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Strategie aktuell
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AIリスクはソフトウェア・セクター以外にも拡大

本稿では、AIがもたらすディスラプションがソフトウェア・セクターのみにとどまらず、他のセクターにも拡大しつつあるとのグローバル・インベストメント・ストラテジストRobert Almeidaの見解をご紹介します。構造的変化が進む局面で勝者と敗者を見極めるには、綿密なリサーチと連携が必要です。

執筆者

Robert M. Almeida
ポートフォリオ・マネジャー兼
グローバル・インベストメント・
ストラテジスト

概要

  • AIがもたらすディスラプション(創造的破壊)に伴うリスクは、ソフトウェア以外のセクターにも拡大しつつあります。
  • AIは、参入障壁を低下させることも、強化することも可能です。
  • ディスラプションは投資機会をもたらします。ただし、それを捉えるには綿密なリサーチと連携が必要です。

前回のレポート「AIはソフトウェア株のストレスに」では、ソフトウェア産業が直面しているディスラプションのリスクについて取り上げました。AIは既存の製品に後付けして使うような単なる生産性促進ツールではなく、スイッチングコストを低下させたり、ソフトウェア分野の競争を加速させる可能性があるとの見方を示しました。ただし、そのリスクの広がり方は一様ではありません。 

単純な業務フローやデータ保管庫は今後AIに代替される可能性が高い一方で、信頼や説明責任の上に成り立つ複雑な業務フローを支える重要で複雑なコードは、AIによってむしろ強化される可能性があります。そして上述のレポートを発行してからこれまでの間に、市場の懸念はソフトウェア以外の領域にも広がっています。

ディスカウントの視点の拡大

当初、株価の再評価が進んでいるのはソフトウェア・セクターのみと見なされていましたが、下図に示すとおり、ディスラプションリスクは足元で複数の産業に広がっている模様です。

software compared to rest of S&P 500 oct 1 2025 to feb 3 2026 graph

上記のセクターに共通しているのは、テクノロジーへのエクスポージャーそのものではなく、情報の非対称性や手作業に依存するビジネスモデルであるという点です。

その特徴として、以下が挙げられます。

  • 情報の非対称性 ‒ 格付機関やインデックス・プロバイダーなど、独自の知識や優れたリサーチを基盤とするビジネス。
  • 人間の専門知識 ‒ 人材が資本である企業、具体的には助言、デザイン、コーディング、分析、その他の認知サービスを提供する企業。企業が持つ判断力と専門性に対して顧客対価が支払われる。
  • 非効率なプロセス ‒ 給与計算処理や信用・身元調査のように、業務フローの多くで規模・調整・手作業などを必要とするビジネス。参入障壁が高い。
  • 限界費用の高いコスト構造 ‒ 労働力を主たる投入コストとし、かつサービスが反復可能あるいはプロセス駆動型であるビジネス。

AIはこうしたビジネスに変革を迫っています。認知コストを低減させ、反復のスピードを上げ、能力の再現に要する時間を短縮することが期待されます。それが実現すれば、マージンの持続性や長期的な競争力に不確実性が生じます。言うまでもなくこれは市場が最も重視する点であるため、こうした銘柄ではボラティリティが上昇しています。

ただし、ディスラプション(創造的破壊)は破壊と同義ではありません。上述のように、AIは障壁を破壊する存在にも、増幅させる存在にもなり得ます。コモディティ化は、一部のアプリケーション・レイヤーのプロバイダーにとっては真のリスクである一方で、インフラやデータレイヤーなどのビジネスにとっては逆に追い風となる可能性があります。データベース、データマネジメント・プラットフォーム、重大な記録システムなどは、AI対応の世界において戦略的価値が高まる可能性があります。AIモデルが急増するにつれて、正確で独自の、且つ適切にガバナンスされたデータの重要性は高まっていくはずです。

ボラティリティは、市場において将来予想される結果の分布状況を反映します。状況は急速に変化しており、新たな不確実性が顕在化したり、これまでの利益前提が改変されるなどしています。

こうした局面はリスクをもたらしますが、同時に投資機会となる可能性もあります。競争優位性がどこで低下しつつあり、どこで高まり得るのかは、我々が見極めなければなりません。

ジェヴォンズのパラドックス:AIのリスクと機会の捉え方

19世紀、経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズは、効率性が向上すると、それに伴い消費が増加することを発見しました。石炭価格が値下がりすると使用量が増加し、工業生産を拡大させ、その結果として総需要を押し上げるといったようにです。

近年、テクノロジーの分野でも同様の動きが見られています。コンピューターの運用コストが低下するに伴い、半導体チップの使用量が減ることはなく、むしろ、ほぼあらゆるデバイスや業務フローにコンピューティング機能が組み込まれてきています。同様に、クラウドストレージのコストが低下すると、それに伴い、データ量は爆発的に増加しました。

AIによる分析、コード、コンテンツ、アドバイスなどの生成にかかるコストが低下すれば、こうした付加価値のあるアウトプットへの需要は減少ではなく増加し、同様の効果を生み出す可能性があります。例えば、AIで財務データの分析コストを低減できれば、投資家ははより多くの分析やシナリオ、リアルタイムの洞察を求めるようになり、データの総消費量が増大するとともに、足元で投資家が割り引いている一部の企業の戦略的価値が高まる可能性があります。

独自のデータ、システムやツールに統合された業務フローや広範な販売網を有する企業においては、限界コストの低下は利用量の増加やネットワーク効果の向上につながる可能性があります。AIがデータの活用、モデルの微調整、統合上生じる課題への対処を通じて規模の利益を増大させれば、すでに強みを持つ既存企業は、その優位性が一段と拡大する可能性があります。

そうした意味で、現在起きている状況は、収益性の全面的な崩壊というよりも、むしろ、産業内における収益力の再配分であると考えられます。

結論

投資家として我々がすべきことは、産業を一律に「AIの勝者」や「AIの敗者」に分類することではなく、競争優位性がどこで強化され、どこで低下しているのかを見極めることであると考えます。投資判断に際して問うべきは、特定のテクノロジーがあるかどうかではなく、競争優位性が持続可能か否かということです。

構造的変化が進む局面では、従来の前提が奏功することはほとんどありません。ベンチマークは過去を反映しているにすぎず、将来を示唆するものではありません。このような環境においては、差別化された見解を形成する能力の価値が一段と高まり、そのためには、既知に基づく推定ではなく、綿密な分析と連携が求められます。

市場が「無罪が証明されるまでは有罪を疑う」姿勢でいる中では、慎重に精査することで、構造的な悪化と強化とを見分けることができます。投資機会を捉えるには、AIの導入スピードを予測することではなく、経済の力学がどこに集積し、どこで衰退していくかを見極めることが重要です。 

 

 

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