2023年10月
エマージング債券:ESGリスクと不確実性への対応
エマージング債券への投資で成功するには、様々な観点から複雑で不確実な課題に対する分析を行う必要があります。本稿では、統合的な投資アプローチと重要なリスク要因を特定しモデル化する手法により、投資機会を十分に活用しながらリスクを効果的に管理するMFSのアプローチについてご説明します。
Pelumi Olawale, CFA, ACA
クライアント・サステナビリティ・ストラテジー
リード・アナリスト
Katrina Uzun
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
Aimee Kaye
エマージング・マーケット・ソブリン
リサーチ・アナリスト
分散投資のメリットや魅力的なリターンへの期待など、エマージング諸国への戦略的な資産配分を検討する理由は様々であると考えます。世界銀行の短期予測によれば、中国を除くエマージング諸国・途上国(EMDE)における2023年と2024年の投資の伸び率(平均)はそれぞれ3.0%と5.1%であるのに対し、先進国は0.7%と2.0%となっています1。
MFSの調査では、物理的な気候リスク、天然資源管理、社会的安定性、教育の質、所得格差、法の支配、労働者の権利、国民の発言力と説明責任などは、エマージング諸国の発行体の信用力を示す指標となりえます。こうした要因が発行体に及ぼす影響を理解することは、デフォルトの可能性やクレジット・スプレッドの変動予想を見極める上で非常に重要です。しかし、これらのリスクの評価には、個々の要因の重要度が鍵となります。
本稿では、MFSがエマージング債券への投資において気候変動などの重要なESG要因をどのように考慮しているか、また、エマージング諸国におけるエネルギー転換に関連する問題について取り上げます。
1. ESGダッシュボードを用い、重要なリスク要因を評価・モデル化
MFSでは、様々な指標を基にした独自のESGダッシュボードを開発しました。アナリストやポートフォリオ・マネジャーは、投資の意思決定プロセスでこのダッシュボードを活用しています。ダッシュボードでは、各国の発展度合いに応じた発行体のESGパフォーマンスを、一貫性があり標準化された形で確認・比較することができ、財務報告書に記載されているようなデータ以外の様々な重要なリスクや投資機会を理解するのに役立ちます。ダッシュボードを利用する際は、通常、以下の2点に着目します。
a. 相対比較:国の場合は各国の発展度合いに鑑みた上でESG指標を比較。企業の場合は同業他社比での各発行体のESG指標を比較
b. 将来の見通し:ESG指標の今後を予測(改善するか悪化するか)
ダッシュボードで利用するESGデータは、信頼性の高い様々なデータソースから取得しています。データソースの選択に当たっては、エマージング諸国全体を幅広くカバーしていること、データの仕組み、長期的な実績があるかなどを考慮します。
伝統的なESGデータは、ESGの各要因に対して画一的な基準(例えば、ESGの各要因を3分の1ずつウェイト付けして格付けを算出するなど)を用いる傾向にあります。一方、MFSのESGダッシュボードは、定量的なバックテストに基づき、長期的な相関から導き出した影響度および関連性をESGの各要因の分析において考慮します。マテリアリティ(重要性)は日々変化するものであり、様々な回帰分析を継続的に実施することで、マテリアリティの度合いが変化しているかどうかを判断します。こうした変化を考慮しESG要因の比重を見直します。
エマージング諸国への投資においてガバナンスが最も重要であることは広く認識されていますが、教育や健康などの社会的要因も重要です。また、環境要因の重要性も徐々に高まっています。現在、ESGダッシュボードではESGの各要因の基本ウェイトを15%、35%、50%としていますが、MFSのアナリストは発行体ごとの各要因の重要性を適切に反映させるためにウェイトを適宜調整することができます。
MFSのアナリストとポートフォリオ・マネジャーは、財務報告書以外の様々な重要なリスクや投資機会の理解を深めるためにESGダッシュボードを利用しています。ESGデータは、エマージング諸国全体をカバーするとともに、広範かつ十分に意味のある評価の高いデータソースから取得しています。
ESGダッシュボードでは、非伝統的なマクロ経済データについて、様々な時間軸で確認したり、地域という観点から比較することができます。
ESGダッシュボードは重要なESGリスクの将来的な評価を示すものではありませんが、将来的なトレンドやファンダメンタルズの変化を示すことにより、ESGリスクの将来的な変化について十分な情報を提供するツールとして活用されています。
2. エンゲージメントと説明責任
発行体の評価に当たっては、短期的なリスクだけでなく長期的なリスクも考慮した総合的なアプローチが必要です。また、債券保有者として発行体とオープンなコミュニケーションを取ることも極めて重要であると考えます。多くの投資家がESG課題に関心を寄せるなか、MFSは長期的視点を持つ資産運用会社として、政府高官や企業幹部などにESG課題について十分な検討の必要性を認識するよう働きかけることで、ガバナンスや事業慣行にポジティブな影響を与えられると考えます。MFSのエマージング債券運用に携わるポートフォリオ・マネジャーやクレジット・アナリストは、政府高官、企業幹部、野党政治家、エコノミスト、学者、ジャーナリストおよびコンサルタントと年間を通じて多くのミーティングを行っています。これらのミーティングは、発行体の理解を深めることを目的としたものだけでなく、発行体への影響の大きいトピックについて深く議論するためのエンゲージメントも含まれます。
チリおよびウルグアイとエンゲージメントを行った際、MFSは両国のファンダメンタルズが堅固であること、野心的な持続可能な開発目標を掲げていること、加えてマクロ政策の枠組み強化を目的とした国内改革が進展していることに注目しました。両国のソブリン・サステナビリティ・リンク・ボンド(SSLB)およびサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)を買い入れる際に、エンゲージメントを通じて得た情報を活用しました。これらの債券は、2030年までに温室効果ガス排出量削減目標を達成することや2031年までの取締役会のジェンダー多様性向上といった主要指標の目標達成度に応じてクーポンを段階的に変更する条項が盛り込まれています。両国は、SSLBやSLBのパイオニア的存在ともいえます。
MFSは継続的なリスク評価プロセスの一環として、ポートフォリオレベルで年次のサステナビリティ・リスク・レビューを実施しています。このレビューによって、ポートフォリオの重要なESGリスクを独自に評価し、ESGリスクに対する理解を深めています。
なお、発行体とエンゲージメントを行う際は現地の規範を尊重し、画一的なアプローチを採らないように注意を払っています。
エマージング諸国は、経済成長、安価なエネルギーへのアクセスおよび貧困問題解消という問題にバランスよく対処する必要がある一方、炭素集約度の上昇も回避しなければなりません。「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」は、石炭に依存するエマージング諸国が、脱石炭のために自ら定めた目標達成に向けて資金調達することを目的とした新たなファイナンス・メカニズムです2。さて、エマージング債券の投資家にとって、エネルギー転換はいかなる意味を持つのでしょうか?また、投資家はエネルギー転換による経済への影響をどう捉えるべきなのでしょうか?
ケーススタディとして、モロッコのソブリン債の評価にESG要因をどのように組み込んでいるかをご紹介します。
上記は例示のみを目的としており、いかなる性質の推奨または助言としてみなされるものではありません。
エマージング債券への投資で成功するには、様々な観点から複雑で不確実な課題に対する分析を行う必要があります。MFSは、統合的な投資アプローチ、重要なリスク要因のモデル化およびエンゲージメントを活用する手法により、投資機会を十分に活用しながらリスクを効果的に管理しつつ投資機会を捕捉するよう努めてまいります。
1 Global Economic Prospects. June 2023. World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/server/api/core/bitstreams/2106db86-a217-4f8f-81f2-7397feb83c1f/content (Accessed: 01 September 2023).
2 Just Energy Transition Partnerships: An opportunity to leapfrog from coal to clean energy. International Institute for Sustainable Development (iisd.org).
3 (2016) Energy transition after the Paris Agreement – OECD. Available at: https://www.oecd.org/sd-roundtable/papersandpublications/Energy%20Transition%20after%20the%20Paris%20Agreement.pdf.
4 The life cycle of oil and Gas Fields (no date) Planète Énergies. Available at: https://www.planete-energies.com/en/media/article/life-cycle-oil-and-gas-fields#:~:text=Oil%20and%20gas%20fields%20generally,the%20 very%20high%20extraction%20costs.
5 (2019) Discussion paper leaving no one behind planning for a just transition. Available at: https://unglobalcompact.org.au/wp-content/uploads/2019/08/2019.08.27_Just-Transition-Discussion-Paper.pdf.
MFSは、環境、社会、ガバナンス(ESG)要因が発行体の経済価値に重大な影響を与えると考える場合、伝統的な経済的要因とともにESG要因をファンダメンタルズ分析において考慮する場合があります。ESG要因がどの程度考慮されリターンに影響を与えるかどうかは、投資戦略、資産クラス、地域・地理的エクスポージャー、特定のESG問題に対する運用プロフェッショナルの見解や分析など、多くの要因に左右されます。ESG要因は投資判断の唯一の根拠となるわけではありません。MFSは、ESG要因を発行体とのエンゲージメント活動に盛り込むことがありますが、これらのエンゲージメント活動が必ずしも発行体のESG関連活動に変化をもたらすとは限りません。発行体の状況は様々な要因に基づいており、上記のような有利な投資成果やエンゲージメント成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資分析やエンゲージメント活動にどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があります。従って、上記の例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因を代表するものではありません。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきでありません。
サステナブルな投資アプローチは必ずしも良好な結果を保証するものではなく、ESG要素を投資プロセスに組み込んだ投資アプローチを含め、すべての投資は投資元本を割り込む可能性などを含む一定のリスクを伴うことにご留意ください。
当レポートの中の意見は予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
当レポートは、機関投資家を対象に一般的な情報提供のみを目的としており、特定の投資目的、財務状況、特定のニーズを考慮したものではありません。特定の有価証券や業種への言及がある場合は例示目的であり、それらは投資の推奨と解釈されるべきものではありません。投資にはリスクが伴い、過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。MFSの明示的な許可を得ずに、当レポートの複写、複製、再配布を行うことを禁じます。記載の情報の正確性については万全を期していますが、予告なく変更することがあります。MFSは、当レポートに誤謬または脱漏がないこと、および当レポートに含まれる情報が特定の利用者の用途に適合することを保証するものでもありません。法令に基づく責任を除外できない場合を除き、当レポートの不正確性または当レポートに基づいて下した投資判断やその他の行為について、MFSは一切の責任を負わないものとします。当レポートは、個人投資家の利用を目的としたものではありません。