、経済性やエネルギー安全保障への配慮から規制導入のペースを緩める、あるいはより実務的な対応を重視するケースも見られます。このような政策スタンスの違いは、エマージング諸国の発行体に新たな投資機会をもたらす一方で、新たなリスク要因ともなり得ます。そのため投資家は、各国・地域における政策の方向性とその実効性を見極めるとともに、世界の貿易動向、産業政策、サプライチェーン再編がエネルギー移行の行方に与える影響についても評価することが重要であると考えます。
ケ ーススタディ:モロッコ
ケ ーススタディとして、モロッコのソブリン債の評価にESG要因をどのように組み込んでいるかをご紹介します。
- モロッコはエネルギー・食品の輸入への依存度が高く、また、干ばつなど気候変動に関連した様々なリスクに直面しています。
- 一方、ヘルスケア、教育、労働参加など重要な構造的問題には適切に対応しており、改善がみられます。そのほか、再生可能エネルギーや水への投資も行っています。また、モロッコは政治情勢が比較的安定しており、行政機関も健全な運営がなされていることから、今後も様々な課題に適切に対処できるとみられます。
- 上述の情報は、モロッコへの投資を検討する上で重要な要素であると考えます。究極的には、発行体のESG課題への取り組みが奏功し、バリュエーションの改善につながることを期待しています。発行体との緊密なエンゲージメントは、この目的を達成するための重要なアプローチであると考えます。
図表3:モロッコのソブリン債 - ESG評価
環境
干ばつリスクとエネルギー依存
- 経済活動が天水農業(雨水に依存した農業)に集中しているため、干ばつリスクが異常に大きい
- 干ばつは食品の輸入依存度を上げ、特に貧しい農村部に悪影響を及ぼす
- 石油輸入が対外赤字を押し上げる
政府による緩和策
- 経済の多様化に向けた効果的な政策の遂行
- 再生可能エネルギー生産と水の安全への多額の投資(太陽光発電に大きな可能性)
社会
健康の増進:
貧しい農村部における
- 死亡率の低減、伝染病の撲滅、平均寿命の延長
教育問題:
2019年教育法の施行により、以下の課題が解決されることを期待
- 高校中退率の高さ、国際的な学力テストにおける低スコア、限定的なSTEM教育
不均一な労働参加:
以下の問題が製造業の健全な発展を妨げている
- 若年層の失業率の高さ、女性の労働参加率の低さ(20%未満)
ガバナンス
相対的に安定
- 安定し尊重されている君主制
- 法の支配、政府の有効性および質の高い行政機関といった健全な制度が確立されている
新型コロナへの対応
- 新型コロナおよび地震災害関連の資金を調達し、効率的に配分
- 大きな反発を招くことなく、広範な社会扶助プログラムを適切に実行
上記は例示のみを目的としており、いかなる性質の推奨または助言としてみなされるものではありません。
モロッコの大規模な構造問題は、徐々にではあるが大きく改善している
結論
エマージング債券投資で成功するには、様々な観点から複雑で不確実な課題を分析することが必要です。MFSは、統合的な投資アプローチ、重要なリスク要因のモデル化、およびエンゲージメントを活用する手法により、投資機会を十分に活用しながらリスクを効果的に管理しつつ投資機会を捕捉するよう努めてまいります。
巻末脚注
Global Economic Prospects. June 2026. World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/server/api/core/bitstreams/2106db86-a217-4f8f-81f2-7397feb83c1f/content
MFSは、発行体との対話において、投資判断やファンダメンタルズ分析、エンゲージメントに環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を組み入れる場合があります。当レポートでの記述や例は、MFSが一部の発行体の分析または発行体との対話において、ESG要因を組み込んだケースを例示したものですが、すべてまたは個別の状況における投資またはESG行動、エンゲージメントにおいて成果をもたらされることを保証するものではありません。MFSは、ESGトピックに関するエンゲージメントを含め、企業とのエンゲージメントを行う際、MFSのお客様の長期的な経済的利益に資する十分な情報に基づいた投資判断を行うことができるよう、企業の長期的な経済的バリュエーションにとって重要となり得る事項について議論し、情報を収集し、適切な透明性を追求することに重点を置いています。MFSは、企業の支配権の変更や影響を与えることを目的としてエンゲージを行うことはありません。エンゲージメントは通常、発行体との継続的なコミュニケーションで構成されます。発行体とのエンゲージメントが必ずしも発行体のESG関連の取り組みに直接変化をもたらすとは限りません。当レポートで示されているような投資やエンゲージメントの成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資判断や投資分析、エンゲージメントにどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があり、通常、特定のESG要因の関連性と重要性に関するMFSの見解(投資家を含む第三者の判断や意見とは異なる場合があります)に基づいて決定されます。当レポートで示されている例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因をも代表するものではありません。MFSによるESG評価やESG要因の組み入れは、第三者(投資先企業やESGデータベンダーを含む)から入手したデータに依拠する場合があります。これらのデータは、不正確、不完全、一貫性がない、最新でない、または推定値である可能性があり、投資先やそのバリューチェーン全体のサステナビリティに関する特性や行動ではなく、特定のESG側面のみを考慮している可能性があるため、投資に関連するESG要因に関するMFSの分析に悪影響を及ぼす可能性があります。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきでありません。
当レポートの中の意見は予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
考慮すべき重要なリスク:債券に投資する場合、発行体、借り手、取引相手もしくはその他の支払義務を負う主体、原資産の信用力の低下、あるいは経済的状況、政治的状況、発行体固有の状況もしくはその他の状況の変化による結果として、またはその影響により、価値が低下することがあります。特定の種類の債券は、これらの要因による影響が大きいことから、ボラティリティが上昇する可能性があります。また、債券には金利リスクが伴います(金利が上昇すると、価格は下落します)。したがって、金利上昇時にはポートフォリオの価値が減少する可能性があります。
エマージング市場は、先進国市場に比べて市場の構造化および深化が進んでおらず、規制上、保管・管理上または運営上の監視制度が十分に発達しておらず、政治的、社会的、地政学的、経済的な不安定性が高い場合があります。
当レポートは機関投資家を対象とした一般的な情報提供のみを目的としたものであり、特定の投資目的、財務状況、特定の個人のニーズを考慮したものではありません。当レポートで示されている証券およびセクターは例示のみを目的としており、投資推奨として依拠すべきではありません。投資にはリスクが伴います。過去の運用実績は将来の運用成果を示唆するものではありません。当レポートに含まれる情報は、MFSによる明示的な同意なしに複写、複製、再配布することはできません。情報には正確性を期していますが、予告なく変更される場合があります。MFSは、いかなる誤謬または脱落もないことを保証または表明しておらず、また情報が特定の個人が意図する利用に適していることを保証するものではありません。法により免責されない場合を除いては、MFSは不正確性や、当レポートに基づき個人が下した投資判断やその他行動に対して責任を負いません。MFSは当レポートの個人投資家への配布を許可していません。
執筆者
Pelumi Olawale, CFA
クストラテジスト
ストラテジー・アンド・
インサイト・グループト
Katrina Uzun
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
Aimee Kaye
エマージング・マーケット・
ソブリン・リサーチ・
アナリスト