Sustainability Insight
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隠れた資本: 企業文化がパフォーマンスを形成するメカニズム

本稿では、英オックスフォード大学との共同研究を通じて明らかになった、株価パフォーマンスを左右する「企業文化」という無形資本の検証結果をご紹介します。

執筆者 

Pelumi Olawale, CFA
ストラテジスト
ストラテジー・アンド・
インサイト・グループ

無形資本が有形の優位性をもたらすパラドックス

好調な四半期決算を受け、株価が急上昇している企業があるとします。投資家は歓喜し、アナリストも満足げに頷いています。しかし、その水面下には、数字よりもはるかに揺るぎない何かが隠れています。貸借対照表には表れないものの、企業の繁栄と衰退をひそかに左右する力、それが「企業文化」です。

MFSは、英オックスフォード大学と共同で、株価リターンと企業文化との関係についての研究を行いました。経験則や印象論にとどまらず、企業文化が株価リターンの重要な原動力であることを定量的に検証することが、この研究の目的です。分析を通じ、企業文化は単なるスローガンにとどまらず、無形資本であるという、非常に興味深い結果が得られました。「企業文化」は、希少性が高く、模倣が困難で、持続的な競争優位性を生み出す力を持っています。そして他の形態の資本と同様に、配当を生み出すことも可能です。時に、短期的な予想を覆すレベルの配当です。

なぜ今、企業文化が重要なのか

市場は数値を重視する傾向があります。過去数十年を振り返ると、キャッシュフロー、利益率、バリュエーション倍率といった定量的指標が注目されてきました。しかし、景気サイクルが転換し、ボラティリティが上昇するにつれ、投資家はかねてより学術界が指摘してきた事実を再認識しています。それは、「定性的」とみなされてきた指標が、実際には定量的指標でもあるということです。企業文化は水面下で静かに蓄積し、企業の適応力、レジリエンス(耐性)、そして信頼を形成していきます。

オックスフォード大学との共同研究では、5,900社を対象に過去20年間に開催された約627,000件の決算説明会を分析し、自然言語処理(NLP)を活用して、イノベーション、誠実性、質、尊重、チームワークという5つの企業文化の要素を抽出・可視化しました。研究結果からは、イノベーションなど一部の要素は体系的に市場から評価される一方、誠実性やチームワークなどの要素は状況に応じて微妙に異なるリターンをもたらすという、各要素が一様ではない実態が浮かび上がりました。

3つの重要事例

1. イノベーション:適応力を示す要素

イノベーションは単なる流行語ではありません。企業の生存本能とも言える要素です。コミュニケーション・サービス、情報技術、金融などの知識集約型セクターでは、イノベーションはより高いリターンを予測する要因となり、回帰係数は0.23に達しました(図表1に示すように、金融セクターのイノベーションのスコアが1単位上昇すると、1カ月後の超過リシーンが23ベーシスポイント上昇すると予測されます。これは、株式市場において重大な効果です)1。オックスフォード大学の分析によれば、イノベーションは企業文化の要素の中で長期・短期共に最も優れたパフォーマンスをもたらしており、20年間の分析対象期間で約102%の累積超過リターンを生み出しています。

イノベーションが高いリターンにつながるのはなぜでしょうか。それは市場が企業の適応力を概して過小評価しているからです。2008年の世界金融危機や新型コロナウイルス感染拡大など、危機の発生時にはイノベーションの付加価値が急上昇します。このような局面では、素早く方向転換し、新たな試みに挑戦し、自己変革できる企業に投資家が殺到します。

例:新型コロナウイルス時のModerna

パンデミック以前、Modernaには商業化された製品はありませんでした。ただ、自律的な研究環境、透明性の高いデータ共有、開発サイクルの速さという企業文化が組織に根付いていました。パンデミックが発生した際、同社はその企業文化を基盤に開発期間を短縮し、遺伝子配列の特定からワクチン候補の開発まで、わずか数週間で進めることに成功しました。市場はModernaの技術力を評価したのみならず、環境変化を上回るスピードで前進する組織能力も再評価しました2

しかし、イノベーションは無償で得られるものではありません。トレードオフを伴います。今回の研究によれば、イノベーションは歴史的に、資産の増加率や売上成長率の鈍化と関連してきたことも示されました。イノベーティブな企業は研究開発に多額の投資を行うため、短期的な収益を犠牲にする一方で、長期的なレジリエンスを確保しています。

2. チームワーク:水面下でレジリエンスを構築する要素

チームワークが注目の的になることはほとんどありません。むしろ、チームワークは多くの場合、市場でマイナスに評価されます。エネルギー、素材、資本財・サービスなどのセクターでは、チームワークは短期リターンを低下させると予測され、特にエネルギーセクターでは、回帰係数は­0.21と最も低い値が示されました1。効率性が優先される局面では、協働は非効率に映るからです。

しかし、危機が訪れると、チームワークは足かせから命綱へと変わります。オックスフォード大学の研究によれば、市場全体にストレスが広がっている局面では、チームワークは大きなプラス(回帰係数は最大で0.110)をもたらします3。組織の結束は一種の保険となり、企業はストレス下でも迅速に連携し、ショックを吸収し、実行力を発揮することができます。また、チームワークは研究開発投資の増加とも相関しており、短期的に利益率が圧縮されたとしても長期的なイノベーションを実現しようとする企業の姿勢を示す指標となります。

例:2011年の東日本大震災時のトヨタ

トヨタ自動車の生産システムには、「現地現物」という現場を重視する問題解決思考と、工場レベルで責任を共有する仕組みが取り入れられています。地震でサプライチェーンが寸断されたとき、各部門が協力してサプライチェーン各社の相互依存関係を迅速に把握し、生産順序を組み直し、サプライヤーと協力して生産体制を安定させました。混乱の震源地に最も近い場所にありながら、トヨタは多くの世界展開する同業他社を上回るペースで回復しました。これは、チームワークが負の環境を凌駕する価値をもたらした好例といえます4

3. 誠実性:阻害要因にもなるが安定性をもたらす要素 

誠実性は明らかなリターンをもたらすわけではなく、静かに効果を発揮します。今回の研究によれば、誠実性はボラティリティとベータ値(市場感応度)を確実に低下させ、リスクが高まる局面での下振れリスクの抑制に寄与していることが確認されました。これは、公益事業セクターや被規制産業は誠実性が高いスコアを示す傾向にある理由の1つと考えられます5。投資家は誠実性を、信頼、規律、法令遵守の指標として捉えています。ただし、その同じ研究で、負の側面も明らかになっています。素材、資本財・サービス、金融などの資本集約型セクターでは、誠実性のスコアが高い企業は、特に不確実性が高まる局面で短期リターンが低下する傾向が見られました。市場が積極的なリスクテイクを評価する環境下では、保守的な姿勢は柔軟性に欠けるように映るためです。誠実性はテールリスクを軽減する一方で、成長率や利益率を抑制することもあります。

例:世界金融危機時のGoldman Sachs  

Goldman Sachsは、2008年よりはるか以前から、管理部門の位置付けを意図的に高め、リスク管理やコンプライアンス部門がリアルタイムでトレーディングデスクに異議を唱えられるような文化を醸成してきました。また、慎重な判断が尊重される体制が構築されてきました。このような企業文化は、市場環境が良好な時期には業績の上振れ余地を抑える要因となりましたが、市場環境が急変した局面では会社を守り、深刻な損失の回避につながりました6

事例:Compass Group ‒ 企業文化に基づく優れた事業運営体制 

MFSの保有額:約16億5,000万米ドル

労働集約型で業務の複雑性が高いビジネスにおいては、企業文化は抽象的な概念ではありません。こうした企業では、企業文化が安全管理、従業員の定着率、顧客定着率、ひいては財務パフォーマンスに表れます。Compass Groupの事例は、企業文化が隠れた資本としてどのように機能するか、また積極的なエンゲージメントによってその価値が可視化され得るかを示す好例です。

同社は世界数万カ所の顧客施設でサービスを提供しており、現場の従業員がサービス品質の根幹を担っていることから、事業運営リスクが高いといえます。MFSは複数回のエンゲージメントを通じて、同社の理想や目標よりも、企業文化が現場レベルでどのように管理・測定・強化されているかに焦点を当てて対話を行ってきました。

対話では、単なるコンプライアンスの遵守ではなく、企業文化を示す指標としての安全衛生管理について繰り返し取り上げています。同社は安全管理の指標で同業他社を一貫して上回っていますが、最近、休業災害率の開示を一時的に停止することを決定しました。MFSは業務品質を示す明確な指標としてこのデータを重視していることから、同社の安全管理のグローバル責任者と対話を行いました。同社の経営幹部は、MFSが業務規律と現場文化の指標として休業災害率を重視する理由を理解し、開示の再開に前向きであることが確認されました。公表しにくいデータについて再び対話しようとするその姿勢自体が、同社の文化的成熟度を示すものであると考えます。

また、MFSは従業員の離職率について継続的な議論を行っています。人材の流動性が構造的に高い業界において、離職率は重要な指標です。同社の離職率は20%台後半で推移しており、同業他社を大きく下回る水準にあります。これは、研修、現場レベルの責任体制、管理職の継続性を重視する同社の企業文化を反映しています。経営陣は離職率に関して透明性を確保することの重要性を認識しており、事業部門のマネジャーの離職率を含む、より包括的な開示を検討する意向を示しました。上述したように、企業文化は単なるスローガンではありません。指標の測定とステークホルダー(従業員・株主の両方)に対する説明責任を経営陣がどれほど真剣に捉えているかに表れています。

重要な点は、この文化的基盤が、投資家が重視する成果をもたらしているかどうかです。同社は数万カ所もの施設で再現性の高い事業運営を確保することで、高い顧客定着率、景気低迷期への耐性、そして同業他社を上回る成長力を維持しています。このような一貫した事業運営は、中央集権的な体制で実現できるものではなく、組織文化として定着していなければ実現不可能です。

重要な点は、この文化的基盤が、投資家が重視する成果をもたらしているかどうかです。同社は数万カ所もの施設で再現性の高い事業運営を確保することで、高い顧客定着率、景気低迷期への耐性、そして同業他社を上回る成長力を維持しています。このような一貫した事業運営は、中央集権的な体制で実現できるものではなく、組織文化として定着していなければ実現不可能です。

今後の投資に向けて

数字は過去を、企業文化は未来を示してくれます。今回のオックスフォード大学との共同研究では、我々が長年にわたり感じてきたことが証明されました。それは、企業文化は株価に織り込まれうるものであり、定量化することができ、そして企業文化を基に将来のリターンを予測することが可能であるということです。企業文化は行動を形づくるだけでなく、市場そのものを形成します。ディスラプションの環境において揺るぎない優位性をもたらすのは、貸借対照表には表れない要素です。

投資家が今考えるべきは、企業文化が重要かどうかではなく、企業文化を重視した投資行動を取る準備ができているかどうかであると考えます。なぜなら、次のサイクルでは、無形資本こそが有形の優位性をもたらす可能性があるからです。

 

 

 

巻末脚注

1 図表1: Financial Returns to Corporate Culture - Oxford Research. August 2025.
2 Moderna vaccine becomes third COVID-19 vaccine approved by UK regulator - GOV.UK, Moderna vaccine trial's results bode well for Oxford/AstraZeneca jab | Vaccines and immunisation | The Guardian
3 Financial Returns to Corporate Culture - Oxford Research. August 2025.
4 Leadvent Group | Toyota, earthquake, resilience, supply chain, disaster management
5 Financial Returns to Corporate Culture - Oxford Research. August 2025.
6 2010-0630-Broderick.pdf
7 MFSの2026年2月2日時点の保有額

MFSは、発行体との対話において、投資判断やファンダメンタルズ分析、エンゲージメントに環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を組み入れる場合があります。当レポートでの記述や例は、MFSが一部の発行体の分析または発行体との対話において、ESG要因を組み込んだケースを例示したものですが、すべてまたは個別の状況における投資またはESG行動、エンゲージメントにおいて成果をもたらされることを保証するものではありません。MFSは、ESGトピックに関するエンゲージメントを含め、企業とのエンゲージメントを行う際、MFSのお客様の長期的な経済的利益に資する十分な情報に基づいた投資判断を行うことができるよう、企業の長期的な経済的バリュエーションにとって重要となり得る事項について議論し、情報を収集し、適切な透明性を追求することに重点を置いています。MFSは、企業の支配権の変更や影響を与えることを目的としてエンゲージを行うことはありません。エンゲージメントは通常、発行体との継続的なコミュニケーションで構成されます。発行体とのエンゲージメントが必ずしも発行体のESG関連の取り組みに直接変化をもたらすとは限りません。当レポートで示されているような投資やエンゲージメントの成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資判断や投資分析、エンゲージメントにどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があり、通常、特定のESG要因の関連性と重要性に関するMFSの見解(投資家を含む第三者の判断や意見とは異なる場合があります)に基づいて決定されます。当レポートで示されている例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因をも代表するものではありません。MFSによるESG評価やESG要因の組み入れは、第三者(投資先企業やESGデータベンダーを含む)から入手したデータに依拠する場合があります。これらのデータは、不正確、不完全、一貫性がない、最新でない、または推定値である可能性があり、投資先やそのバリューチェーン全体のサステナビリティに関する特性や行動ではなく、特定のESG側面のみを考慮している可能性があるため、投資に関連するESG要因に関するMFSの分析に悪影響を及ぼす可能性があります。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきでありません。

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